コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ
真夏日にブルーハワイ。
気がついたら、十月になってた。早い。…うさぎさんと貴族さんの話は次回するとして(色々あって纏め切れなかった)、今日は夏休み中、うさぎさんとハンバーガー君と俺が頭ツーンってなった話をしたいと思う。
普段は深夜からコンビニのバイトをしている俺だが、その日は早朝から来るパートのおばさんから娘さんが熱を出して来れなくなったと連絡が。夏休み入って暇だし、時間もあるしで、30分だけ休憩もらって廃棄の弁当を掻き込み、店長が差し入れてくれた温かいお茶を飲んで、一息吐いてから、もうひと頑張りと正午まで働いて、店長に「助かったよ!」と凄い感謝されて、店を出たのは一時過ぎ。日差しは既に高くカンカン照り。アスファルトも滾って、だらりとすぐに汗が噴出す。その汗を拭って、「シャワー浴びて、寝るぞ!」と眠い目を擦りながら、ダラダラ歩いてると、目の前に見知った顔が。二人は俺に気付くと、ぱっと嬉しそうに表情を変えたがすぐにだらりとしたバテた犬みたいな顔になった。…この日の気温は35度。体温かと思うような真夏日にそうなるのも仕方がない。そう言う俺もふたりと同じ顔をしていたと思う。
「やあ、今日も暑いんだぞ!君は今からどこに行くんだい?」
まだ体力に余力があるらしいハンバーガー君が声を掛けてくる。
「こんにちは。バイトの帰りですよ。今から、ウチに帰って寝ます。…ギルベルトさん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
会えば、凄いハイテンションでひとをハグして、ケセセと不可思議な笑い声を立てるうさぎさんが温和しい。伺うように見上げれば、「あー」と顔を上げた。
「…暑くて、融け死ぬ」
何だその新しい日本語。液化して融けるってスライムかと心の中、突っ込みを入れつつ、顔を覗き込むと本当に具合が悪そうだ。
「…今日は真夏日らしいですよ。…てか、取り合えず、コレ飲んでください」
今にも倒れそうな感じに元気のないうさぎさんに店長がお礼と持たせてくれたスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開けて渡してやる。それを受け取り、うさぎさんは一気に煽った。
「…っ、はー!」
水分を補給し、ちょっとマシになったらしいうさぎさんが俺の頭をぐしゃりと撫でた。
「助かったぜ。お前に俺様栄誉賞をやろう!」
「いりません。それより、日陰に入って。次、倒れそうになっても助けませんよ」
「…アル、リツが冷てーこと言うぜー」
ぴしゃりと言う。偶然通りかかったから良かったが、運よく飲み物を持っているとは限らない。
「彼の言うとおり、ギルは日陰に入って少し休んだほうがいいと思うんだぞ!」
ハンバーガー君がそう言い、アーミパンツのポケットを探り、飴を取り出した。この暑さに融けてしまったのか包装紙にべったりと引っ付いた飴をぐいっとうさぎさんの口に押し当てる。
「ふぉご!」
「菊から持たされた塩飴なんだぞ!」
否応なしに突っ込まれて、うさぎさんは口をもごもごさせる。…どっちが年上なんだか解らない。うさぎさんは世話を焼く…と言うよりも(場合により、すごく面倒見がいいし世話焼きだけれど)、どちらかと言うと世話を焼かれる側だと思う。ムキムキさんのうさぎさんへの過保護ぷりが半端ない(だから、うさぎさんがムキムキさんに「兄さん」って呼ばれてるときには驚いた)。それにしても、ハンバーガー君、意外に面倒見いいのかな?…ハンバーガー君がうさぎさんの腕を掴んで、取り敢えず、公園が近かったので公園に入り、木陰に入る。木陰は先程の路上よりは照り返しがない分、涼しい。そこで三人、芝生の上に座り込んだ。
