激ニブ星の恋人?
ステージ中央まで、九兵衛と東条が進んだ。
そして。
「嫌がっているだろう。その娘を放せ」
九兵衛がビシッと言った。
ただし、あくまでもメイド姿だ。
だが、メイドには不似合いなものがその腰に差してある。
刀だ。
東条も執事の格好をしているのに、やはり、腰に刀を差している。
浪人風の男たちは、ふたりをにらむ。
「なんだ、邪魔をするつもりか」
「俺たちの邪魔をする者はゆるさん。叩き斬るぞ」
そう脅した。
しかし、彼らは実は柳生流の者たちである。
柳生流のトップクラスのふたりに対し、恐れ多い気持ちがあるのか、台詞が棒読みだ。
「叩き斬る? やれるものなら、やってみろ」
九兵衛がそう返した。
ステージで、九兵衛&東条と浪人風の男たちの戦いが始まった……!
九兵衛と東条は、大勢いる浪人風の男たちを次々に倒していく。
浪人風の男たちは、「うぎゃー!」「や、やられた……!」などと言いながら、ちょっと大げさな動きでステージに伏す。
まあ、全員、柳生流の者で、演技なのだが。
それでも、見事な殺陣である。
客席からは、歓声があがっている。
やがて、九兵衛と東条は浪人風の男たちをすべて倒した。
そのあと、九兵衛は、ステージに座りこんでいたお通ちゃんに手をさしのべる。
「大丈夫か?」
「ハ、ハイ」
お通ちゃんは頬を少し赤らめ、九兵衛の手をつかんだ。
さすがに、なかなかの演技である。
お通ちゃんが立ちあがると、九兵衛は自分の手を引っこめた。
さらに、東条とともに、さっと踵を返す。
そのまま、去っていこうとする。
「あ、あの、お名前は……?」
ふたりの背中に向かって、お通ちゃんが問いかける。
すると。
九兵衛と東条は立ち止まり、ふり返った。
「メイド侍、九兵衛だ」
「執事侍、東条です」
「オイ、なんかソレ、変だろ!」
その新八のツッコミはもちろん無視された。
客席からは、また歓声があがっている。
メイド侍と執事侍のファンになったらしい。
九兵衛と東条は名乗り終わると、また、お通ちゃんに背を向けて歩きだす。
新八たちのいるステージ脇のほうに近づいてきた。
だが。
客席から見えなくなる直前、ふたりは足を止めた。
そして。
ふたりは、客席のほうを向く。
「僕たちのように強くなりたいなら、柳生流に来い!」
「今なら無料体験実施中です」
メイド侍と執事侍らしいポーズで、告げた。
観客から、ふたたび、歓声があがる。
「なに、これ、勧誘ー!?」
「まァ、この御時世だからな。オメーも道場主として、なんかしたほうがいーんじゃねーの」
新八のツッコミに対し、銀時がさらにツッコミを入れた。
また、別の場所で。
「あの娘、なかなか良い素材でごさるな」
万斉がプロデューサーの顔になって、つぶやいた。