激ニブ星の恋人?
第十六話 まずは形から
「そんなワケで、ついに激ニブ星の恋人? から、? が取れることになった」
銀時は胸を張って、えらそうに告げた。
志村家である。
その居間の机を、銀時、新八、神楽、お妙の四人が囲んでいる。
一瞬間があってから。
「……タイトルには、? が付いたままですよ」
新八がそう指摘した。
「えっ」
銀時は眼を見張り、そして、タイトルを確認した。
「……あ、ああ、まァ、そーだな、タイトルを変えるわけにはいかねーしな」
「ちゃんと確認してから発言してくださいね」
「そーアル!」
「うっ……、すまねェ」
新八と神楽から非難され、銀時は肩身の狭い思いをする。
「それはともかくとして、銀さん」
正面に座っているお妙が机に身を乗りだした。
「本当に桂さんが銀さんの恋人になったんですか?」
「ああ」
「そういう夢を見たとか、そういうことじゃなく?」
「ああ! 夢とかじゃねー、本当のことだ!!」
力強く銀時はうなずいた。
だが、お妙はさらに聞いてくる。
「じゃあ、勘違いではないんですか?」
「ちげーよ! だって、俺ァ、桂としたんだからな!」
銀時は吼えた。
直後。
「「「なにを?」」」
三人の声が見事に重なった。
銀時はハッとする。
ついうっかり自分はなにを口走ってしまったのだろーか。
眼を泳がせる。
「……銀さん」
穏やかに、しかし、低い声でお妙は言う。
「答えないでいると、いろんなことを想像してしまいますが、それでいいんですか」
銀時は眼を泳がせるのをやめ、新八と神楽を見た。
ふたりとも頬を赤らめ、もじもじしている。
たしかに、なんだかいろんなことを妄想しているようだ。
銀時は眼と口をカッと開き、驚愕の表情になる。
「ち、ち、ち、ち、ちげーよ!! そこまでやってねーよ!!!」
あわてふたむき、右の手のひらを顔のまえで左右に激しく振った。
「では、どこまでしたんですか」
冷静にお妙が追求してくる。
うっ、と銀時はうめいた。
そして。
「……キ、キスまでだ」
消え入りそうな小声で答えた。
クソーッ、なんでこんなことまで答えなきゃならねーんだ!!!
心の中でさけぶ。
顔が熱い。
きっと赤くなっているだろう。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「それ以上はしてないんですか」
だが、お妙は追求をやめない。
「だって、桂さん、泊まったんでしょう?」
銀時は三人を見た。
みんな、疑いの眼を向けている。
「してねーよ! ホントに!!」
銀時は大きく手を振って、主張する。
「俺はちゃんと段階を踏む男なんだ!!!」
けれども、三人の眼から疑いの色は消えない。
日頃の行いというヤツだろうか。
どうすればいい。
考えて、銀時の脳裏にハッとひらめくものがあった。
「見ろ!」
紙を取り出す。
「これが証拠だ!!」
その紙を机の上にバンッと叩きつけた。
三人の視線がその紙に集中する。
その紙には、婚姻届と書かれている。
夫となる人の欄には、坂田銀時と署名されている。
三人の眼が点になった。
次の瞬間。
「これは証拠ではなく、銀さんの願望でしょう!」
「どこが段階を踏んでるんですか!? 思いっきりすっ飛ばしてるじゃないですか!!」
「ヅラの気の迷いかもしれないから、気が変わらないうちに形だけでも押さえておくつもりアル!」
三人は一斉に騒ぎ出した。
「うっ、いや、その……」
銀時はしどろもどろになる。
すると、お妙は立ちあがった。
机の上の婚姻届をつかみあげる。
「こういうものは、桂さんがちゃんとその気になってから用意してください」
「……ハイ」
お妙の手の中で婚姻届はぐしゃっと握りつぶされた。