激ニブ星の恋人?
「待っていたが、おまえは帰ってこないし、もう帰ろうと決めたところだったんだ」
桂の声を背中で受けながら、銀時は歩く。
寒い中どれぐらい待ったのだろうか。
ふと、そう思い、しかし、それをすぐに頭から追い出す。
どうだっていい、そんなこと。
部屋に入った。
少し進んだところで、畳に腰をおろす。
酔いが完全にさめたわけではなく、身体がだるかった。
あぐらをかき、眼を閉じる。
近くを桂が通り過ぎていくのを感じた。
しかし、なんの反応もせずにいる。
まぶたの向こうで、部屋が明るくなった。
桂が灯りをつけたのだろう。
つい、眼を開ける。
ここは、
松陽が塾生たちに講義をしていた部屋だ。
思い出した。
いくつも。
記憶に残るほどの思い出は数えきれないほどあって、それがこの部屋に降り積もっている。
桂は火鉢の火をおこしている。
勝手知ったる様子だ。
幼い頃からここに通っていたのだから当然だろう。
それにしても、部屋を明るくしたり温めたり、世話好きだ。
始末が、悪い。
「帰れよ」
いつのまにか口が動いて、桂にそう告げていた。
桂は驚いたようにこちらを見た。
そして、なにも言わずに、立ちあがった。
近づいてくる。
自分が出入り口の近くに座っているからかと思ったが、そばまでくると桂は足を止めた。
「……銀時」
桂は畳に腰をおろした。
「最近、おまえはずいぶんと荒れているそうだな。今だって、この距離でも強くにおうぐらい酒を呑んで……」
「うっせェな」
さえぎるように言う。
「説教なんざ聞きたくねェんだよ」
「銀時」
「帰れって言ってんだろ」
言葉で突き放した。
眼をそらし、うつむく。
これで縁が切れてもいい。
もう、どうだっていい。
いっそ、もうなにもかもなくなってしまえ。
自分をつなぎとめるもの、すべて、なくなってしまえ。