コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ
秋の味覚はほっくりほっくり。
爺ちゃんの囲碁仲間の芋を作ってるトモ爺がぎっくり腰で動けなくなって、芋が収穫できなくて困ってると言う。日当を出すから収穫を手伝ってくれないかとSOSが俺に来た。トモ爺にはいつもおいしい野菜やら米やら、我が家は頂いているので、ひとつ返事で頷いた。友人を連れて行ってもいいかとお伺いを立てたら、大歓迎、友人らにも日当も出すし、お昼ごはんもごちそう、おやつには掘った芋をその場で焼き芋にして食べてもいいよ、お芋もお土産に持たせちゃうよ!と太っ腹な返事。大学の友人を誘うつもりでいたのだが、コンビニに来たうさぎさんにそのことを話したら、目をキラキラさせ「芋掘りって日本の秋のフウブツシなんだろ?」…どこで、そんな知識を仕入れたのか、日本の秋を満喫したいから参加したいと言いだした。断る理由もないのでお願いしたら、困ってるならとムキムキさん、面白そうだとハンバーガー君、日本の農業に興味があると髭さん、そして、
「別にお前が困ってるから手伝ってやる訳じゃないからな!」
と、ツンデレブリティッシュな眉毛さんが参加。本田さんも芋掘りは久しぶりですと参加を表明。五人の外国人+本田さんを引き連れ、免許取ったばかりな俺の運転でいざ、日曜日、晴天の芋畑へ。トモ爺はまさか、俺が外国人を連れてくるとは思っていなかっったらしく、痛めてる腰を抜かさんばかりに驚き、トモ爺の奥さんのアキ婆は挙動不審になったが、気のいい皆にすぐに慣れて、ぎっくり腰のトモ爺を家に残し、アキ婆の運転する軽トラで芋畑へと俺らは向かった。
「おお!スゲー!!」
青々と繁る芋の葉にうさぎさんが歓声を上げる。その横で、髭さんと本田さんは慣れているのか長靴、腕カバー、首にはタオル装着、麦わら帽子と余念がない。おまけにお二人はマイ軍手までお持ちらしい。残りのメンバーも同じような格好になる。
装備完了後、婆ちゃんが芋掘り機で畑を軽く返し、出てきた芋を収穫用のコンテナに入れていくという地道な作業に入る。出てくる芋虫にうさぎさんが無邪気に大騒ぎし、その芋虫の大きさをハンバーガー君と競い始めたのを本田さんが微笑ましげに見つめ、額の汗を拭う。眉毛さんは反対にそれに顔を顰めていた。その横で髭さんがアキ婆に芋の調理法を作業をしながら訊いていて、アキ婆が顔を赤らめつつ、レシピを披露している。髭さん、脱がなければ、それこそ仏映画に出てきそうな優男のイケメンだしなと思いつつ、俺も作業に励む。
「日本の芋は変わってるな」
「変わってますか?」
楕円形の表皮の赤い芋を手にムキムキさんが言う。
「ウチはじゃがいもが主流だからな。形も似たようなものばかりだし、色も白か、少し黄色味がかったものが多いな。この前、紫色のものを見た」
「紫芋ですね。製菓用に栽培されてるみたいですよ」
「お前の店にも並んでいたな。モンブラン風の芋のケーキは美味かった。兄さんは芋羊羹を絶賛していたぞ」
「ありがとうございます。…ってか、ギルベルトさんも羊羹、飽きないですねぇ」
「兄さんは飽きっぽいんだが、食い物に関しては一度ハマッたブームはなかなか、去らなくてな。羊羹の前はホットケーキーがマイブームで何枚焼かされたか解らん」
「ご愁傷様です」
ムキムキさんとそんな会話をしていると、「ぎゃー!」と眉毛さんの悲鳴が上がった。視線を上げれば、ズボンにインしたシャツを引っ張りだし、バタバタし始める。それをニヨニヨと眺めるハンバーガー君とうさぎさんさん…。それを見やり、ムキムキさんが眉間に皺を寄せ、溜息を吐き、立ち上がった。
