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ちょめっ斗
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届かなかったラストレター

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今は星を受け継いだのは承太郎だけではなく、ジョセフや仗助もいる。
そう思うと、これは永遠だと…DIOのような温もりのないものではなく、暖かい繋がりの永遠だと解る。
承太郎はDIOに殺されたという先祖のジョナサン・ジョースターを知らない。
それでも彼がこの星の血を命がけで守った事は知っている。

だからこそ、承太郎は結婚に迷って居るのだ。
彼のような精神を持って居れるかの不安も、あるのだ。

そう、考えながら承太郎はソッと後ろ肩にある星を撫ぞった。

この栞代わりにしている紙の持ち主が誰だかは知らないが、承太郎は少しの興味と共感を覚えて机に放ってあったペンを取って一文字書きくわえた。
上質な紙はとても書きやすいな、なんて思いつつ――…

【俺もその言葉は好きだぜ】

と、一言、彼の言葉に共感したのだと添えた。
学者になって口調を変えた承太郎だったが、この本を通した相手には少し前の自分を取り戻したような感覚に陥った事もあって、一人称や口調を戻した言葉でペンを滑らせた。

そして承太郎が初めて本に紙を挟んで居る相手にコメントを残した次の日もまた、休憩時間に承太郎の部屋で椅子に座り、机に置いてある本を開いた。
本を確認すると、また自分の挟んで居る栞より数ページ先に例の紙が挟み込まれているのを見て、ふっと笑みが漏れる。

この紙がある所まで読めば、大体休憩時間終了の10分前くらいに読む事を辞められる丁度いい位置に毎度あるので、承太郎が休憩時間過ぎても読む耽る事はなくなった。
更に、その礼の紙に書かれてある一言も承太郎の楽しみの一つになっている事に気付いて、自分でも自分がおかしいと苦笑いを零した。

今日も礼の紙があるまで読み終わると、その紙があるページに栞を挟んで紙に描かれている事に目を通す。そこに書かれていた言葉に承太郎は予想通り律儀に返事を返してくれていた。

【僕の他に共感できる人が居るなんて嬉しいな。初めまして、僕以外にもこの本を読んで居る人が居るとは知らなかったよ。嬉しいな。僕はジョナサン。キミは誰だい?】

これをきっかけに承太郎はジョナサンと名乗った男をの本を通した、奇妙な文通が始まったのだった。
何の疑問も浮かばずに―――…。


 * * *


そうしてはじまった奇妙な文通はあれから毎日続けて、もう一か月になっていた。
本ももう半分を読み通り越している。
後半に入り込んだ頃には、承太郎はジョナサンと名乗るこの男に会って見たいと思うようになっていた。

ジョナサンはどうやら頭のいい義理の弟が居て、子供の頃は何を考えているか解らない突然出来た弟に苛められていたのだと言った。
今でも彼が何を考えているのかがわからず、恐ろしいと思う事があるのだという。
それでも挫けず、紳士的でいようとする自分とは正反対の男に、一日明けでする会話をする度に彼に一目会って見たいと思うようになったのだ。

承太郎はジョナサンと正反対の性格をしているが、話せば彼の考える事は少し古くて承太郎には新鮮に感じられて面白かった。
きっといい友人になれる…と、承太郎は思ったのだ。

だから、何度もこの本を見張っていたし、出来る限り本を近くに置いて居た。
それなのに本を閉じて、次に本を開くとページは進んでいて、紙は移動をしてしまっている。
何らかのスタンドかと疑いを持って、ジョナサンに尋ねた事もあった。

【あんた、スタンドって知ってるか?】

【stand upってこと?】

と、解されてしまったのだ。
この男と話していて、ウソをつく事はしない人間だと言う事は短い間で承太郎も理解した。そしてジョナサンには天然が入っている事がある。
どうやら彼はスタンド自体を知らない事は瞬時に理解した。

彼がスタンド使いである可能性は低い。
そして、何らかのスタンドが関与している事の可能性も薄い気がしていた。
スタンドがこの本に関与していたとして、ジョナサンと会話できるだけの本に何の意味を持つのかと自問自答してみても答えは出ない。

更に、文通相手のジョナサンの時代背景も可笑しいと思い始めたのは、最初の頃より長くなった文通になった頃だった。
そしてやっときちんとした疑問になったのは、ジョナサンの書いただろう文章を読んでからだった。

【承太郎。ずっと不思議だったんだけど、承太郎はいつこの本を読んで居るんだい?
この本は彼に見つからないように僕の部屋の鍵付きの机の引き出しに入れているのに…】

と、驚きの言葉が並んでいて、承太郎は驚きで言葉を失った。

驚いた。
何が何だかわからない。
こっちだって本にいつ紙を挟ませているのか解らない相手を探そうと、ずっと手元に置いてあった。
それなのに閉じた本は数時間すると紙はページが進んだ場所に挟まっていた。
ジョナサンはジョナサンでずっと自室の机の中にあったと言って居る。

「何がどうなっていやがる…」

これではこの本自体が勝手に移動していると言う事になってしまう。
そんなバカな…と、承太郎は頭を抱えつつ、今日の昼食休憩時間を終えた。

だが、時は進む。
止まることなく、本人達が戸惑って居る時間も与えない程に、残酷にも時は進んでいくのだ。
それはジョナサンの一言から始まった。

【もし、神様が与えてくれた奇妙な出会いがキミだったのなら、僕は心から感謝する。
キミの存在があったから僕は一人じゃなかった。一人である事を平気に思えた。

父が病に倒れた。だが、僕には本当に病なのか疑わしく思って居る。
それを調べようと思うんだ。だから少し不定期になってしまうが、僕はこの本を最後まで読むつもりで居る。

キミとのこの文通は僕の心のよりどころだ】

今までのジョナサンの穏やかさがかけたような言葉に違和感を覚えつつ、何故か胸騒ぎを感じて、何故か気になった肩筋にある自分の星を撫ぞりながら承太郎は眉を顰めた。

「………何が、起こってるんだ、あんたの周りで…」

何故か、確信もなく自分が受けついた星に関わりがある気がした。


 ***

毎日行って居たやり取りは不定期になりつつも、ジョナサンは律儀にも礼の日から3日後にはもう一度その本を読んで、再び一言を挟んで居た。

【今、帰りの馬車の中だ。
やはり父は病で倒れた訳じゃなかった。
どうやら僕は彼との青春に決着をつけなければならなくなるかもしれない】

と、何かを決意した様な言葉が並んでいた。
承太郎には何のことかわからないが、恐らくジョナサンは義弟と何らかの決着をつけようとしている事がわかった。普段より力の籠った字に少なからず不安がよぎりつつも、承太郎もジョナサンに伝わればいいと、一言書きくわえた。

【無理するんじゃねえぜ】

と。


それから2日後の事だ。
ジョナサンがもしかしたら自分の先祖である“ジョナサン・ジョースター”であると疑いを持ったのは偶然の事だった。

たまたま実家に置き忘れた本を取りに行った日、いつもの事ながらタイミング良くも悪くも、突然ジョセフが我が娘のホリィと孫の承太郎の顔を見に訪れた事によって疑いを持ったのだ。