激ニブ星の恋人?
第十八話 鬼兵隊が全面協力するレベル
漆黒の空には満月が浮かんでいる。
夜気は昼間の熱を残していて、少しぬるい。
あたりには倉庫が建ち並んでいる。
その中のひとつに、高杉はいた。
だれかがやってくる。
それがだれかを高杉は知っている。
自分が呼びだしたのだから。
「オイ、高杉!」
銀時の声があたりに響いた。
その手には紙が握られている。
高杉が書き送った手紙だ。
内容は、神威の身柄を拘束したので返してほしければやってこい、というものだ。
神威とは今は手を結んでいるので、身柄を拘束うんぬんはもちろん嘘である。
しかし、そんなこととは知らず、銀時はやってきた。
神威の妹の神楽や、新八とともに。
飛んで火に入る夏の虫だ、と高杉はニヤリと笑う。
高杉は倉庫から出た。
「よォ、銀時」
煙管を片手に、悠然と銀時の正面に立った。
背後には鬼兵隊の主要メンバーがいる。
カチャと、また子が拳銃をかまえる音がうしろから聞こえた。
神楽が一歩まえに進み出る。
兄の身が心配なのだろうと高杉は推測した。
しかし。
「呼びだしてくれて、ちょうど良かったアル。ヅラのことで相談したかったアル」
神楽は高杉の予想とは違うことを言った。
「……ヅラ?」
高杉はとまどう。
だが、なんとか持ち直す。
「今はテメーの兄の話だろうが」
「あんなバカ兄貴、殺しても死なないアル」
あっさりと神楽は言った。
そして。
「そんなことより」
「おい、テメーの兄はそんなことなのか……?」
「今は、ヅラのことアル。ヅラのことで困っているアル」
ハァ……と神楽はため息をついた。
また子がまえに進み出た。
「なんの話してるっスか!? さっさとカタをつけるっス!」
銃口を神楽に向け、イライラと叫んだ。
そのほうを神楽は見る。
「また子か、役に立たなさそうアルな」
「なんだとォォォ!?」
「万年片想いのまた子に恋愛相談は無理アル」
「万年片想いじゃないっス! ねぇ、晋助様! もう雪解け間近っスよね!?」
「……おいおいおい、おまえら、なんの話」
「そういうわけだから、恋愛相談はまかせるっス!」
高杉に問いかけておきながら、また子は高杉のツッコミを無視し、神楽に向かって胸を叩いてみせた。
「じゃあ、これを見るアル」
どこからか神楽は映写機を持ってきた。
倉庫の白い壁にタイトルが映し出された。
激ニブ星の恋人?
ダイジェスト版
そんなタイトルのあと、これまでの数々の迷シーンが映し出された。
放映後。
「なんじゃこりゃー!? いつのまに撮影してたんだ!?」
銀時が叫んだ。
かなりあわてているというか、恥ずかしそうだ。
どこかから持ってきたパイプ椅子に座って鑑賞していたまた子が立ちあがった。
「なんっスか、これ!? 観ていて、ものすごくイライラしたっス!!」
そして、また子は銀時のほうを向く。
「アンタ、ヘタレっスね!」
ビシッと銀時を指さした。
「二十年間もなにしてたっスか! なんで押し倒さなかったっスか!? そんなんだから、やっと気持ちが伝わったと思ったら、今度は押し倒されそうになるんっスよ!!」
「また子、私も同意見アル! 銀ちゃんはヘタレすぎアル! だから、私たちでなんとかしないといけないアル!」
「そうっスね!」
完全に気が合っている。
昨日の敵は今日の友、状態だ。
武市変平太もパイプ椅子から立ちあがった。
「えー、私は、幼少期の桂君が非常に可愛いと思いました」
「武市ヘンタイ、ロリだけじゃなくてショタだったスか!?」
「ヘンタイじゃなく、先輩です。それから、私はロリでもショタでもありません。幼い子供を愛でているだけで」
「それをロリとかショタとか言うんっス、武市ヘンタイ!!」
一方。
「オイ、そこのアンタ!」
銀時が万斉を指さした。
「三味線で『禁じられた遊び』をひくの、やめてくんない!? なんか、もの悲しい気分になるから、そのメロディー!」
「さっきの映像にぴったりな曲を演奏しているだけでござる」
そう言って、万斉はさらに哀愁たっぷりにひく。
「それじゃあ、手伝ってくれるアルね!?」
神楽が聞く。
「もちろんっス!」
「私もかまいません」
「おもしろそうでござる」
直後、三人の視線は高杉に集中した。
「……しょーがねェな」
高杉は横を向きながら答えた。