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仁義なきバレンタイン

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 可哀想なくらい顔色を悪くしたエドが、縋りつかんばかりにハボックを振り仰ぐ。…普段の生意気さ加減が影を潜めて、そうしているとちょっと可愛い。
 ―――と。
 ゴンゴン、と倉庫の中からドアを叩く音がする。
「ぎゃああああ!」
 その音にびっくりしたらしいエドは、悲鳴のような雄叫びのような大声を上げて、隣に立っていたハボックの腹に抱きついた。そうしていると本当に小さい子供のようである。

 ガラガラガラ

 そして、ドアは開いた。
「…何をやってるんだ?おまえたち。鋼のも」
 そうして現れた人物、というかそのいでたちに、ハボックはぽかんと口を開ける。もしもいつもの咥え煙草がそこにあったのなら、間違いなく落っこちていただろう。
「…大佐?」
 目を丸くしながら、なぜか疑問形でハボックは尋ねる。現れたその男に。
「…鋼の。…なんだね、子供でもあるまいに」
 大佐、つまり、ロイ・マスタング大佐であるが、彼は「今現在の」己の風体になど全く頓着することなく、目の前で自分の部下にひしと抱きつく小さな錬金術師に不機嫌そうな声を出す。

 うわぁ、わかりやすー…。

 と、ハボックとブレダは思った。
 大佐はあれだ、このちびっこが実は大のお気に入りなのだ。本人は否定しているし、エドに至ってはむしろ毛嫌いしているのに近いように見えるが。それはまあ、好きな子ほどいじめたくなってしまうというアレなのだろう。
「エドー?ほら、怖くないぞ。大佐だぞー?」
「………」
 目の前で不機嫌いっぱいのオーラを撒き散らす上官に辟易して、ハボックは、己の腹に精一杯しがみつく子供の頭をぽんぽんとたたいた。そしてあやすように促したのだが…。
 よほどに恐ろしいものでも見てしまったのか、少年は、ハボックの胸に顔を押しつけたままいやいやと首を振る。…可哀想なような、可愛いらしいような。
「…………」
「…大佐ぁ、一体中で何してたんスか?」
 尋常ではないエドの怖がりように、ハボックは呆れて問いかけた。
 まったく、眉間に皺を寄せて親の敵でも見るような目で見るのはやめていただきたい、と思う。自業自得だろうに。完璧に。絶対に。
「特訓に決まっているだろう」
「はぁ?」
 が。上官は胸を張って答えた。
「それより…、いい加減離れたらどうなんだ鋼の」
 そして、そんなことより、とさらに声を低くする。

 さらに怖がらせてどーすんですか、アンタ…。

 部下達は思った。この人あんまり遊んでこなかったのかなあ、やっぱり人間は若いうちにどんどん羽目を外すべきだ、とか、どうでもいいことも含めて。仕事忙しいのかな、といった、労わりの思考はそこにはミジンコほどもない。
 仕方なし、ハボックは事態を改善すべく、そもそもの原因である上官に尋ねる。
「…大佐。ってか、そのカッコは一体?」
 よしよし、とエドをあやしながら、ハボックはげんなりした顔をする。
 …大体わかるのだが、それにしたってこの上司の思考回路には時折ついていけないことがある。やっぱり一般人じゃないからなのかな、でもそれ言ったら大将もアルもそうか…大将はともかくアルのヤツはここまでおかしい素行取らないよな…などとつらつら考えながら。
「ハボック、その手はなんだ、その手は」
「しょうがないでしょ。言っときますけど大佐が脅かすのが悪いんですよ」
 うんうん、と背後でブレダが頷いている。
 明らかにロイの分が悪かった。

「…なんだって…一体全体なんだってそんな…、趣味の悪い迷彩描いて頭に木の枝なんか差しちゃってんです?」

 呆れ切った声でハボックが問えば、ロイはそれでも恐れ入ったりはしない。
「だから言っただろう。特訓だと。おまえは馬鹿か?健忘症か?」
 変人に言われなくない、とよっぽどハボックは言いたかった。
…はっきり言って、今のロイの格好は尋常ではない。何しろ頭に白い鉢巻を締めて木の枝を左右に差し(まるで角のようだった)、露出している部分には迷彩柄をボディペインティング。そして…野戦服でも着ているならまだしも、なんだろう、なぜそうなったのか…いや聞きたいわけではないのだが…、青の軍服の上にそのまま迷彩柄らしきものを描いてしまったのはどういう悪戯心か…。
「だから、何の特訓なんですか?そんな奇天烈な格好して」
「キテ…!」
 絶句するロイの目つきは急激に悪くなる。しかし、そんなことで恐れ入るようでは彼の側近は勤まるまい。
「…あのー…」
 険悪なムードの上司と部下の間に、のんびりした声が割って入った。アルだった。
「何の特訓でも別にいいんですけど、とにかく頭の変な人みたいに見えるのは確かだし…説明は後で結構ですから、先に着替えてきた方がいいと思うんです、ボク」
 小首を傾げる姿は、巨体をものともしない可愛らしさを滲ませている。…が、騙されてはいけない。言っていることは結構辛辣だ。
「別にボクはかまわないんだけど…他の人に見られるの、あんまりよくないと思うんです」
 ぴきっ、と凍りつくロイに、アルはやっぱりぽやーんとした口調で告げるのだが、…言っていることは本当に…辛口だろう。
「―――ま、こりゃアルの勝ちだな」
 そんな鎧の隣で、ブレダが肩を竦めて笑った。そして「大佐」と声をかける。
「…なん…」
「北風と太陽です」
「は…?」
 不思議そうな顔をする上官に、ブレダは片頬で笑った。
「北風がどんなに冷たい風を吹き付けても、旅人はコートを脱ぎませんぜ」
「………」
「じゃ、俺らは食堂に行きますんで」
 済まして言うと、ブレダはエドを纏わり着かせたままのハボックと、泰然としているアルを促し歩き出した。
「大佐」
 が、ヒントだとばかり一度振り向くと、短く言った。
「急がば回れ、です」
 それ以上はさすがにもう言わない。さくさくと歩いていってしまう。そんなずんぐりした背中を見送りつつ、ロイは、おもむろに己の格好を見下ろした。
「…頭が変な人、はきついな…」
 そしてぽつりと呟いた。


 食堂に行けば、ようやく少しは落ち着いてきたのか、エドはハボックから離れた。時間が経てば気恥ずかしくなったようで、ハボックから距離を置いているのが可愛らしい。しかし今度はアルに必要以上に近づいて座っているので、…あんまり状況としては変わらないのかもしれない。
 両少尉は、食堂への道すがら贈答品の菓子折りを失敬して、中身をエドの前に並べてやった。普段なら一度は大人ぶって断るエドだが、今は素直にバームクーヘンなんか頬張っている。ぽつりぽつりと頬張る姿はやたらと幼く可愛くて、なんとなく微笑ましくなった。
「兄さん、お茶」
「ん」
 弟がそつなく紅茶を押し出せば、こくりと頷いてカップを手に取った。
「…エド?ちょっとは落ち着いたか?」
 両手でカップを持って冷ます仕種を見ながら、ハボックがゆっくりと声をかけた。
「…ん」
 頷く様子を見れば、…まあ平素の状態には程遠い、ということだけはよくわかる。
「脅かしちまって悪かったな」
 苦笑するブレダもまたなんだか焼き菓子を頬張っている。どことなく平和だった。
「あの人もいい加減ちょっと本気で焦ってんだな…何しろ今年負けたら三連敗だから」
作品名:仁義なきバレンタイン 作家名:スサ