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呪いと祝福、愛情と憎しみ

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 寝台の上で白澤と絡みあい、もつれ合う。押しのけようとする鬼灯の力と組み伏せようとする白澤の力が拮抗する。お互いが額には脂汗のようなものが浮いていた。顔色はどちらも青ざめている。
 つまり、死に際の鬼灯と同じだけの力しか、今の白澤にはないということだ。白澤の力はそう簡単に消え去るものではない。しかし、外部に放出してしまえば回復にはそれなりに時間を要する。
 これ以上白澤も力を失えば、何が起きるかわからない。
「もう、やめなさい……!」
「イヤ、だ!」
「なんであなたがそんなにムキになるんです。病でもないのに。たかが鬼一匹、消えたぐらい、貴方には関係のないはずでしょう……!」
「ふざけるなよ、だったらなんで金丹なんか使った!? なんで……、なんで僕を呼んだ……!」
 え、と思った。その瞬間に、腕から力が抜けた。力の拮抗が崩れたとたん、白澤もバランスを崩し、鬼灯の上に倒れかかる。衝撃に一瞬息がつまった。
 しかし顔をあげるとはっとするほど白澤の顔が近い。白澤が、鬼灯の顔の痣の境目に触れ、たどる。
 まさか、鬼灯の呼びかけが白澤に届くなんて、思いもしなかった。しかもそれで本当に白澤がここに来るだなんて。
 何を考えてここにきたのだろう。何を考えて、この男は鬼灯を生きながらえさせようとするのだろう。
 もし、もし白澤も鬼灯と同じように、離れがたいと思っていたなら。いや、そんなことはあり得ない。
 けれど、だったらこの口づけの意味は、何。
 鬼灯は目を閉じた。白澤の唇が鬼灯の唇に触れる。先ほどのような奪い、奪われるような苛烈さはなく、静かに、ただ触れるだけの。
「鬼灯……。逝くなよ」
 唇が離れ、目の前で白澤の顔が泣きそうに歪んでいた。
 ちりちりと障るような痛みを伴って、ほんのわずかだけ痣は後退した。けれど、それも一瞬のことで、もう白澤の力をもってしても、進行を止めることはできなかった。
 白澤自身ももはや今の姿を保っているのがやっとだろう。白澤の力が回復したとしても、もう間に合わない。
 鬼灯はほっとした。心は今までになく満たされていた。白澤が自分の名を呼んだ。初めてだと、気付いた。白澤が逝くなと言った。泣きそうになりながら、鬼灯が消えることを拒絶した。たったそれだけのことだ。それでも鬼灯には十分だった。何故か白澤を自分の物に出来たような気がした。
「逝きますよ」
 鬼灯の痣の境目に触れ、少しでもそれが鬼灯を覆い尽くしていくのを阻もうとする白澤の手を、そっと引き剥がす。
「どうしてだよ。どうしていっつもお前はそうなんだよ。いつもいつも、僕の思い通りにはならなくて、1ミリも理解できない行動ばっかりしやがって。そんなの、お前だけ、なのに……っ」
 お前くらいだと、声を震わせて白澤が繰り返す。震わせた目元から零れ落ちてくるのは、輝く雫。一滴二滴と、その雫が鬼灯の頬を濡らした。
「お前、だけなんだぞ。僕をこんなに取り乱させるのも、かき乱すのも、お前だけなんだ。ずっと、なんでだろうって思ってた。お前が僕を目の敵みたいに思うのもなんでだろうって。やっと、わかった、のに……」
 雫は次第に流れ落ちる筋となって、白澤の頬を濡らす。鬼灯は、自分の予想をいつも裏切ってくれる白澤の頭を抱きかかえ、泣きわめく白澤を、恨みがましく抱きしめた。
 耳元で、白澤がか細く、呻くようつぶやいた。白澤が鬼灯を、好きだと言った。
 酷い日だ。槍でも降ってきそうだ。そうして地獄がまさしく阿鼻叫喚と化すのではないだろうか。
 何かの冗談だと思いたくて、同時に何よりその言葉を真実だと信じたかった。
 けれど今この時になって白澤に好きだなどと言われても、どうしろというのか。
「愚かなんですよ。貴方も、私も」
 もうすぐ記憶も何もなくして、違う生き物に生まれ変わるしかない自分に、後を追うことなどできるはずもない神の獣。
 今になって後悔が募る。意地を張って、プライドにしがみついて、結局、何もかも失うだけでしかないではないか。なぜ、もっと早く打ち明けようと思わなかったのだろうか。
「貴方なんて、嫌いです」
 愚かな自分を貶めると同時に、白澤を罵る。
 そして腕が折れるほどに、白澤の身体を抱きしめる。
 どこまでも自分は、素直になんてなれないらしい。
 力も入らない腕が、干からびて崩れ去る。
「僕だって嫌いだ……。大っ嫌いだ、お前なんか」
 白澤の涙に灰がとける。まるで一つになるようで、嬉しくなった。
「お前なんか呪ってやる。神獣の呪いだ。絶対にとけない呪いなんだ」
「呪いと祝福。愛情と憎しみ。相手を縛ると言う意味では、どちらも、同じようなものですよね」
 足が崩れる。身体が、崩壊する。白澤の腕の中で、鬼灯は笑った。
「鬼灯、お前は! お前は僕のこと、愛してくれてたんだよな!」
「まさか。憎んでたんですよ。私は……。貴方を……」
 愛していたから。
 最後の言葉はついに言えなかった。
 最後の一欠片になって、肉体が灰となって、魂が浮上していくのを感じた。
 酷く眠かった。自分が小さくなっていくことにも気付いた。
 けれど、周りには揺らめくいくつもの火があった。鬼火は鬼灯から離れることなく、一つの魂となっていた。
 そうして鬼灯は地獄から去った。最期を看取った白澤の、荒れ狂うほどの感情を身に受けながら。