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この馬鹿に悲劇は似合わない

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 蟇郡苛にとっての満艦飾マコを、一言で説明するのはとても難しい。
 彼が忠誠を誓っている鬼龍院皐月と彼女の唯一にして一番の親友である纏流子は敵対しているものの、だからといって満艦飾も「敵」と一言で切り捨ててしまうには違和感を覚える。しかし「皐月様の敵の友人」、もしくは「本能字学園の一無星生徒」として蟇郡と彼女の間に何もないように装うのもおかしい。
 では彼女が蟇郡の友人なのかと問われれば彼は否定するだろうし、知人かといわれると確かに文字通り「知っている人物」ではあるが「知人」という言葉に一般的に含まれるニュアンスと一致しないと首をかしげるだろう。
 これが自分と同じく鬼龍院皐月の下に控える四天王――蛇崩や犬牟田、猿投山であれば、彼らにとっての満艦飾を「敵」「皐月様の敵の友人」「本能字学園の一無星生徒」と、先ほど蟇郡が違和感を覚えた言葉で説明するのかもしれない。しかしこの内のどれもが口ごもる蟇郡を断言させるには至らなかった。一体彼らと蟇郡では何が違うのか。
 彼が彼女に抱く情とは何なのか。

 蟇郡は、満艦飾マコに一目置いている。
 始まりはノー遅刻デーにおいてのパジャマに関してのやりとりであった。あのやりとりは他の四天王も把握しており、後でからかわれたり笑われたりデータをとられたりと散々な目にあったが、それでも蟇郡は満艦飾を恨んだり無理やり丸め込まれたと感じたりすることはなかった。彼女の主張論理は確かにハチャメチャだが、彼女の生き様が全力で紆余曲折を経ながらもそれでも前に前に進んでいるように、単に彼女が親友を助けるためだけに口先でパジャマの必要性・重要性を説いたわけではなく、真に「パジャマを着ずに寝たら風邪をひく」と考えた故だったと信じているからだ。確かにいくら自分が鍛えており健康に自信があるからといって、寝る時にパジャマを着ないのは己の怠慢だったと今では蟇郡は思っている。裸で寝ている間風邪を引いたことはなかったとはいえ、それでもその可能性を少なくすることは重要だ。あのときに初めて彼は満艦飾の名前と顔を覚えた。今となってはあんなにも個性の強い人間を顔も名前もそれまで覚えていなかったことが不思議でたまらないが、そもそも星の数によって住む場所や交通機関、使う教室が違ってくる本能字町で、三ツ星である彼が無星と近しく対等に交流をすることなど纏が転校してくるまでは考えられなかったのだから知らなかった方が普通だったのだろう。
 それから満艦飾が喧嘩部の部長となった時や、どこかへ出かけた帰りにバイクの故障で立ち往生していた彼女を纏と一緒に車に乗せて家までおくった時に顔を合わせ言葉を交わしはしたが、最も彼女と近しく言葉を交わしたのはやはり蟇郡が纏に負けた後、応援席で彼女と隣り合って喋っていた時だろう。「私は死ぬ気で流子ちゃんを応援しますから! いくら先輩でもその邪魔はさせない!」と息を巻いていった彼女とのやり取りは思い返せば実に愉快だった。
 愉快! これまでの人生で愉しいと感じたことなど何度あったか!
 彼が鬼龍院皐月に付き従うことを辛い、苦しいなど思ったことは一度もないが、だからといって愉しいということもなかった。蟇郡が鬼龍院皐月に抱く感情は崇拝である。敬愛である。信頼である。それらは決してマイナスなものではないが、「愉快」という感情と近しいものでもない。
 対しての満艦飾マコである。彼にとっての鬼龍院皐月は特別という枠にすら収まらないものであるからにして、彼女と比べることも酷く難しいが、満艦飾に抱いている感情は、と言われるとどうしても蟇郡は「彼にとっての満艦飾マコ」について考えた時のように口ごもってしまうだろう。
 敵ではないのだから敵対感情は抱いていない。むしろ彼女の在り方は好ましいさえと思っている。鬼龍院が治めている本能字学園の生徒であるのだから庇護すべきではある。彼女は、気づけばするりと内側に入ってきて絆されてしまう、懐かれているわけではないのに、じゃれかかられて邪険にすることができない小動物。無意識に気にかけ、気にしてしまう不思議な存在。と、このように、鬼龍院皐月にはいくつかの熟語ですっきりと述べられたのに、満艦飾について考えるとやけに分散してしまい、流石満艦飾、やはり彼女を何かの形に押し込めたりこれだと決めつけることはできないのだ、とどうしても匙を投げざるを得なくなってしまうのだ。

 そんな彼女が襲学旅行についてきてしまったのは、有事だからと反省房送りにせず襲学旅団に入団させた自分の責任だ。彼女がどのような経緯を経て纏と合流したのかは定かではないが、そもそも例え纏がいなかったからとはいえ満艦飾が何も起こさずに関西に行って帰ってくると考えていた過去の自分が甘すぎた。そしてあの大阪での戦いである。最初纏が満艦飾を安全な場所へと避難させたことで少しは安心したものの、後に必要もないのに纏と鬼龍院との戦いに割って入ったのを見た時は本気でひやりとさせられた。言いたいことだけ言って、戦いが再開すればすぐに逃げたようだが、思わずそのときだけは意識をほとんどそちらへ奪われてしまったほどだ。そして彼女が落ちてきた纏の鋏に気づいて駆け寄った時。実をいうとあの時のことはよく覚えていない。纏にあの武器を渡してはいけないということはもちろん念頭にあったが、それ以外の自分の感情は単純にして複雑だった。一言でまとめてしまえば、それは恐怖だった。本能字学園の四天王以外の生徒がそれを聞いたらまさかと笑い飛ばすだろう。あの風紀部委員長が恐怖を! しかしそれは確かに恐怖だったのだ。それまで彼女の能力のなさ故に纏に助けられ、纏を応援し、纏を止めるという形で戦いに巻き込まれたり脇で活躍したりしていた満艦飾が「武器を渡す」という形で戦いに参加することを彼はおそれていた。手放されていた武器を渡す。それは人によっては単なる手助けにしか見えないが、他の人によっては戦いに参加しているととれなくもない。これまでの彼女の活躍の仕方とは異なっているのだ。
 あの時、彼女の前に立ちふさがったのが自分ではなく他の四天王だったなら。いつもの満艦飾の調子に、上手く毒気を抜かれて戦いにならなかったかもしれない。単なる一生徒だからと邪魔をする程度にちょっかいをかけるだけだったかもしれない。
 しかし、そうでなかったとしたら。
 そして、あの場は睨み合うだけで終わったが、果たして彼女が武器を纏流子に渡すそぶりを見せていたら、彼は満艦飾に鞭を揮うことができたのだろうか。もしあれがただの見知らぬ無星生徒であれば、無駄に他人を傷つけることを望まないとはいえ、例え本人に当てずとも数発は威嚇のために撃っていたかもしれない。鬼龍院皐月に進言した言葉に他意はなく、彼としては真実思ったままを口にしただけであったが、もしあの言葉が聞き入られず、戦闘が続いていたならば。
 仮定の話など意味がないというのならば、それまでと同じように、親友に敵対する人間に臆することなく真正面から向かい合う彼女を、蟇郡は傷つけることをしなかった。怯えさせることもしなかった。彼女と同様に、向かい合うことしかできなかった。
 それだけが、事実だ。