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『さよなら』と呟いた

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『火』の力を操り濡れた衣服や髪を乾かしてやれば、困ったように微笑んだ。

「ありがと、僕は大丈夫だよ……いいから、お仕事片付けてきて」
「けど…」
「大丈夫、ちゃんと、話するから」
「……」

不満そうな顔をしているのが自分でもわかる。
ジュードもまた、苦笑して手を差し出した。

「なら、約束」
「え?」
「君が戻ってきたら、ちゃんと事情を話すって約束…」

そう言って小指を差し出した。
促されるままに交わす『指きり』。
まるで幼い子供の様だ、と思いながら、それでも胸の不安はぬぐえなかった。

「大丈夫。だから、戻って?」
「……ッ」
「君は天界の軍団を率いる『大天使』なんだから。まだお仕事あるでしょ?」

そう言われてしまえば頷くしかなくて。
躊躇いながらもアルヴィンはその場を後にした。
全ての仕事を片付けて、再びジュードの元へとこの区域に来れる事が出来たのは翌日の、陽と月の女神の加護が入れ替わる時刻。
日中に回廊で幼い天使達に微笑む姿を見た気がしたが、遠征の報告やらで傍に行く暇がなかった。
そして漸く時間が出来て来てみれば、目の前の光景に息が詰まった。
兵士によって厳重に取り囲まれた区画。
『水』の区域が同じく七大天使に名を連ねる『正義』の配下たちによって封鎖されていたのだ。

「ジュードは……ッ」
「あの方は此処にはもうおられませんよ」
「どういう…ッ」
「『正義』様よりのご伝達です。何人たりとも『愛』殿にお会いすることは許可されておりません」
「だから、なんで奴が出張って…ッ――――」
「『正義』様が司るのは『平等』と『公平』そして『審判』でございます。その兵が動いた。あとはもう、『節制』を司る貴方様ならばお分かり頂けるはずでしょう?」
「ッ……」

グッと奥歯を噛みしめる。
そうだ、分かっていた。
『正義』の私兵がここを取り囲んでいる事に気付いた時には、ジュードの身に何が起こったのかを。


――――天使の『堕天』。それも七大天使に名を連ねる者の。


だが、だからこそ浮かぶ疑問。
あのジュードが堕ちる理由が分からない。
アレほどまでに清らかで、真っ直ぐな存在を知らない。
綺麗で……怖すぎるくらいに綺麗で、美しい。

(そうだ……堕ちかけの自分なんかよりも、ずっと……なのに、何故だジュード…ッ?)

一体どんな『禁忌』を犯した。
お前が堕ちる程の、一体何があった。
問いかけても答える声など無い。
少し前に見た悲しみに満ちた笑みが脳裏によみがえる。
そして遠征前に僅かに触れた温もりも、また……。

「ッ……ジュード……」

耳に蘇るはあの子の声。
優しい声で自分の名を呼ぶ、あの声……。
アルヴィンは左手を握り締めて、その身を翻した。
向うは、監獄。
囚われた優しいあの子の元へ……。










処刑前夜。
見上げた夜空はいつもより澄渡り。
挿しこむ月の女神の光が悲しくも綺麗で。
夢で見た声は今はもう聞こえない。
何故ならあの声の主は恐らく自分で。
『欲望』の具現だったのだろう。欲しかったモノを見て見ぬふりし続けてきた心。
月を見上げた姿勢のまま目を閉じる。
浮かぶ貴方の笑顔。
時々困った様に笑っていたのは、ねぇなぜだったの。
そんな問いも出来ぬまま、もう二度と会えなくなる。
せめてもうひと目だけ会えたら、なんてそんな我儘出来る筈ないのに。

「アルヴィン」

と、呼ぶ声音に含まれているモノが何なのか今なら分かる。
何時からそうだったのだろう。
こんな感情を込めて君を呼ぶようになったのは。
あぁ、でもきっとそう・・・出会ったあの時から僕は君に恋していたんだね。

「君で良かった。君に出会えて僕は・・・幸せだったよ」

呟く言葉は震えて。
涙が滲んで濡れていた。

「好きになって・・・ごめんね・・・」

静かに零れて、伝い落ちた涙の雫。
月の光にキラキラと輝く。
今も体を蝕む堕天への痛み。
けれどそれよりも、会えなくなる悲しみに心が痛い。
時折無茶をするから。
傷を負って帰ってきた時はどれほどの恐怖が胸を埋め尽くしただろう。

「……ッ」

月に向かって手を伸ばす。
掴めない宝石。
まるで貴方の様だ、と小さく微笑んだ。
せめて貴方に見られずに逝きたい。
そんな願いも最早叶わぬのでしょう。

「まるで子供みたいだね」
「ジュード…」
「僕は大丈夫、いいから行って。待ってるから」

そう言ってアルヴィンを送りだした。
最後に絡めた小指。
子供の様な口約束をした。

「待ってる……君が戻って来ない事を祈りながら」

そう呟いて、小指に残るアルヴィンの温もりを胸に抱きしめた。
『約束』が本当は『嘘』になってしまう事はもう既にあの時には気付いていた。
あっという間に『正義』の兵士に取り囲まれる領域。
抵抗はしなかった。
する意味なんてなかった。

「アルヴィン……アル、ヴィン…ッ」

ボロボロと零れ落ちる涙。
月の明かりがぼやけて見える。
何度も何度も…まるで呪文のように呟くのは愛しい名前。
気付かず居た想いの糸は結んだ瞬間解けて遠ざかった。
『禁忌』を犯したのは自分。
罪は……裁かれなくてはならない。

「もっと……もっといっぱい、話したかったな。楽しい思い出をいっぱい作っておきたかった……」

このまま、最初で最後の『嘘』で貴方を騙したまま、消えてしまおう。
貴方の心の傷になりたくない。
願うのは貴方の幸せだけ……だから……。
貴方だけが好きでした。
愛して…しまった。
愛されたい、愛してほしい、なんて望む事なんてできない。
せめて、最期に抱き締めて欲しかった、なんて……。
けれど、もし、生まれ変われるなら、また貴方と出会いたい。
その時はきっと……ちゃんと、この想いを告げよう。




貴方を愛していました、と。















邪魔な兵士を当て身で昏倒させる。
音をたてないように気を配りながら監獄をさ迷い歩く。

「ジュード……ッ」

どうしてこんな事に成った。
ずっと、ずっとそんな事を考える。
小指に絡めた指の細さ。
その温もりは今もこの指に鮮明に残っている。
頬笑みながら送りだしたあの時にはもう、こうなる事を理解していたのか。

「ッ……クソッ」

ならば何故言ってくれなかった。
どうして自分は……あの場から立ち去ってしまった。
残っていればどうにか出来たのではないか。
そんな事ばかりを考えながら歩く。

(『どうにか』なんて、その実どうすることも出来ないのは自分が一番分かっているのに…ッ)

階段の前で立ち止まる。
上か下か……。
どっちだ、お前はどっちに居る……ッ。

「ジュード…ッ」

名前を呼んで、そして唇を噛みしめる。
先に『堕ちる』のは自分だと思っていた。
誤魔化しに誤魔化しを重ねて。
未だ堕ちていないのが不思議なくらいに。
もう随分と前からこの身は闇に侵食されはじめて。
時折走る激痛もジュードの笑みを見れば忘れられた。
そう『癒し』だった。
あの笑みも、声も全て自分のモノに出来たら、という願望が心の底にある。
いつもは頑丈に蓋をして封じ込めて、外に漏れないようにしていた感情。
作品名:『さよなら』と呟いた 作家名:蒼稀