激ニブ星の恋人?
桂はむっとする。
だが、言い返せない。
あのとき、本当は避けることもできたのだ。
殴ろうとしているのはわかっていたから、その拳を避けることもできた。
けれども、桂は避けずに殴り飛ばされた。
殴られる心当たりがあったし、それに、彼女がそれで終わりにするつもりであるのを感じ取ったからだ。
しかし、今、それを言うつもりはない。
だいたい、銀時もわかっていることだろう。
銀時が桂のほうをふたたび見た。
相変わらず顔がにやけているが、先ほどまでと比べれば笑いがおさまっているようだ。
「つーか、オメーが好きなのは、気が強いってことだけじゃなくて、気持ちがハッキリわかる相手なんじゃねーの?」
からかうように言う。
「オメーの場合、よっぽどハッキリ言わなけりゃ伝わらねーし、始まらねーからな。なにしろ、激ニブだからなァ」
そして、また身体を揺らして、笑う。
ハッキリ言われなければわからない。
なるほど、たしかにそのとおりだ。
そう桂は納得した。
が。
やはり、腹がたつ。
なにか言い返したい。
桂は口を開いた。
「俺の過去の恋愛について、おまえがどうこう言える立場か」
一矢報いたいという気持ちのままに、思いついたことを口に出していく。
「俺が知っているだけでも、おまえと関係のあった女子の数をかぞえるのには、片手の指では足りんぞ!」
「……あー」
とたんに銀時は気まずい表情になった。
その眼が泳いでいる。
「……まァ、その、いろいろあって、荒れてた時期もあったからなァ」
さっきまでとは打って変わって、歯切れ悪く言った。
荒れていた時期とは、松陽が亡くなったあたりのことだろう。
松陽と暮らしていた家に帰りたくなかったらしく、いろいろなところを泊まり歩いていた。
しかし。
「その荒れていた時期だけではないだろうが」
関係があったというのは、一夜限りのものは含まない。
それなりの期間つき合いのあった相手が、荒れていた時期以外にも複数いる。
それを桂は知っている。
そして、気づく。
「おまえは俺のことがずっと好きだったと言うが、だったら彼女たちはなんだ?」
銀時の言う自分を好きだった期間と、他の者たちとつき合っていた期間が重なっている。
荒れていた時期を除くとしても、だ。