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呪いと祝福、愛情と憎しみ

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「ああ、その声は、シロさんですか……。全く、誰も入れるなと言っておいたのに、大王はなにをしていらっしゃるのか……」
 返ってきたのは紛れもなく鬼灯の声だった。
「鬼灯様! やっぱりお部屋に居たんだね!」
 シロは嬉しくなって寝台に駆け寄った。鬼灯が寝そべっているらしい枕元にすり寄ろうとして、しかし、それをからっからに枯れ果てた何かがそっと遮った。
 何だろうと思ってまさぐってみて、それが手の形をしていることに気づく。ぺろりと舐めると、鬼灯がくすぐったそうに声を上げた。
「くすぐったいですよ、シロさん」
 これは、鬼灯の手なのだろうか。それにしては老人の手のようにしわがれているし、なんだか妙な痣も広がっている。首をかしげて、鬼灯の顔を見上げれば、そこでシロはぞっとして息をのんだ。
「鬼灯様、お顔、どうしたの……?」
 問いかける声が震えた。鬼灯の顔の半分以上が、手に広がる痣と同じく、どす黒く変色していた。
 シロは、未だ死に際の鬼を見たことはなかった。だから、知らなかった。鬼の最期がどうなるか。
「もしかして、病気なの!? だから外に出てこれないの!?」
 シロは叫んだ。その拍子に思わず鬼灯の身体を揺さぶってしまう。鬼灯が苦しげに眼をすがめて笑った。それが、シロにはあまりに衝撃的だった。
 鬼灯は、今にも消えてしまいそうなほどに弱り切っていた。まさか重い病気なのではないか。こんなに身体がおかしくなってしまうなんて、ただの風邪なんかでは考えられない。それにそうじゃなければ、鬼灯がこんな切なげな笑みを浮かべるわけがない。
 最後に不喜処で会ったときも、鬼灯にはありえないような優しげな笑みを浮かべていた。まさかあの時から具合が悪かったのだろうか。だからおかしな匂いがしたのだろうか。
 そこまで考えてシロは泣きたくなった。
「は、白澤様呼んでくる! そうすればすぐ治るよね!?」
 しかし、すぐにでも駆け出していきたいシロを、鬼灯は首を振って引きとめた。
「これは、鬼なら必ず通る道ですから、あんなのの手を借りるまでもありません。大丈夫です。あと数日もすれば、何ともなくなりますよ」
「でも、全然大丈夫には見えないよ……」
 納得できないと、縋りつく。鬼灯が困ったように眉根を寄せた。引き下がらないシロをどう納得させようかと悩むのか、鬼灯はいつも以上に長く頭を悩ませていた。そして、いつになく慎重に言葉を選んで、つぶやいた。
「私は、あの男に、会いたく……、会いたくないん、です……」
 その一言を言うのも声を絞り出すように、やっとと言った様子。大きく息を吐き出し、疲れたように天井を見つめる。
 鬼灯と白澤の仲が悪いことは、誰だって知っている。この期に及んでまで、鬼灯が白澤を呼びたくないと言うのは、シロにもわかる。
 こんな弱りきったところを、鬼灯だったら絶対に白澤に見られたくなどないだろう。それでも、こんな状態の鬼灯を部屋に一人きりにしておくのは気が引けた。
「閻魔様は、知ってるの?」
「ええ。ご存知ですよ。時々、仕事をしろと言うのにここに来てサボっています」
 だから何も心配することはないのだと言う鬼灯の台詞に、ようやく少しばかり安堵する。閻魔大王が知った上で何もしないのであれば、シロが何かをするべきはないのかもしれない。
「わかったよ、鬼灯様。俺、白澤様には言わないよ……。他の誰にも言わない」
 鬼灯が安堵したように表情を緩めて、いいこですね、と頭を撫でてくれる。その手はいつもの逞しくも繊細であったかい手ではなく、枯れ果て、脆く崩れてしまいそうな手だ。早くこの手が、身体が、いつものように戻ってくれればいいと、シロは切実に思った。
 でも本当にあんな状態から元に戻るのだろうか。誰にも言わないと言ったけど、本当にそれが正しいことなのだろうか。
 鬼灯の部屋を出て、不安を抱えながら、気が付くとシロはかつての主、桃太郎のいる桃源郷へと、足を向けていた。