届かなかったラストレター
ジョセフが空条家に訪れた内容が、この間ホリィが自分や承太郎のアルバムを広げて見ていたことから始まった事だった。
「ほれ、ホリィ…この人がワシの祖父のジョナサン・ジョースターじゃ」
ジョセフの亡くなった父や祖母は何枚も写真があったが、ジョセフの祖父は見た事がないとジョセフに一言行ったことから、ジョセフは自分の持っているジョナサン・ジョースターの写真と、友人であったというスピードワゴンが大事に持って居たというのがSPW財団にある事を知っていたので、頼み込んでコピーして貰って今日、それを見せに来たのだ。
「この人が…」
「それにしても急に祖父ちゃんの顔がみたいだなんてどうしたんじゃ?」
「別になんでもないのよ?ただ、私たちにはいっぱいアルバムがあって昔を思い出せるのに、パパのおじい様のお顔を知らないのは寂しいって思ってしまって…」
「おおっ、ホリィは優しいのぅ!流石ワシの娘じゃッ」
DIOと闘う前に少しだけ100年もの間、海底に沈む事になったDIOの話は聞いていたが、
承太郎は、ジョナサンがDIOの義兄弟であって、DIOに酷い目に合って殺されたという大まかなコトしか知らなかった。
「どういう人だったのかしら?」
「そうじゃのぉ、ワシもエリナおばあちゃんやスピードワゴンのじいさんから聞いた大まかなコトしか知らんが…それでも良いか?」
「ええ、ええ!もちろんよ!」
「そーじゃのぉ、ワシの祖父ちゃんは…ジョースターという金持ちの家の一人息子だったらしい。だが、誰かを見下す訳でもなく、心優しく、いつでも紳士を目指していたと聞いている。ワシや承太郎とは正反対の男だったようじゃ」
「あら!パパも承太郎も優しいわ、解りにくいだけよ!」
ジョセフの言葉にホリィが食いつくが、ジョセフも苦笑しながら頷く。
承太郎もそれを聞きながら『やれやれ』と内心呟いて帽子の唾に振れた。
「じゃが祖父はワシたちと違って表に優しさが解るほどの男じゃったらしい。ワシ等は彼のように紳士紳士できるような種類の男じゃないんじゃよ」
「ふぅーん?」
「そんな祖父ちゃんの父親がある日病に倒れた。じゃが、それは病ではなくDIOがジョースター家を乗っとる為に父親に毒薬を飲ませて殺そうとしていたんじゃ…」
「!?」
ガタっと音をたてて承太郎が驚いた表情をジョセフの方を向いた。
「ど、どうしたんじゃ?そんな血相変えた顔しおって…」
今までなんとなしに聞き流していたと思って居た承太郎が、ジョセフの言葉の後に持って居たお茶をテーブルにぶちまけた事に驚いて此方を向いてるジョセフと慌てて布巾を片手に近付いてくるホリィを見ながら承太郎の頭の中は混乱の渦に巻き込まれていた。
ホリィが火傷はないかと承太郎に聞いてくる声さえ耳に入らない程に驚いた内容をジョセフの口から語られたからだった。
だってそれは本人によって聞いたことのある話だったから。
「………悪い。平気だ…続けてくれ」
帽子の唾を更に下げて、2人に動揺を悟られないよう顔を隠す。
ホリィもジョセフも承太郎の様子を少し気にしながら、その後も話を続けることにした。
それは、承太郎には衝撃的だった。
ジョナサンは結局父親は自分を狙った義弟であるDIOのナイフから庇って亡くなった。
その時に“石仮面”という特殊な能力をもった仮面を被った事によってディオは人間を辞め、炎に塗れたジョースター邸でジョナサンとDIOの命をかけた一騎打ちになった死闘を行い、瀕死になりながらジョナサンは勝利した。
その勝利後、ジョナサンはDIOのせいで引き裂かれた恋人のエリナに再会を果す。
だが、DIOとの戦いはそれでは終わらなかった。
実は生きていたDIOはジョナサンの手の届かない場所で他の街の人間に手を出し、回復を計っていた。
そしてジョナサンも師を付け、DIOと闘う術を身につけて、再び彼等は死闘を繰り広げたのだと言う。
その時もジョナサンは辛い闘いに身を投じ、仲間や師を亡くしながらも、DIOに勝利を果した。
首だけになったDIOに勝利したはずだった。
「じゃが、それも終わりではなかった。ワシの祖父ちゃんはエリナおばあちゃんと結婚した。結婚後の新婚旅行の船旅に首だけになったDIOが僕を使って祖父ちゃん達の乗る船に乗り込んできて――…そして、船の中で祖父ちゃんと闘った。その時、祖父ちゃんは命をかけてワシの父親を身ごもったエリナおばあちゃんを守った…じゃから今のワシ等があるんじゃよ」
悲しそうに写真でしか知らないジョナサンを思ってジョセフは思った。
ホリィもジョナサン・ジョースターの一生を聞いて涙を流している。そんなホリィにジョセフは『ワシ等は彼に感謝しなければならないのぉ』と頭を撫でながら、ホリィを慰めた。
その後、ジョセフは仕事のようもあって此方に寄っただけだった事が判明して、一泊して帰っていった。
承太郎も仕事があるので、取りに来た本を取って仕事場である研究所の方に戻る飛行機に乗りつつ、ジョセフに語って貰った事を頭の中で何度も繰り返していた。
そして、今手元にあるジョナサンとの繋がりを持つ本を開くと、ジョナサンは再び読んだのだろう。自分が入れていた栞の場所から紙が移動していた。
自分も飛行機の中で本を広げてジョナサンの上質な紙が挟んだあるだろうページまで読み耽った。そして紙には承太郎の予想した言葉が書かれていた。
【心配してくれてありがとう、承太郎。
包帯だらけで情けない格好だけれど、なんとか地獄から戻って来れたよ。
でも、まだ終わりそうにないんだ。
また不定期になってしまうけど、出来る限りキミとの文通を続けたいと思って居る。
全てに決着を付けたら、いつかキミと会って見たいな。】
それを読んで承太郎は、静かに涙を流した。
最後の願いは叶わない。叶う訳がない事を知ってしまったからだ。
ジョナサンのおかげで未来で生きて居る自分が、100年以上前に生きる過去のジョナサンの会えるわけがないからだ。
それでも、承太郎はどうにかジョナサンの運命を変えたいと考えた。
この本を使って、ジョナサンがDIOに身体を奪われて死にゆく運命を変えられたら、と考えた。そんなことをしたら後々どうなるか解ったもんじゃないが、そんなことは承太郎はどうでもよかった。
自分に影響が振りかかってくるのなら自分が全部を受け止めてやるし、ジョナサンが死ななければ何でもいいと、現在の承太郎はそんなことしか頭になかったのだ。
ジョナサンの手紙に残した言葉が情けない文章になってしまったの事は承太郎も無自覚だった。
【あんたがやらなきゃならないことなのか?
もっと他に決着を付けられる人間がいるんじゃねえのか?】
と。
普段の承太郎にしては弱気な発言を残してしまったのだ。
だが、それがジョナサンの正義心が火をつけてしまう事になるとは、その時の承太郎には考えられなかった。
【心配してくれてありがとう、承太郎。
僕の代わりに誰かが傷つくんだったら僕が一人で背負って戦いたい。
誰か知らない人でも僕が守れる人なら守って戦いたいんだ。
僕はきっと勝つよ。】
作品名:届かなかったラストレター 作家名:ちょめっ斗