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年上の男の子

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「そう!…なにかな、何を反対しないのかな…?」
 エドの顔からは血の気が引いている。本音を言うなら聞きたくない、しかしうやむやに出来るほど彼の好奇心は老成していなかった。
 ―――そして致命傷が。
「え?大佐って、兄さんのことが好きなんでしょ?兄さんもまんざらでもないんでしょ?」
 まんざらでもないって…、エドの頭は瞬間真っ白になった。母さん、弟が遠い人になってしまいました、兄の責任でしょうか…。エドは天国の母に対してまたひとつ償わなければならない条目が加わったと感じた。
「でもボクはいいと思うな」
「……。なにが」
 ぐったりしつつも、エドはここまできたら、ままよ、とばかり投げ遣りに尋ねた。
「だって、どっちにしろ、権力者だもん」
「―――――――――」
 エドは今度こそ膝から力が抜けた。
 あの、素直で可愛いアルフォンスはどこに行ってしまったのか。それこそ過ぎる日の幻影だというのだろうか。筋金入りのブラコン(無自覚)であるエドは、もはや立ち直れないほどのダメージを受けて、設えられていた椅子にずるずると縋りついた。
「にいさん?」
「…アル。ごめんな。兄ちゃんが悪いんだよな…」
「は?」
「アルはあんなに優しくて素直ないい子だったのに…。オレがいけないんだよな…」
 なにやら激しいショックを受けているらしい兄に、アルは首を捻った。
「にいさん?」
「…アルフォンス」
「…はい」
 静かな声で愛称でなくきちんと名前を呼ばれれば、アルも何となく背筋が伸びる思いがした。
「そういうことを言っちゃだめだろう?」
「…そういうこと?どういうこと?」
「人間の価値は、肩書きで決まるものじゃない。そうだろう?」
 お兄ちゃんモードに入ったエドは、いつになく真面目な様子でこんこんと諭し始めた。普段の兄弟の姿しか知らない人間が見たら、何事か、これは芝居か、と思うこと間違いない。
「は…」
「―――ずるい」
 心なししゅんとしつつも、兄に真剣に諭されたことが嬉しくて、素直にアルが答えようとした、その時。
 第三者の声が、そこに割って入った。
「……………起きたのかよ…」
 エドはぐったりと肩を落とした。折角寝てくれたと思ったのに。もはや気分は乳幼児を我が子にもつ若い母親だ。
「ずるい、ずるいぞアルフォンス君」
 さっきまですやすやと寝ていたはずの男は、依然酔っ払っているのかむちゃくちゃなことを言いながら起き上がり、ずんずんと兄弟の前までやってきた。
「…私だって鋼のに名前を呼ばれてお説教されたい!」
 心底からの本心と思われる台詞に、エドは頭を鈍器で殴られたような気持ちになった。誰かこの男を何とかしてくれないだろうか。
「…だめですよっ」
 が。
 さらにエドの頭痛を酷くする事態が勃発しかけていた。
「…あ、る?」
「兄さんはボクの兄さんなんですから!大佐はもう大人なんだから、甘えないで下さいよ!そんなにお説教されたかったら、中尉に躾けてもらったらいいじゃないですか!」
 それまで大人しくエドの言うことを聞いていた弟が、突然火がついたように大佐(酔っぱらい)に反論を始めていた。エドの顔からまたしても血の気が引いていく。元々白い顔が、今となっては青白くなっている。それでも心の隅で、「そもそも誤解だけど、おまえさっきは反対しないとか言ってたんじゃ…?」とちょっと思ったりもした。賛成されるのもどうかと思ったが、こうやってわかりやすく反目されるのもどうか、と身をもって知ってしまったエドだった。
