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aph 『英国シンシの憂鬱』

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■N国シンシの陰謀■



「まったく、なにやってるんだよ!」

 あああ〜、イギリスさん、明らかに不機嫌です! 怒ってらっしゃいます! ほんのちょっと約束より早く来てしまっただけなのに、そんなに怒らなくても……
 ですが、「到着予定が決まったら連絡しろよ」と言われていたのに連絡もしなかった私が約束破りだと言われれば、言い訳することはできません。
 しかもものすごく睨んでます。私を、ではなくて、私の持っているフィッシュ&チップスを。

「とりあえずそれをこっちによこせ」
「え、でも、これは」
「それはダメだ。三杯食える俺専用だからな」
「ですが…」
「いいから!」
 イギリスさんはいかにもじれったさそうに私の持っていた白い容器を奪い取ると、即座に蓋を開けて中のフィッシュフライを半分以上、口に詰め込みました。

「……食べかけですよ?」
――案の定、イギリスさんは想定外だったようで、噴き出しかけ、なんとかこらえたものを今度は吸い込んでしまったのか、顔を真っ赤にしてゲホゲホと咳込みました。
「く、食ったのか……?」
「ええ……すみません、私が食べてはいけないものだったとは存じ上げず」
 明らかに狼狽している様子のイギリスさんを見て、どうやらフィッシュ&チップスのトレイを取り上げられてしまったことには裏にわけがあるらしいということをやっと察しました。
「ほ、他にも何か……食ったか?」
「……」
 思いだしたくもない、堅くてカサカサのあのトリや、ゴソゴソのボソボソだったホテルの朝食がふたたび思い出されます。
 黙り込んでしまった私を見て、イギリスさんはうなだれました。
「食ったのか……」

 どうやらイギリスさんは私が何か食べることについて心配していたようです。たしかに気分が打ちのめされそうになる程の思いをしました。ですが、それもイギリスさんに内緒で勝手に適当なお店の食事をとったせいです。
 多分イギリスさんはこうなることがわかっていて、私がそういう目に逢わないようにイギリスさんなりに気を遣ってくれていたのに違いありません。
 
 イギリスさんの手には、無理矢理にも詰め込み切れなかった魚……。

 私は自分が一口かじった跡を指さしながら、言いました。
「いいえ。食べたのは、そこだけですよ」

 イギリスさんの顔がパッと明るくなりました。