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スノースマイル

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 そんなロイにエドはさらに目つきを鋭くするが、伸びてきたロイの手に頭をくしゃくしゃとかき混ぜられて目をつぶる。
「わ、ちょ、…やめろよ!」
「鋼のは本当にばかだな」
「はっ?!」
「意識してくれるのは嬉しいが、…やきもちなどやく必要はないだろうに」
「……はぁぁっ?!」
「さて、ほら、座りたまえよ。スープはきっとすぐ持ってきてくれると思うよ」
「ちょ、待て、待て待て大佐コラ、なんだそれ?!」
「なにがだい?」
「すっとぼけやがって…!」
「ほら鋼の、暴れるんじゃない」
 温室を破壊する気か、と窘められれば、そうもいかない。悔しかったが、エドは渋々腰を降ろすしかなかった。

 素朴だが暖かみのある食事に舌鼓を打ちながら、エドは、遅れ馳せながらそこがあまり寒くないことに気づいた。いや、むしろ暖かい。
 ガラス張りの温室なんて、寒くなりそうなものなのに。
「…大佐?」
「うん?足りないか?」
「違う。…なあ、なんでこここんなにあったかいんだ?」
「寒かったら温室とは言わないじゃないか」
「そんなこと言ってねぇ。…暖房みてーなもんもないのに、変…、あ…?」
 言いかけてエドはやめた。そして、目を丸くしてロイを見る。ロイはといえば、にやりと笑った。
「…あんた?」
「ご名答」
「まあ、温室に雨は降らねーしな」
 エドもまた、にやりと笑う。
「ひどいな。傷つくじゃないか」
「ウソつけ。…で?どんな種があんだよ」
「まあ要するに、この温室内に限っての室温の調整というか、そういう式だよ」
「暖めるのは得意ってことか、焔の錬金術師さん?」
「まあ不得意とは言わないけどね、確かに」
 ロイは困ったように肩を竦め、苦笑した。
「…内緒だよ?」
 そして情けない顔と小さな声でそんなことを頼み込むものだから、エドはおかしくて、気分も良くて、だから見逃してやることにしたのだった。
「でも、なんか意外だな」
「何がだい?」
「錬金術師よ大衆のためにあれ!」
 首を傾げたロイに、突然居住まいを正したエドが、背筋を伸ばして宣言する。それにロイが目を瞬かせると、エドは笑った。
「…なーんか、大佐にはそういうの、縁遠い気がしてたからさー」
 ひひひ、とエドも意地悪く笑ったが、どこか憎めない。
「それは間違いじゃないぞ」
「へ?」
「これは立派に自分のためだ」
 ロイは胸をそらし気味に、すました調子で反論する。
「私が私のうまい食事の為に尽力するのは、当たり前の欲求だとは思わないかね?」
「――――――」
 エドは、…えへんとばかり胸をそらして言うロイに、ただもう絶句するしかない。しかし、しばしの沈黙の後、彼は小さく噴出し、次いで腹を抱えんばかりの勢いで笑い出した。
「…鋼の?」
 そんなエドに、ロイは怪訝そうな顔をする。
「…大佐って…」
「私?」
「大佐って、…ばっかだなー!」
「………」
 涙まで流して笑っているエドに、今度はロイが言葉を失う番だった。
「…はー、おかしい…。…なぁ、大佐?」
「なんだ?」
「…あんた、ばかだなあと思うけど、…オレそういうの、嫌いじゃない」
「…………」
 笑いすぎて滲んできた涙を拭いながら、エドは笑い顔のまま続けた。
「おっもしれーの。あんた、結構いいやつなのな」
「…それは…お褒めにあずかり…」
 いくらか呆けた様子でそう返すロイに、エドはいつまでも笑っていた。それはいつになく屈託のない、無邪気な笑い方で、ロイの胸を衝いたものだった。

