「兄さん、アルフレッド、何をやってるんだ!!」
どうやら、眉毛さんの襟首にハンバーガー君が芋虫をINしたらしい。眉毛さんがスゲー涙目になっている。…ってか、眉毛さんもいじられキャラだな。気の毒に。見ているとムキムキさんがふたりの襟首を猫のように摘み、持ち上げ畦へと移動する。正座させられ、ガミガミとムキムキさんの説教が始まる。しょぼしょぼしょぼーんと見る見るうちにうさぎさんとハンバーガー君が小さくなっていく。眉毛さんのフォーローには本田さんと髭さんが入っていて、俺の出番はないようだ。
「すみません。迷惑かけて」
「あら、いいのよ。手伝って貰ってるんですもの」
アキ婆にフォーローを入れていると、ププーと軽ワゴンが畦道をやってきた。降りてきたのは、長女のあかりさんだ。
「お母さん、皆さん、お昼ごはん持って来ましたよ!」
あかりさんのありがたい言葉に説教は中断され、露骨にうさぎさんとハンバーガー君が喜ぶが、ムキムキさんが釘をさすのを忘れなかった。
「兄さんもアルフレッドも全然、働いてないだろう?昼からは真面目にやれ。やらなかっったら、おやつは抜きだからな」
「解ったぜ。そんなに怒んなよ〜」
「おやつ抜きはひどいんだぞ!」
「酷くない」
髭さんによると、このメンツの中で一番の年下はムキムキさんなんだとか。…傍から、やり取り見てると、どっちが年下なんだか解らなくなるな。…本当に。
さて、お楽しみの昼ごはんは具だくさんの豚汁、シンプルな塩むすび。アキ婆が漬けたぬか漬けと高菜漬け。山盛りのガネ。ガネって言うのは九州南部の方言で芋のかき揚げのこと。子どものおやつにも最適な一品だ。これが、美味い。畑で食うメシの美味さはまた格別だ。
「美味しいですねぇ。このぬか漬けが絶品ですよ」
「ありがと。私の母の代からの糠床なのよ」
「それは年季が入ってますねぇ。後、このガネも美味しいです。豚汁も甘めですが、九州の出身なんですが?」
「そうなんですよ。桜島が有名なところから、嫁いできたの」
「豚汁が甘いのは初めて食べたけど、美味しいね。具材の甘みが引き立つ感じがするね」
髭さんが言う。
「私の地元では豚汁にざらめをいれるのが普通だったから、こちらに来て、入れないと知ってびっくりしたわねぇ。お父さんには最初、お前の作るご飯は全部、甘いって怒られちゃったわ」
食べ物談義に花咲く。アキ婆の地元では普通は砂糖を入れない料理に砂糖を使うことが多いらしい。ガネにも砂糖を入れるそうだ。
「豚汁うめー!!ガネ、うめー!」
「おかわりなんだぞ!」
あっという間に鍋いっぱいにあった豚汁も大皿に盛られたおにぎりもガネもお漬物もなくなる。あかりさんが「もっと作ってくればよかったわねぇ」と零すほどの食欲に驚くばかりだ。
食後の休憩が終わり、作業再開。うさぎさんが、腹ごなしに競争を持ちかけてきた。
「一時間でどれだけ収穫できるか、皆で競争しようぜ!」
「いいですよ」
「受けて立とう」
「お兄さん、負けないよ?」
「HAHAHAHA!受けて立つんだぞ!!」
「面倒臭ぇが乗ってやる。…で、何、賭けんだ?」
眉毛さんの言葉に言い出しっぺのうさぎさんがうーんと腕を組んだ。
「…負けた奴は、ねこの三角の新作ケーキ、いちごフロマージュワンホール買って、皆に振る舞うってのはどうよ?」
作品名:コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ 作家名:冬故