続 さらば宇宙戦艦ヤマト 11
「気持ちよかったぁ」
最上階と言う事で部屋には小さいながらも二人なら余裕で入れる露天風呂が付いていた。
百合子がバスローブを身に付けて部屋に入ると島はバスローブのままバルコニーにでて海を眺めていた
「風邪、引くわよ?もうすぐ11月なんだから…風が冷たいでしょう?」
確かに昨日の英雄の丘の風より冷たかった
「ね、入りましょう?海を眺めるのは部屋の中からでもできるじゃない。」
百合子はそう言って島を部屋の中へ入れダブルベッドに座った
「ねぇ、イスカンダルってどんなところなの?」(百合子)
「昔の地球みたいだよ。だけど寂しいところ、かな。」(島)
「そこにはきれいな女王がひとりで住んでいるんでしょう?」(百合子)
一般市民には古代守が生きていてイスカンダルにいる事は伏せられていた
「あぁ、そうだよ。」(島)
「その人に逢って…好きになったりしないの?」
百合子は一番心配な事を聞いた。実際島に“好き”とか“愛してる”とか一度も言われた事がない。この“成り行き”の状態から抜き出せれば、と思っていた。
「ない…な。絶対に。」
そう言いきる島を見ながらも百合子はなにか引っかかるものを感じた。イスカンダルへ行く前と今とまるで別人のような島に違和感があった
「どうしてそう、言いきれるの?」(百合子)
「どうして、って…スターシアさんを好き、嫌いの対象で見た事がない
からだよ。万が一その対象で見たとしても俺なんかじゃ足元にも及ばない
って感じかな。スケールが違う、って言うか…英雄の丘にいるテレサと
同じ感覚さ。女神、だよ。地球を救った…そんな人を好き、嫌いの対象
としてとらえる事は出来ないな。」(島)
「…そう…じゃぁ…私は?」(百合子)
一瞬島が息を詰まらせて百合子を見た
「私はあなたを愛してる…だから抱かれた。でもあなたはどうなの?」
百合子はそう言って島を押し倒す格好になった
「あなたは私に一度も“好き”って“愛してる”って言ってくれない…
私はあなたがそう言ってくれるのを待っているのに…どうして?
さっきだって私を抱いたじゃない…確かに最初は成り行きだったかも
しれない…だけどそこから始まる愛だってあるでしょう?」
島はこんなに感情的になる百合子を初めてみた。そして“きれいな人”だったんだ、と思った。
「俺は…百合子を愛していない」
島の言葉が百合子の心に刺さった
「百合子も俺が好きなんじゃなくて“地球防衛軍の島大介”が好きなんだ。
みんなそうさ、誰ひとり“俺”自身を見てくれる女性(ひと)なんていない
キミもいつからか“あの島大介”だと言う目で見てる…」(島)
島はそう言うと一気に起き上がり反対に百合子をベッドに押し付けた
「そう…そうやって俺を見る目がみんなと同じなんだ。“気にしてません”
って顔…最初はキミなら俺を受け止めてくれるかも、と思った…だけど
やっぱり“ヤマトの島大介”を見てるんだ…」
そう言うと島は力尽きたかのように百合子の体にもたれかかるようにベッドに伏せた。島の脳裏には進とユキの姿があった
(お前たちみたいな自然にふるまえるパートナーがほしかっただけなのにな)
百合子はしばらく動けずにいた
「送ってくれてありがとう…もう、連絡しないわ。」
待ち合わせの公園の前で百合子はエンジンを止めたエアカーの中でそう言った。
「私を愛してくれる人を探すわ…私だって幸せになりたいもの…だけど…」
「だけど?」(島)
「あなたを愛していたのは本当よ…あなたがどう思っていたかは分らない
けど私はあなたを愛していたわ。身体を重ねていたのに心が通じていない
なんて…私の独りよがりだったのね。今…ずっと考えてたの…私あなた
の笑顔を見た事がないな、って…もっと早くに気付いていたらフランクな
付き合いで済んだのかもしれないわね。私じゃあなたの心を癒せない…
ってわかったわ。だからもう連絡しないって決めたの。」
島は黙って聞いていた
「道で会っても声をかけないで。」
百合子はそう言ってエアカーを降りて振り向くことなく歩いて行った
作品名:続 さらば宇宙戦艦ヤマト 11 作家名:kei