激ニブ星の恋人?
第十一話 続・ハイキングでパニック!
これじゃ、ミノムシ、だ。
そう銀時は思った。
現在の自分の状態についてである。
登山ロープでぐるぐる巻きにされている。
それをしたのは、新八と神楽、というか、主に神楽である。
こんなケダモノを野放しにしておいたら危険アル!
そう主張し、新八に手伝わせて、もういいだろ、と言いたくなるぐらいに何重にもロープを銀時の身体に巻きつけたのだった。
ぐーーー。
腹が鳴った。
ミノムシ状態にされて、地面に転がされ、それからずっと放置されている。
今日は朝早くに万事屋を出発した。
山のぼりで体力を消費したのに、昼飯を食べていない。
腹が減った、と思う。
いつまで自分はこの身動きのできない状態でいなければいけないのだろうか。
そのうち日が暮れるのではないか。
まさか、アイツら、俺のこと忘れて下山したりとかしてねーだろうな。
不安になる。
空腹は困るが、それ以上に、こんな状態で山で一晩過ごすほうが問題だ。
野生動物に襲われでもしたら……。
銀さんピンチ!
である。
逃げることもできない状態で、つつかれたり噛みつかれたりしている自分の姿が、脳裏をよぎった。
そのとき。
ガサガサッ……!
草むらをかきわけるような音が聞こえてきた。
銀時はビクッとする。
敵襲だろうか!?
身体を転がせて、音のしたほうを向く。
「まるでミノムシだな」
桂が言った。
近づいてきて、そばまで来ると立ち止まる。
銀時は、ほっとする。
その横に、桂は腰をおろした。
桂は銀時をミノムシ状態にしている登山用ロープに手をかける。
そして、結び目を解いた。
銀時を縛りあげていたロープが、ゆるむ。
あとは桂の手を借りるまでもなく、銀時はロープを自分の身体から地面へと落とした。
「あ〜、やっと楽になった」
銀時はあぐらをかき、大きく伸びをする。
直後。
ぐーーー。
また、腹が鳴った。
思わず、それをごまかすように前屈みになる。
「ほら」
隣から、桂の声が聞こえた。
そちらを見る。
大江戸マート特製の弁当があった。
桂が弁当を差しだしている。
「今のだけではなく、さっきのも、山中に響き渡っていたぞ」
からかうように言った。
「あんなささやかな音が山中に響き渡るわけねーだろ」
銀時は言い返しつつ、弁当を受け取った。
「どこが、ささやかなんだ」
さらに桂が言い返してきた。
しかし、それには返事せず、銀時は弁当を開けた。
それから、一心不乱に食べる。
腹がものすごく減っているのだ。
あっというまに食べ終わった。
はァ〜、と銀時はため息をつく。
「茶はいるか?」
桂が聞いてきた。
その手には緑茶入りのペットボトルがあった。
「いる」
そう返事して、銀時はペットボトルを受け取った。
緑茶を飲む。
乾いていた喉が潤っていく。
飲み終わると、満ち足りた気分になった。
そして、何気なく、隣を向いた。
眼が合う。
桂は軽く笑うと、眼をそらし、後片付けを始めた。
コイツは、昔から、世話好きなんだよな。
その上、激ニブだ。
本当に、タチが悪い。
そう銀時は思った。
「では、行くか」
隣で、桂が立ちあがった。
銀時も立ちあがる。
しかし。
「ちょっと待て」
歩きだそうとした桂を止めた。
山の中は静かで、バサバサッと鳥の羽ばたく音が聞こえてきた。
木々の影の落ちる中、銀時は告げる。
「俺ァ、おまえのことが好きだ」
桂は小首をかしげた。
そして。
「そんなに弁当が嬉しかったのか?」
いつものように見当外れのことを言った。
だが。
ここであきらめてはいけない。
あきらめるから、伝わらない。
ダメ押し、しなければならない。
そう銀時は決意した。
「そういうことじゃねーよ」
否定した。
桂は眉根を寄せる。
「では、どういうことだ」
そう聞いてきた。
銀時は、その質問に答える代わりに腕をあげた。
すぐそばにある桂の身体を、抱き寄せる。
「なっ、なんだ……!?」
桂が腕の中で暴れた。
その耳の近くで、口を開く。
「おまえのことが、好きだ」
さっきと同じことを繰り返した。
しかし、桂の反応はさっきとは違った。
腕の中で、力が抜けたようにおとなしくなり、黙っている。
伝わったのだろうか。
銀時は腕の力をゆるめ、桂を放した。
そして、その表情を確認する。
桂は銀時の眼を見た。
「それは……、友人としてということだな?」
いつもとは違い、自信なさそうな様子である。
どうやら、うすうす気づいたらしい。
「ちげーよ」
銀時は否定する。
「友人ってことじゃない意味で、俺ァ、おまえが好きなんだ」
桂の表情が揺れた。
「おまえが、俺を?」
「ああ」
「俺は男だぞ!?」
「知ってる。つーか、知っててあたりめェだろうが」
そう告げると、桂の表情がさらに大きく揺れた。
「なんだって……!?」
ふらりと桂は歩きだした。
すっかりパニック状態になっているらしく、少し進んだところで木にぶつかった。
「桂!」
呼びかける。
すると、桂がふり返った。
その桂に向かって、言う。
「ここまで来るのに、二十年以上かかった。だから、すぐに答えを出さねェでくれ。何年でも待つから、じっくり考えてくれ」
「二十年以上だと……!?」
桂は眼をむいた。
あまりの年季の入りように、さらに驚愕したらしい。
そして、ますます混乱したようだった。
逃げるように去っていく。
銀時はひとり残された。
と、思ったら。
「銀ちゃん、がんばったアル!」
「やっと気づいてもらえましたね、銀さん!」
木の陰から、神楽と新八があらわれた。
どうやら一部始終を隠れて見ていたらしい。
二人とも晴れ晴れとした表情で、拍手している。
銀時は座りこんだ。
「……てめーら、もうちょっと気ィ使ってくれよ」
ボソリとつぶやく。
やっと気づいてもらった。
それはいい。
だが、あの桂の反応を思い出すと……。
前途多難だ。