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年上の男の子

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「うん。たとえば何がしたいの、あんたは」
 エドは怒るでもなく、ただ本当に興味があるだけ、という調子で尋ねる。何が…と問われ、ロイは色々思い浮かべる。それは、たくさんある。でも言葉にして良いものか。そんな、いきなり。やっぱり物事には順序というものが。
「た、たとえば、だね…」
「うん?」
 エドは、急かさず待っている。
「たとえば…」
 だが、ロイは待たれれば待たれるほどしどろもどろになっていく。はぁ、とエドが溜息をつくのは時間の問題だったのかもしれない。だがロイにはロイの言い分もある。そんな純な目で見られながら、どうしてあんなこといいなできたらいいなと暢気に語れるというのだ。だがやはりそれはロイの事情で、エドの知ったことではなかった。
「なんだろうな、たとえば。あんたはオレが好きで、オレに触りたかったり色々あるんだったよな。ていうと、あれか、キスとかしたいのか」
 むぅ、と考え込むようにしてエドは淡々と尋ねた。
「キ!…ス」
「したくないのか」
「したい。です」
「あっそう…」
 エドは目を細めた。何なのだ、この男は。一体なんでこんなに純情なんだ。いや違うな、ムッツリなのかもしれない。男は皆狼だ。年頃になったら慎まないと。だがエドは女の子ではない。
「したいのは、キスだけ?もっと他にもあるのか」
「え!」
「ないのか」
 ぶんぶん、とロイは首を振った。面倒だが、面白くなってきてもいたエドは、へえ、と淡々と続けた。
「…まぁ…そうだな」
 くす、とエドは笑った。いたずらっ子の笑み。
「オレの行動をあれこれ拘束しないというなら、オレはあんたとそういうお付き合いをするのにやぶさかではない」
「…!」
 エドに主導権を握られていることには構わず、ロイは驚きで目を丸くした。
「何事も経験だし…、あんたは抜けたところもあるけど、まあ非常にバカ、というのではないから、得るものもあるだろう」
 そんな化学実験のような所見を述べられても…。とロイは少し複雑な気分になった。
「それに、オレ自身、あんたのことが嫌いなわけではない」
 思わず嬉しそうな顔をしていたのだろう、エドが小さく笑った。その顔は可愛らしかった。偉そうな言動とは、似ても似つかぬほどに。
 知らず、ロイはその顔に見惚れていた。
「…ただ、言っておくけど、オレにはまずそういう経験は、ない」
「………?」
「だから、オツキアイというのの経験が、だ」
 ロイはぱあっと顔をほころばせた。
「私の経験値を二人で半分こしたらいいじゃないか」
「…。あんた、デリカシーないって言われるだろう」
 ロイは本気で判らないらしく、小首を傾げた。いや、いい、とエドは力なく首を振った。そんなことを言われて喜ぶ女はいないだろう、というのは、エドにだってわかるのに。だって、「自分は経験豊富だから安心しろ」と言ったわけで、それはつまり、なんというか…、自分の前にもいっぱいいたしいっぱい経験もあったし、ということに他ならないのだ。そんなことをあからさまに言われて喜ぶヤツがどこにいるのだ。考えなくてもわかると思うのだが。
 だがまあ、目の前にいるのは、そういうことを普通に理解している人間ではないのだから、しようがないのかもしれない。そう、今エドの目の前にいるのは、ロイ・マスタングなのだから。
「…それと、オレはオレの目的をあんたのために曲げるつもりはない。勿論旅も止めない」
 頭を切り替え、エドはまたしてもきっぱりと断言する。
「…たとえ話だけど…オレの目の前であんたが死にかけているとして」
「私は死なないよ鋼のを残して!」
「…年を考えたらあんたが先に逝くのが順当だと思うがな…。まあそんなこた問題じゃない。今はたとえばの話をしてるんだ。黙って聞いとけ」
 エドは弟でも相手にするように、ぴしゃりと言い切った。ロイにそれに従う義理などなかったが、なぜか言われるまま、大人しく聞いていた。
「ところが反対側では賢者の石があって、それを使えばアルを元に戻せるとして」
 ロイは、今度は茶々を入れなかった。
「そういう条件だったとして。…オレはあんたを選ばない」
 エドは、一度だけ瞬きをした。
「…それでもいいの?」
 エドはじっとロイを見詰めた。心のうかがえない、その深い瞳を。
 それでもいいのか―――究極の場面でロイを選べない自分と、本当にそんな風になりたいのか、と。
「………」
 ロイは―――、む、となぜか仏頂面になった。
「…?…!いひゃっ…」
 そのまま、彼はむにゅ、とエドの両のほっぺたをつまんだ。それまでのしどろもどろな様子が打って変わって、強気な態度に出たものだった。
「鋼の?…私を馬鹿にするものじゃない」
「……………………………………………」
 大佐をバカにしないでいられる裏技なんてあるんかい、というのを、エドは目だけで思いっきり表現してやった。そしてどうやら、それはロイに通じたらしい。人間不思議なもので、悪意の方が相手に通じ易い。
「ううっ、傷つくなぁ…。あのね、鋼の?」
 ロイは、むにむにとつまんでいたエドのやわらかい頬を離してやった。
「一般論なんか、必要ないじゃないか」
「……?」
「私たちには私たちのやり方があるし、行き方がある。君が私より優先させるものがあるのは、たとえ一般論としておかしくても、それだけだ」
 私「たち」とくくられたことに、エドは驚いて目を瞠った。ロイはそんな様子に目だけで笑って、付け加える。
「…実は、私は結構思い込みが強くて」
「知ってる…」
「君が私が死にかけていても私を選ばないのは、私を誰より信用しているからだ、と信じられる」
「…は?」
「私は君に守ってもらう必要はない。だから、君が私を助けよう、なんて思わないということは、私はまだ大丈夫だ、ということじゃないかね?」
「…えぇと…」
 エドは困ったように言いよどんだ。なんだか、詭弁のような。困惑している子供に、もう一度ロイは笑った。そしてこう言った。
「それに順番が違ってる」
「…順番?」
 それはなんだ、とエドは繰り返すことで促した。ロイは微かにほろ苦く笑った。そして静かに切り出す。
「私は、君が好きだ。だから近くにいたいし、触りたいよ。でも、触りたいから好きなんじゃない。近くにいたいから好きなんじゃない。触れられなくたって、いいんだ。…それは、本当は君のすべてに触れていたいけれど」
「…。すべて…?」
 エドはまた繰り返した声に恐れを滲ませた。
「触れられなくても―――」
 ロイは、構わずそう囁いた。
 あ、とエドはただ口を開く。
 年上の男は、エドの服の裾をそっと掴んだ。そこに、顔を伏せる。

「―――君が好きだよ」

 囁く声は無上の喜びに満ちて響いた。
「……………」
 エドは何かを言おうとして―――、結局、やめた。あぐあぐと口を動かすも、彼の快活な唇からは言葉が一瞬奪われてしまったかのようだった。
 …こわい。
 不意にこみ上げたのは、恐怖。見知らぬものへの、畏怖だった。目の前のこの男は、自分の知らない何かを知っている。そう覚った。彼は直接に自分を傷つけることはしないだろう。だが、その労わりがいつかエドをだめにする。
 そのことを、少年は鋭敏に覚っていた。
作品名:年上の男の子 作家名:スサ