コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ
こぐまちゃん、ひよこちゃん。
嫁いで、近所に住んでる姉ちゃんが、甥っ子と一緒にケーキを携え、遊びに来た。そのケーキがめちゃくちゃ可愛くて、ツボったのだが、それ見た瞬間、思い出した顔はあのふたりの顔。姉ちゃんからケーキ屋の場所を訊き出したので、機会があったらあのふたりを連れて行こうと、それはもう素敵な悪巧みを思いついたガキの如く、俺はニヨニヨしながら、その機会を窺っていたら、一週間もしないうちにふたりに遭遇した。訊けば本田さんと三時のおやつを買いに行くところだと言う。俺はいい店を知ってますと、姉ちゃんに教えてもらった店に三人を案内した。
教えてもらった店は最近出来たばかりで、タイムサービスでワンコインで2時〜4時までの間、好きなケーキ+お飲み物がイートイン出来るお店だという。ちょっと入り組んだところにある所為か、新規開店したばかりだからか、混みそうな時間帯にも関わらず空いていた。
「こんなところにケーキ屋さんが出来ていたなんて、知りませんでしたよ」
「最近、出来たばかりなんだそうです。タイムサービスでワンコインでケーキセットを楽しめるんですよ」
レトロな雰囲気のドアを開く、店内は入って直ぐのところにケーキの並んだガラスケースがあって、奥は喫茶スペースになっている。初めて来たが、なかなか素敵なお店だ。…だが、可愛い店員さんの「いらっしゃいませ」の声は、男四人、その内二人、長身の外国人、しかも金髪オールバック堅物そうなムキムキと何だかちゃらちゃらとしたヤンキーっぽい雰囲気の細マッチョを見て固まってしまった。初対面のひとにこのふたりの意識せずとも与える威圧感は凄いので脅えても仕方ないだろう。ちょっと店員さんが気の毒になった。それを気にするでもなく、ふたりと本田さんは店内を見渡した。
「素敵なお店ですね」
「なかなか、いい感じの店だな」
本田さんが言い、ムキムキさんが頷く。
「おー、ケーキ、いっぱいあんじゃねぇか!何、食おう、美味そうだな…」
ムキムキさんの脇からにゅうっと滑り込んだうさぎさんの目はガラスケースに並んだ色とりどりのケーキに釘付けで、品定めするかの如く、視線が動いていく。俺はそれを固唾を飲んで見守る。俺の勘が確かなら、うさぎさんとムキムキさんにクリティカルヒットなケーキがあるのだ。
「!!」
うさぎさんの目がとあるケーキの前で止まった。好奇心いっぱいの目が見開かれ、ぽかんと口が開き、暫し凝視するのを俺は観察する。そして、我に返ったうさぎさんが言葉も無くくいくいとムキムキさんのシャツを引っ張った。
「何だ、兄さ……」
それに、店内を見ていたムキムキさんの視線が移動し、うさぎさんの指し示す指先に視線を移し、ムキムキさんは固まった。それに気づいた本田さんの視線もガラスケースへと移動し、目元を綻ばせた。
「おや。これはかわいいですね」
「甥っ子のお気に入りなんですよ。こぐまプリンとひよこのチーズケーキ」
俺がふたりに見せたかったものはこれである。カップのカスタードプリンの上に生クリームを盛って、その上に丸いスポンジでこぐまの顔、耳はクッキー、目と鼻はチョコレートで書いたこぐまちゃん。その隣にはスフレチーズケーキの上にスポンジケーキで出来たひよこちゃんがチョコレートで出来たピンクの花飾りをつけて鎮座していた。それを見たムキムキさんの硬い表情は崩れて、お花が咲いたように緩むのを、俺と俺の思惑に気づいたらしい本田さんとでニヨニヨと見やる。和む、和むわ。嫌なことあっても、暫くはこれを思い出して、ニヨニヨ出来るわ。可愛いもの好きの厳ついドイツ人萌〜!可愛いもの好きの厳ついドイツ人万歳!!本田さんと俺はこのとき、気持ちを通じ合わせたと思う。そして、強ばっていた店員さんの顔が緩んだのを俺は見逃さなかった。
「俺、ことりにする。お前はくまだよな?」
ムキムキさんの袖を引っ張り、うさぎさんがニッカリ笑う。小鳥じゃなくて、ひよこですよ。…と、野暮なツッコミはしない。ムキムキさんは逡巡したものの、恥ずかしそうにコクリと頷いた。
「くあ!芋萌ッ!兄弟愛ktkr!!どこまで、仲がいいんだwwwwお前らwwww私を萌死させる気ですかwうはwwwww」
俺の隣でいきなり静かに発狂する本田さんがちょっと怖かったが、何とか注文を済ませ、ケーキと飲み物を受け取り、窓際の四人がけのテーブルに着いた。漸く落ち着いたものの、ムキムキさんの目は感動に潤みつつ、真剣にケーキを愛でている。その傍ら、うさぎさんがフォークを手に取った。
「早速、いただくぜ!」
フォークをひよこに突き刺そうとするのを、ムキムキさんが止めた。
「待て!兄さん、写真を撮ってからだ!!」
「あ?…そうだな。ブログに載っけねぇとな!」
二人は携帯を取り出すと、真剣な顔つきでこぐまちゃんとひよこちゃんの写真を撮り始めた。…何かもう、色々、悶え死ぬ。そんなふたりにどこから取り出したのかデジカメを向けてる本田さんも何か凄くて、怖い。んで、こぐまちゃんを食べるのがかわいそうだと言うムキムキさんに食ってやるのが、お前の責務だと講釈たれるうさぎさんが面白かった。…ってか、ナチュラルにお互い食べさせあうのにびっくりした(ああ言うのは恋人同士でやるもんだと思ってたよ)。異文化スゲー。その横で本田さんが無言でシャッター切ってるのがかなり怖かったが、いいモンが見れたよ。
その後、ムキムキさんはそのケーキ屋に来日の度に通うようになり、そうしてるうちにパテシィエと仲良くなって、こぐまちゃんとひよこちゃんのレシピを教えてもらう仲になり、ムキムキさん作のこぐまちゃんとひよこちゃんスイーツにうさぎさんと本田さんと俺は、舌鼓を打つのだった。
作品名:コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ 作家名:冬故