「…さっき鋼のが優しく頭を撫でてくれた」
 恨みがましい目で、完全に拗ねた口調でロイは言った。そしてエドを見る。突然向いた矛先に、エドの目が点になる。
「君はいつもあんなことをしてもらっていたのかね?ずるい!ずるいぞアルフォンス君!」
「そんなのボクだって滅多にしてもらったことないよ、兄さん!どういうこと?!」
 今度はアルがすごい勢いで兄に詰め寄る。そんな鎧に、ロイは勝ち誇ったような笑いをひとつ。
「ほほぅ!勝ったな!」
「何言ってるんですか!子供と張り合うなんて大人気ないですよ!そんな人に兄さんはあげられません!」
「何を言うのだ、そんなのは私と鋼のの間のことで、たとえ肉親だとしても君には一切関わりのないことじゃないのかね!」
「ボクは母さんのお墓に誓ったんです!兄さんを本当に幸せにしてくれる人が現れるまではボクが兄さんを守るからね、って…!」
「じゃあそれこそ私で何の問題もないじゃないかね!こんなにお買い得なんだから!」
「大有りですよ!」
 両者、一歩も譲らない。
 エドは段々あほらしくなってきて、はぁ、と溜息ひとつ落とし、ベッドに向かう。そして黙ってコートを放り、ブーツを脱ぎ捨て、上着も脱いで、さっきまでロイに占領されていた場所へ潜り込む。そこはまだ暖かかった。
「…に、にいさん?」
「は、がね、の?」
 エドがまさにベッドに潜り込む寸前でそれに気付いたふたりは、慌てて声をかける。
「―――…」
 エドは針のように目を細めて。
「おまえら、うるさい」
 冷たい声で言い放った。
 ぴし、っと固まるアルとロイは互いに目で責任を擦り付け合っていたが、もう一度の咳払いで背筋を伸ばした。
「あのな」
 エドは、一瞬考え込んだ後、ちょいちょいとふたりを手招いた。ぎこちなく彼らはベッドに寄ってくる。
「アルはこっち。…ロイは、こっち」
 さっき「名前を呼ばれたい」と言っていたのを覚えていたらしい。困ったような顔をしていたが、それでもエドは大佐、とは呼ばなかった。それに今にも尻尾を振りそうな顔をして、ロイは示されたアルの反対側に膝をついた。それにむっとしながらも、先に呼ばれたのはボクだし、とアルは何とか心の折り合いをつける。
「まずな、今、何時だか知ってるか」
「え」
「…十二時…ちょっと前」
 だよな、とエドは淡々と頷いた。
「それってさ、世間では、夜中だよな。そう思うよな」
 アルもロイも反論の言葉を持たない。なおもエドは静かに続ける。
「確かに、このあたりは夜遅くまで人が騒いでるから、あんまり気にしなくでもいいのかもしれねぇな。でもな、一応、ここは宿屋だし、もしかしたら疲れて寝てるヤツもいるかもしれないよな?」
 エドが言っているとも思えない、まともな内容だった。
「…で、だ」
 エドの声のトーンが下がり、びく、とふたりの肩が跳ねた。
「…君達は、さっきまでぎゃあぎゃあと大騒ぎをしていたが、それに関して何かオレに言うことはないのかな」
 エドが目を眇めた。宵闇の中でさえ、その黄金の目は強さを失わない。
「…ん?どうなのかな?」
 アルはロイと目配せした。瞬間ふたりの間に何ともいえない空気が生まれたが、彼らは息を吸い込むと(アルの場合は気分の問題だったが)、深々とベッドヘッドにもたれるエドに頭を下げた。
「「…ごめんなさい」」
 エドはそんなふたつの頭をまじまじと見詰めていた。
「…………」
 沈黙はひどく長く感じられ、ロイの酔いもわずかにだが醒めつつあった。そうすれば、いかに自分がめちゃくちゃなことをしたり言ったりしていたか思い出さずにはいられない。まさに、穴があったら入りたい気分のロイだった。
「…………ぷっ」
作品名:年上の男の子 作家名:スサ