aph 『英国シンシの憂鬱』
■英国シンシの暴走■
どこにいるんだ……諜報局の奴ら、いい加減な情報持って来たんじゃないだろうな。
日本のやつが繁華街のピカデリーサーカスから通りを北上している、と聞いたから、先回りして大英博物館の方から南下してきたんだが。
このままじゃ目撃地点についちまうな……
この道を右奥へ入ったらポリスの建物だ。この先は目撃地点。きびすを返してもう一度北上する。
「どこですれ違ったんだ……やつが入りそうな店は覗きながら来たつもりだったのに」
再びキョロキョロと店や小路を覗きながら、ああ、結局また大英博物館の近辺まで戻ってきちまった。
「ちきしょう、あいつ小柄で特徴あるからもうちょっと目立つと思ったんだけどな……」
ロンドンの街は予想以上にエスニックになっていて、小柄のアジア顔も黒髪も、あふれかえって何の特徴にもならなかった。
国際会議や会談の会場で奴を見つけるようには簡単にいかないと知って不安になる。……俺に見つけられるんだろうか?
その時ふと、以前何かの折にあいつが好きだと言っていた言葉を思い出した。
――考えるんじゃない、感じるんだ!――
良くわからないが日本の文学か何かの中に出てくる登場人物の有名なセリフだったと思う。
たしかにあいつの行動はときどき想像がつかない。俺の考えであいつが行きそうなところを覗いても見つからないのは当然かもしれない。
直感に頼るんだ。集中しろ俺!
魔法陣でデーモンを呼び出す時のように!
ふわ、と風が吹いた。
何故か日本のにおいがした気がした。
振り向くと、まさに俺が背にしている公園の木立の下に、奴にそっくりな頭が歩いていく。
あいつだ!!
植込みの間から、頭より下の姿も見えた時、俺の目は奴の手元に吸いつけられた。
あの白いパッケージ……
何をみまごうことがあろう、典型的フィッシュ&チップスお持ち帰り中の姿だ! あいつ、食う気だ!
3秒後には俺は日本にあと10メートルの所まで走りたおしていた。
自己新記録、更新しただろ。多分な。
作品名:aph 『英国シンシの憂鬱』 作家名:八橋くるみ