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年上の男の子

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 やがて、エドの噴出す声がして、鎧と大人は顔を上げた。がば、とすごい勢いで。そこには、金の瞳を和ませて笑っている少年がいた。
「…よろしい!」
 エドはシーツからにじり出て、膝だけでベッドの上を進む。そして、アルの鎧の頭と、ロイの黒髪を同時に撫でてやった。
「仲良くしないと、だめだろ?」
 普段のエドからは考えも付かない、その穏やかで優しい庇護する態度に、撫でられている方はほけっとする。
 いや、単に、エドとしては、普段は自分よりずっとしっかりして見える弟や、自分よりうんと年上の男が自分の関心を引きたくて喧嘩しているのが、おかしくもありくすぐったくもあったのだ。
「…にいさん…」
「…はがねの…」
 ふたりの頭をシーツにちょこんと正座して撫でるエドの顔は嬉しそうにはにかんでいて、そのポーズといい表情といい、普段の生意気な顔が嘘のように可愛らしかった。そんな彼を見上げているアルとロイの心理をもし擬音語で表したのなら、恐らく「じーん」といったところだったろう。ロイに至っては、その黒い瞳が潤んでいるようにさえ見える。感動で。
「…ん?」
 呼ばれたエドは、なんだ、と小首を傾げた。その表情がまた、ありえないほどにやわらかい。
「にいさん!」
「はがねの!」
「うわぁっ?」
 がば、と双方向からふたりがエドに抱きついた。ただでさえ、どちらも単体でエドより大きいのが、豆なエドに向かって抱きついたりなどしたらどうなるのか…。
 べしゃ、とふたりの下敷きになるがごとく、エドは潰れた…。

[2]

「…笑い事じゃないよ、少尉」
 仏頂面で、エドは目の前で笑いを堪えているハボックに言い放った。
「や、…わりぃ」
 謝りながらも、まだ彼は笑っている。いいけどね、とエドは諦めの溜息をついた。
「ほんとうにごめんなさいね、エドワード君」
 と、改めて医務室にやってきたホークアイに、すまなそうに謝られた。
「や。別に中尉は悪くないじゃん」
 これにはいささか居心地悪くなり、エドは困ったように弁解した。そうだ、彼女はちっとも悪くない。
「いえ。でもやっぱり、大佐の責任なのだし」
 大佐の罪はどうやら彼女の監督不行き届きに分類されてしまうらしい。それもどうだ、とエドは複雑な気持ちになる。大佐に責任能力なし、というのが東方司令部の統一見解なんだろうか。
「………」
 ―――昨夜。
 エドは大佐と弟の下敷きになって、しかもただの下敷きではなく、加速がついていたため、めきめきと潰されえらい目に遭った。しかも背中をしたたかベッドヘッドにぶつけて、さらにその打ち所が悪かったらしくて(ついでに、ベッドは壊れた)、およそ一週間の足止めを食らうことになってしまった。
 エドは何とか、この大騒ぎに関わっているのが軍の大佐だとは知れないように宿と話をつけ、それからおろおろする鎧と大人を引っ張って自ら司令部まで行った。夜中でも、誰もいないということはないからだ。
 見知った顔の中にハボック少尉を見つけ、そこでようやくエドの気も抜けたのだろう。後は医務室のベッドでバタンキュー、朝まで糸が切れたように眠った。
 そして今は軍医による治療を終え、その後のことをハボックから聞いていたところだったのだ。
「今、大佐は?」
「…反省行事をしていただいてるわ」
「…。うちの弟は…」
「ちょっと興奮しているようだったから、大佐とは別の反省行事をしてもらっているわ」
 エドは何とも困った顔で、中尉を見上げた。まったく、よく出来た女性だ、と思う。こんな美人を脇に従えて置きながら、何だってあの男はああなのか。…いや、違うな、とエドは考えを訂正する。こんな素晴らしい女性を従えているから、あの男のダメ度には一層磨きがかかっているのではないか。
「…すいません、ご面倒を」
「それは私の方こそ。上司がとんだご迷惑を」
 ふたりは互いに頭を下げ、それから相手をうかがうようにちらりと目線を上げた。そこで、くすりと笑う。
「…中尉、オレ思ったんだけど」
「なに?」
「大佐って、甘やかされすぎ」
 リザは困ったように微笑んだ。
「それを言うなら、エドワード君」
「なに?」
「アルフォンス君も、意外と甘えたね」
 エドはぱちぱちと瞬きした。
「エドワード君」
「…ハイ」
「…確かに甘えただし、わがままだし、融通は利かないし、世間知らずだし、思い込みは激しいし、自信過剰だし、後先考えないし、時々本当に馬鹿なのじゃないかしらと思うこともあるし、発作的に殴りたくもなるし、三人分くらい手がかかるけど」
 麗しの中尉は、淡々と続けた。うっすらと形のよい唇に刷かれた笑みが、いっそ怖い。ちなみに言っていることも、怖い。
「根は一途で不器用な人なの」
 す、と彼女は膝を折り、エドの両手を捕まえた。そして下から覗き込むように言う。
「大佐のこと、相手として、考えてあげてくれないかしら」
 ―――直球だった。
「―――――――――」
 エドは言葉もなく、口をぽかんと開けてしまう。
「オレからも頼む、大将」
 と、思わぬ伏兵が、トドメとばかり声をかけてきた。
 …おまえもかブルータス!
「大佐は、エドと会ってからっていうもの、女遊びをしなくなった」
 ハボックは珍しくきりりとした顔で言い放った。
「…それは『遊ばれなくなった』の間違いではなくて?」
 中尉は眉をひそめて不思議そうにまぜっかえしたが、ハボックはめげない。
「まあそうも言いますけど」
「…遊ばれてたんか…」
「そうなのよ。知らぬは本人ばかりなり、でね。私たちも本当に困ったものだったわ」
「………」
 意外とこの中尉のことを、表面的にしか見ていなかったのかもしれない…、エドはその台詞でそう思った。…いずれにせよ、女はわからん。
「まあそれはそれとして」
 やはりめげずに、ハボックは流した。
「エドと会ってからの大佐は、毎日結構活き活きして、そろそろ落ち着いてもいいくらいの年だろうに、実に楽しそうに過ごしている…」
「………」
 エドは何となく聞いてしまう。
「それはもう、俺達から見て微笑ましいほどに」
「…微笑ましいの…か…?」
 エドの眉間にくっきりと縦皺が浮かんだ。それじゃ愛玩動物並の扱いだろう、と。だが、幸か不幸かそれには答えが返ってこなかった。
「とにかく、だ。エド」
 ハボックはごほん、と咳払いをした。
「いや、…鋼の錬金術師殿。これは、俺達東方司令部皆のたっての願いだ」
「………。…はっ?」
 がっし、とハボックは呆然としているエドの両肩に手を置いた。力強く。エドは、そんな真面目な彼は初めて見るなあ、と思った。もはや何を考えたらいいのかにも困窮する有様のエドだった。
「―――大佐を、たのむ」
 ―――またしても直球だった。
「―――――――――」
 エドはもうなんと言っていいのかわからず、ただまじまじとふたりの士官を見つめるしか出来ない。なんだ、一体何がどうなっているのだ。
 ただ、何も言わないと大佐とくっつけられてしまいそうだ、という危惧を抱く。
「…ちょ、っと、待った?」
 ようやく、うめくように彼は言葉をひねり出した。
「えっと…。あの、今更なんですけどね?」
作品名:年上の男の子 作家名:スサ