 コーヒーを飲みながら、その湯気の向こうに、ロイは目を細める。
「…君は今どの辺にいるんだろうね、…鋼の」
 そして、他には誰もいない温室の中、ぽつりと呟く。
「……………」
 ロイは黙って目を閉じ、かぶりを振った。
 ―――どこにいてもかまわない。無事でいさえするなら。…そう思った。


 喫茶店を出て、ロイは細い路地をひとり歩く。北風を理由にポケットに手を突っ込んで、そうすれば、あの店の余韻なのか、エドの手を思い出した。小さな手だった。子供らしい手でもなかったけれど。ただ、その大きさだけが、子供らしいものだった。
「……」
 ポケットの中で手を握り締めて、ロイは立ち止まり、一度来た道を振り返った。そこには何の変哲もない景色がある。だが、目を凝らせば見えるような気がした。
 軒先の花や野良猫を興味深げに見ていたエド、落ち葉を散らかしていたエド、…たとえばその路地を今にも曲がって出てくるようにさえ、思えた。そんなことがないのは、誰よりロイが一番知っているのに。
 ロイは、もう一度ポケットの中で手を握り締めた。
「……」
 寂しいというのとは違った。今ここにいないエドを残念に思う気持ちは確かにあったが、覚えていることを、思い出すことを、辛いとは思わなかった。どちらかといえば、それは、思い出すだけでも胸が温まるような、そういう思い出だった。彼はひっそりと笑うと、一度かぶりを振ってまた歩き出す。

 そして、数歩も進んだだろうか。

 ザー、ザザー…

「……?」
 背後から何か物音が聞こえてきて、ロイは訝しく思い、振り返った。
 そして、立ちすくむ。
「…鋼の…?」
 そこには、去年と少しも違わない姿のあの金髪の子供が、やはり去年と同じように落ち葉をかき回して歩く姿があった。
 デジャブかと、ロイは茫然としてしまう。
 しかし、その幻は、ロイの視線に気付くと顔を上げ、気さくに片手を上げた。
「よ、大佐」
「………」
 幻が喋った、とロイは目を丸くする。
 …そんな反応に奇異な印象を抱いたのだろう。エドは自ら近づいてきて、ひらひらとロイの顔の前で手を振るのだった。
「おーい。大佐。大佐?」
「…私はどうかしているのか…鋼のの幻が見える」
「はぁ?誰が幻なんだっつーの。オレだよ、オレ!」
 胸を逸らし、ふんぞり返るようにエドは声を張り上げた。その姿に、ロイはいよいよ茫然としてしまう。
「…鋼の?…本当に?」
「本当にって…なんだそりゃ?」
 一年前とすこしも変わらないように思える姿の少年が、不思議そうに首を捻るのを、ロイは黙って見ている。
「大佐ぼけてんじゃねーっての。ていうかさぼりすぎ。オレが司令部行ったらいねーんだもん。中尉がお冠だったぜ、ほら、帰ろ大佐」
 まったくオレまでとばっちりだよ、とか何とかぶつぶつエドは言っている。だが、ロイはまだ実感が湧かないのだ。
 まさか、さっきまで「今どうしているか」と思っていた、当の相手がここに来るなんて、思いも寄らなかった。だから、茫然としてしまう。
「…大佐?」
 唖然としたまま言葉を失っているロイに、エドはようやく怪訝そうな顔を浮かべた。そしてさっきとは反対側に首を傾げて、呼ぶのだ。
「…鋼の」
「ああ、うん…?」
「…。おかえり」
「…は?」
 唐突なロイの言葉に、エドは目を丸くする。いつからここは自分の故郷になったのだろうか。
「…ああ、間に合ってよかったよ。今年もそろそろポワールが終わる時季なんだ」
「あっ、去年食ったやつだな!うん、あれうまかった」
「惜しいな、一時間前に出会っていたら一緒に連れて行ったのに」
作品名:スノースマイル 作家名:スサ