「…日本の夏って、暑いよな…。あっちもよ、熱波とかすげぇときあるけどよ、湿気がない分マシ」
「そうですか?…外、出たことないんで解らないですけど…」
手団扇で首元を煽る。クーラーの効き過ぎるほどに効いた室内に居た所為かこの暑さは堪える。
「本当に暑いんだぞ。湿気はホント、堪えるよ。なのに、クーラーの当たりすぎは体に悪い。温度を下げると、地球にやさしくないとか、菊が怒るしさー」
「設定温度16度は、俺もやり過ぎだと思うぜ?」
「なんで?寒いぐらいが丁度いいんだぞ!」
「いや、流石に下げても26度までじゃないですか?外気温と室温の差が有り過ぎると体調崩しますよ」
「そんなにヤワじゃないんだぞ!…菊には別のところで涼んで来いって追い出されるし」
ぷうっとハンバーガー君が頬を膨らませる。そりゃ、どこかで涼んで来いと追い出されるだろう。
「涼んで来いって、どこで涼むつもりだったんですか?」
問えばふたりは顔を見合わせた。
「ファミレス行こうとしてたんだけどよ。入る前に念のためと思って財布確認したら、小銭とカードしか入ってねぇし」
「…入る前に気付いて良かったですね。ファミレスは現金しか使えないし」
「んで、アルに借りようと思ったら、財布持ってきてねぇとか言うしよー」
うさぎさんが口を尖らせる。…ハンバーガー君はどうやらうさぎさんに奢ってもらうつもりだったようだ。
「取りに帰るのも億劫だし、コンビニでアイス買うぐらいなら、小銭あるし、…で、歩いてたら何か気分悪くなって、そこにお前が来たってワケ」
「そうでしたか。…じゃあ、今から、カキ氷食いに行きませんか?水分補給兼ねて」
「お、いいね!」
「賛成なんだぞ!」
「…あー、でも、俺の財布ん中、小銭五百円もねぇぞ」
「…俺が奢りますよ。バイト代入ったばっかだし」
「お前、超良い奴だな。マジで俺様栄誉賞を贈ろう!」
「結構です。暑いから抱きつかないでください」
「早く、かき氷を食べに行こうじゃないか!」
ハグしようと伸びてくるうさぎさんの腕から防御の体勢を取りつつ、立ち上がる。先に立ち上がったハンバーガー君に腕を掴まれる。
「さあ、早くカキ氷を食べに行くんだぞ!」
こうして、俺とうさぎさんとハンバーガー君と商店街の駄菓子屋に連れ立って行くことになった。
どんっと店先には年季の入った手回しの氷削器が置いてある。それを見やり、うさぎさんが「まだ現役なのかよ」と懐かしむような顔をした。
「第一次大戦後だったか、二度目にこっちに来たときに見たのと同じだぜ」
そんなことを言われると、俺はうさぎさんが年上で随分と永い事生きてて、国だったんだなと言うことを思い出す。
「第一次大戦って言うと、20世紀初頭ですっけ?」
「それぐらいだな。大戦終わって暫くぐれぇか。戦争でどこの国も戦費が嵩んで、動くに動けない均衡を辛うじて保ってた頃だな。上は駆け引きでてんやわんやだったが、下は戦争が終わったこともあって割かし平和でよ」
「へぇー」
「捕虜になった兵士の引渡しの為に、こっちに来たときに、菊が流行ってるんですって、食わせてくれた。そんときは、薄く削った氷に砂糖かけた雪ってのと、砂糖蜜かけたみぞれと、餡子のせた金時って3種類しかなくてよ。その頃、餡子なんか見た目が気持ち悪くて食わず嫌いしてたから、みぞればっか食ってたぜ」
「みぞれと金時は今もありますよね。今は白熊とかフルーツを沢山入れたやつとかもありますけど」
「アレ美味いよな。…でも、黒豆はちょっと苦手だぜ」
「解ります」
作品名:コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ 作家名:冬故