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太陽と月と星(後)

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 その一斉蜂起の時、最終的に頭となったのが今のトップ、イブン・イスマイルであった。長幼の序なのかなんなのか…、ムスタファが彼を助ける形で最後は収まったのだろう。そのあたりの詳しい事情は、さすがに資料からは読み取れなかった。
 何しろ、ロイは、アエルゴとは関係最悪のアメストリスの人間だ。手に入れられる資料には限度がある。
 その後十数年を経て、二人の関係がどう変わったのかも当然わからない。わかっているのは、ムスタファは戦争による拡充よりも内政の重視を訴え、結局はそれが原因で現在は政治犯の監獄へ入れられているという事実だけだ。
 内政の重視。
 もしもムスタファがそれを主眼として捉える人間なのだとしたら、ロイは戦いに来たわけではないのだし、訴えることはできるのではないだろうかと。ロイはそう考えていた。

 収監されているムスタファに、まず如何にして連絡を取るかが最初の問題であったが、これについては、通訳を間に立て、副官に「夫が収監されている」婦人を演じてもらうという策で対応することになった。収容されている囚人の中に親アメストリス派の人間がおり、まずはその人物と繋ぎを取るのが作戦の嚆矢だった。成功するかどうかは難しい賭けだが、端からこの策を恃みにしているわけでもないので、そのあたりは気が楽だった。
 ちなみに余談だが、「未婚の私にその役を振られるとは、…これは高くつきますわよ」とリザは笑っていいのか悪いのか微妙な冗談を口にしてくれたものだった。
 とにもかくにも、最も無血に近い形で和平を結ぶためのその作戦は、そうやって動き出したのであった。
 




 小隊の手荒な訪問の後、中央図書館には何の音沙汰もなかった。いっそ不気味なほど何の接触もなく、エドワードは拍子抜けしたものだった。
 …これは勿論、アームストロングが軍上層部にある程度の接触と軽い示威を行った結果なのだが、そこまではエドワードも知らなかった。アームストロングだけでなく、フランチェスカもまたそれを知らせようとしなかったのである。
 図書館の開放が段々と市民にも親しまれていくにつれ、エドワード―――エトワールの存在もまた、人に知られていくものとなった。
 すこし言葉遣いが乱暴なときもあるけれど、「こんな本が読みたい」といえばすぐにぴったりの本を探してくれて、子供の面倒見が意外と良くて、照れ屋で、よく笑う少女。肩につくくらいの金髪と同じ色の瞳、時折司書の制服が窮屈そうに元気な性格の。
 そんな彼女が時折セントラルの駅で誰かを待っている時がある。
 そういう時はいつも決まって、ひっそりとした風情で、物憂げな表情をしているのだった。
 それを見れば、彼女が誰かを待っているのは明白だった。そしてその誰かは、もしかしたら二度と彼女のところに帰って来られないような厳しい場所へ行っているのだろうと。いずれ国境の警備兵など…、命の危険がある職業の者なのだろう。
 人々はそう思い、利用客の中にはそれを尋ねる者もいたが、泣きそうな顔で曖昧に笑われ、…それ以来彼女にそれを尋ねる者はいなくなった。

 街路が方々で新しく作りかえられているのを見、エドワードは目を細める。
「……」
 美味しいパン屋やデリを教えてもらった。休日に散歩するのにちょうどいい公園を教えてもらった。どの季節に何の花が咲くか、今まで気にしたこともなかった季節の流れを、知った。
 彼が帰ってきたら、話したいことがたくさんあった。
 …彼女は、自分の白い右手を見下ろした。
「…絶対驚かせてやるんだからな」
 そして、そっと微笑んだ後、汽笛を上げて旅立っていく列車をじっと見つめた。





 ムスタファと遂に繋ぎが取れたのは、ちょうどイブン・イスマイルから返答が…、つまりは友好国宣言に調印してくれるかどうかという親書への回答が、届いた日でもあった。
 ―――わかっていたことではあるが、交渉は不可。
 アメストリスが属国となるというのなら交渉のテーブルにつこうというあからさまな態度に、ホークアイも一瞬こめかみを引きつらせた。
 ロイはといえば、溜息をひとつ落としただけであった。
 とはいえイブン・イスマイルは、ロイ達アメストリスの使節は国際的に紳士に扱おうと申し出、国外退去に五日間の猶予を与えた。
 五日間ではぎりぎり国境の向こうに出られるかどうかというところだったが、即刻逮捕、収監とならなかっただけまだましなのだろう。
 そしてそんな日に、恐らく今のトップに対抗できるであろう人間と繋ぎが取れたのは、…幸運だったのかどうか、今はまだ判断できそうにない。


 残された時間は短く、その中で彼らは、まず「ムスタファ・ケマル・ユースフ」という玉を引き込まねばならなかった。そして、彼を旗頭にし、あくまでその援護という形でアエルゴの内紛(様相としてはクーデターとなるだろう。戦闘の規模は今の所想定不可能だが)に介入する。しかしこれは「アメストリス」の軍人がすることではなく、あくまで「ロイ・マスタング」がするとことして進める他なくなっていた。今から本国に打診して相談している暇も手段もない。
 ただ、使節として旅立ったロイの共は当然さほど多いわけでもないので(護衛という形で人数はそこそこにいるが、軍を動かしているわけではない)、実際に援軍として介入するためには一番近い南方司令部に詰めている兵達を動かす必要があった。

「反対です」
 いつになく強情な顔をして副官が言うのに、ロイは真面目な顔をしてこう言った。
「これは命令だ」
「…ですが、」
「これ以上の抗弁を認めることは出来ない。―――リザ・ホークアイ少佐」
 重々しく、男は繰り返した。
「南方司令部へ赴き、急ぎ援軍を組織しろ。何かごねたら戦時特例とでも言って認めさせろ」
「…しかし、私は…」
「…ダルトン中尉、ホークアイ少佐の補佐を頼む。出発は早ければ早い方がいい。頼んだ」
「はっ…!」
「少将!」
「くどい」
 ロイは短く切って捨てた。
 そうして背中を向けてテントから出て行こうとする上司に、ぎり、とホークアイは歯を噛み締める。
 こんな情けを、自分が喜ぶとでも思っているのか、あの男は…!
「しょ、少佐…」
 ロイに随行を命じられた中尉は、静かにしかし激しく燃えるリザの憤りにあてられたかのように息を飲む。
「…少佐。君以外の誰に頼めるというんだ」
 と、まさに今出て行こうとしていたロイが、ぽつりと背中で言った。この言葉に、リザははっとしたように目を見開いた。
 確かに。今この場に、ロイの命令を遂行できる人間はいないかもしれない。ただ命令を文書として持たせることは出来るだろうが、それを実行させることが出来るかといったら確かに難しい。だがリザなら、彼の命令を実行できるだろう。寸分違わずだ。
 近くで守ることだけが重要ではないのだと、そう思うところなのだろうか。
 侮られたかと思ったが。
 そうでは、ないのか。
「それに…」
「…少将…?」
 背中を向けたままなのは、顔を見られたくないからなのか―――もしかしたら、気恥ずかしさゆえなのか…。
「…南方司令部に入る前に、エルガーという街があるだろう。西部寄りの、山の上の方の小さな街だが」
「は…」
作品名:太陽と月と星(後) 作家名:スサ