激ニブ星の恋人?
高杉は眼を見張った。
驚いた。
そして。
そういうことだったのか、と理解する。
銀時は桂のことが好きであるらしい。
それで、他人からもらった恋文を見せ、その反応を観察していたのだ。
桂が妬いてくれないかと。
銀時にしては妙な手を使ったと思うが、そうでもしなければ、桂を動かせないと考えたのではないか。
しかし、期待していたことはまったく起こらなかったどころか、恋文の送り主のことを薦められる始末。
だから、はっきり告白することにしたのだろう。
高杉は桂の反応を見る。
「そうか」
桂は世間話でもしているような様子で、相づちを打った。
気迫みなぎる銀時とは対照的だ。
「今はまだ女子といるより、友人といるほうがいいということだな」
な、な、な、なんだとー!?
高杉は心の中で叫びつつ、さっきよりも大きく眼を見開いた。
あれだけはっきりした告白について、どこをどうしたらそんな珍妙な解釈ができるのか。
驚愕した。
もしかしたら桂はものすごくニブいのか……?
そんな疑念が頭にわいてきた。
銀時は凍りついている。
それをまったく気にせずに、桂はさらに言う。
「しかし、俺はなにがあってもいつまでもおまえの友人だ。だから、俺を選べば、相手を選べなくなるということはない。急がず、ゆっくりと考えて、それから結論を出したらどうだ」
桂は悪気が一切ない様子で、腕をあげ、凍りついた銀時の肩をポンと軽く叩いた。
俺はなにがあってもいつまでもおまえの友人だ、だと?
ひ、ひでェ!!
ひどすぎる!!!
高杉は、また、心の中で叫んだ。
勇気ある告白を桂は無意識のうちに流してしまった上、永久友人宣言までしてのけたのだ。
これまで銀時のことは良く思ってはいなかったが、今は、その心情を想像し、なぜかハラハラしてしまう。
「では、俺はそろそろ行く」
桂は腕をおろした。
「おまえはここでしばらく考えたらいい」
そう告げ、桂は歩きだした。
高杉はぎょっとした。
だが、幸い、桂は高杉がいるのとは逆方向に進んだ。
桂が去り、そこには銀時が相変わらず凍りついたように立っている。
蝉の鳴く声が絶え間なく降りそそいでくる。
俺もそろそろ行くか。
そう高杉は思った。
そのとき。
銀時が地面に座りこんだ。
そして。
地面に「の」の字を書き始めた……!
こ、こ、こ、これは……。
思わず、高杉は銀時のいるほうに足を踏み出した。
草履が地面とすれる音がした。
直後、銀時の肩がびくっと震えた。
銀時はあわてたように立ちあがり、こちらのほうを見る。
眼が合った。
「た、高杉……!」
「あ、あのな、銀時」
「聞いてたのか!? 見てたのか!?」
「そ、そのことだが」
「いや、いい、なにも言うな、なにも聞きたくねェ!」
銀時は叫ぶ。
「てゆーか、そんな哀れみに満ちた眼差しで、俺を見るんじゃねェー!」
身をひるがえし、去っていく。
残された高杉は、ぼうぜんと立ちつくす。
しばらくして、気を取り直した。
このことは胸にしまっておこう。
そう心に決め、高杉はきびすを返し、歩きだした。