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甘い甘い毒

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席についてもらって、今日はきちんとお酒を注文した。
再会から笑わせてもらったおかげか、それとも彼の持つ雰囲気のおかげか、
酔いも手伝って我ながらいつもより饒舌だなと思いつつ、
雰囲気に押されることなく、そこまで固くならずにいられた。

一生縁がないと思っていた場所で、私はこの瞬間を楽しんでいた。
1年前のこと、それからのこと、最近のこと、沢山お話をした。
他愛ない話題ばかりのはずなのに、とても満ち足りた時間だった。
"会話を楽しむ"とはこういうことなのかと、今更ながらに思う。



今日が誕生日だということも覚えていてくれたのか、
私が言い出すまでもなく、途中でウェイターさんがケーキを運んできてくれた。
今日飲むのは、ジンジャーエールじゃなくてシャンパンだ。

あの日と同じようにそ〜まさんをはじめとしたホストの皆さんと、
ウェイターさんと、同じ空間にいたお客さんたちにもお祝いしてもらって、
全く無理することなく、自然と心から笑顔になれた。

途中ケーキをつまみ食いしてしまった例のたぬきさんとウェイターさんとの小競り合いが起きたりもして、
本当に楽しくて、幸せで、笑顔の絶えない、素敵な空間だった。
オーナーであるそ〜まさんの人柄がこの空気を作り出しているんだろう。

このままずっとこのままでいられたらいいのにと思う反面、
このままではいられないことも、私は知っていた。



『あの、そ〜まさん。』

「なんですか?」

『私、そ〜まさんに渡さなきゃいけないものがあって。』



ケーキを食べ終えて
もうそろそろ帰らなくてはいけない時間になった頃、私は意を決して口を開いた。

不思議そうな顔をしているそ〜まさんを横目に、バッグに手を入れる。
取り出したのは、薄くて小さな包み。
この1年間、ずっとお守り代わりにしていた。



『1年前にお借りしたハンカチと、それから、新しいハンカチです。
 あの時は、本当にありがとうございました。
 あの日そ〜まさんに助けてもらっていなければ、今の私はいません。』



心を込めてお礼を言って、頭を下げる。
きっとどれだけ感謝してもし足りない。
私をどん底から救い上げてくれたのは、目の前のこの人だ。

「自分のものを返してもらうだけでいい」という彼に、
食い下がって何往復かの問答をした後に、何とか受け取ってもらう。
「大したことはしていない」と繰り返すそ〜まさんに対し、私はかぶりを振った。



『あの日、そ〜まさんに助けて頂いて、言葉をかけてもらって、
 それで私はきちんと前を向いて、生まれ変われたんです。
 全く引きずらなかったと言えば嘘になりますけど、でも、本当に救われました。
 そ〜まさんの言葉のおかげで、もっともっとイイ女になってやろうって、
 誇れる自分になって、また逢いに来ようと思って、頑張れたんです。』



涙でぐしゃぐしゃになった笑顔さえ、綺麗だと言ってくれた。
代金はいいから、自分磨きに使ってほしいと言ってくれた。
今より幸せで、今より綺麗になって逢いに来てほしいと、言ってくれた。

だから、頑張れた。



『実は…あれから何ヶ月か後に、元彼に言われたんです。やり直したいって。』



そ〜まさんの瞳が、一瞬揺れる。



『あの日、そ〜まさんに言われた通りになりました。
 街で偶然見かけて、一瞬見間違いかと思ったって。
 自分から別れを切り出してバカみたいだけど、後悔してるって、
 別れてから大切さに気付いたって、そう言われたんです。』

「それは………」

『でも、断っちゃいました。』



続く言葉が怖くて、間を空けずに言葉を告いだ。
一気に言ってしまわないと、折れてしまう気がした。



『あんなに酔っぱらって大泣きするほどショックだったのに、不思議ですよね。
 よりを戻したいって言われても、心が動かなかったんです。
 "私にはもう他に好きな人がいるから"って言ったら、淋しそうにしてました。
 でも、"そいつのために変わろうって思えるくらい、いい恋してるんだな"とも言われました。』

「…えぇ、本当に。」

『―――――…あなたです。』
作品名:甘い甘い毒 作家名:ユエ