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呪いと祝福、愛情と憎しみ

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 どんっと、着地した途端閻魔殿の法廷に衝撃が走った。もうもうと煙が巻き起こって獄卒が怯える中、立ちあがって顔を上げると、演壇で一人だけ、驚くと言うよりは恐れるように顔をこわばらせた閻魔大王と視線が合う。
 白澤はなるべくゆっくりにこりと、いつも浮かべる笑みを顔に張り付けた。
「突然おじゃまして申し訳ないね、閻魔大王。でも、急ぎの用件なんだ。僕のお願い聞いてくれる?」
 獄卒が白澤の姿を認めてざわめく。白澤は今、半神半獣の姿だ。普通の鬼ならまず、その神聖さにあてられて身動きもできない。かけつけてきた警備の鬼も、入口のあたりで団子状態で固まっている。
 けれど、今白澤にそんなことはどうでもよかった。知りたいのはただ一つ。
「大王がとてもとても可愛がっていた、「丁」と言う名の子供の寿命について、お聞きしたい。閻魔帳を見せてはもらえないかな」
 法廷がしんと静まり返る。閻魔大王が生唾を飲み込む音が、周りにも聞こえたほど。
 白澤は閻魔大王を見据えた。震えるような声音で、それでも表情は変えないまま閻魔大王が、口を開く。
「え、閻魔帳は、関係者以外には絶対に公開しないって、白澤くんもわかってるだろう」
「うん、知ってるよ。でも、見せてくれないなら、鬼灯に直接聞きに行く」
 ちらりと視線を投げるのは、法廷の奥。関係者の住居が集まる廊下の先。勘のいい獄卒が、その視線に何か気付いたのかざわめいた。ますます閻魔大王は言葉を詰まらせる。強張っていた顔がどんどん泣きそうに崩れ、これ以上隠しておくことはできないと諦めるのか、ついに閻魔大王はがくりとうなだれた。
 わかったと頷き、閻魔帳のページをめくりだす。ありとあらゆる亡者、生者の名前が記された中から、特定の一人の情報を引きだしていく。
「聞いても後悔しないでよ? ワシが覚えている限りでは、あと……」
 しかし、文字をたどっていた指が止まり、その名を見つけたことを示したと同時、閻魔大王の顔がさっと青ざめた。顔を上げ、唇を戦慄かせる閻魔大王の様子に、嫌な予感がした。
「は、白澤くん、今すぐ鬼灯くんの部屋に行って! その奥の突き当たりだから!!」
 大王が破れ鐘のような声で叫んだ。それで白澤は駆けだした。法廷の奥の通路を突き進み、鬼灯の枝が描かれた扉を目指す。
 シロの話を聞いた限りでは、まだ鬼灯の最期の日まで、余裕はあるだろうとは思えた。しかし白澤は、一月前、鬼灯に一つ金丹を渡していたことを思い出す。もしあれを、鬼灯が使っていたとしたなら。
 無理矢理自然の摂理を捻じ曲げようとすれば、後になってその反動は何倍にもなって返ってくる。鬼灯が安易にそんな物を使うとは考えにくい。けれど、この状況は、どう考えてもそれしかない。閻魔帳に記された「丁」の地獄での命は、今日で尽きることを示していた。
「あの、馬鹿!」
 鬼灯の描かれた扉を、蹴破って中に飛び込んだ。闇に閉ざされていた部屋から響いてきたのは、苦しみに喘ぐ鬼灯の声と、助けを求めるように天に向かって差し出された、枯れ果てた腕だった。