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太陽と月と星(後)

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「少佐が指示を入れたとき、ちょうど合同訓練の段取りをしに来てたんですよ。東方司令部の、これから引き合わせますが、ベル中尉が」
 それで、とハボックはのんびり続ける。
「ベル中尉は、ちょうど自分らと入れ替わりに東方司令部に転属になったんですが、実は自分の同期なんです。士官学校の。まあ間は省きますが、俺にはこいつが連絡くれたわけです」
 リザは瞬きで聞いていることを示した。
「で。…褒めてやってください、少佐。ベル中尉と一緒に来てたのが、ホフマン軍曹といいまして。憶えてませんかね?まだ皆東方司令部にいた頃、イーストバンクをテロリストが占拠した時、大金星上げた」
「…ああ、…憶えてるわ」
「そのホフマン軍曹がね、中尉の命令ならぜひ、と。…そういうわけで―――」
 そこで、ハボックは立ち止まり半身になって、曲がり角の先を元上官に示した。
「…!」
 リザの目が、驚きに見開かれる。 
 練兵場には、すぐにも戦闘に参加できるという状態の兵士達がいた。
「ホークアイ少佐に、敬礼!」
 さすがに呆然としているリザに、規律正しく並んだ兵士の先頭に立っていた男が号令を上げ、敬礼の姿勢を取る。
「…我等東南連合連隊千百一名、ホークアイ少佐の手足となってマスタング少将閣下のため身命を賭して働かせていただきます」
 リザの脇にいたハボックが、悪戯を楽しんでいる子供のような目をして敬礼しながら、そう言った。



 ロイ達一行がアエルゴへの滞在を許された五日間の、最後の日。
 その、夜明け。
 風紋が砂に美しい絵を描いていた、その日。
「―――リンデンを攻略する」
 ロイは、作戦の決行を、部下達に告げた。

 一日と半分くらい監視していたが、リンデン収容所の警備は大分手薄だった。もっとも、よほど長距離の攻撃が可能な武器でも持ち出さない限り、こうも障害物のない地形では、おいそれと侵入を許しはしまい。
 朝の六時が全体の起床時間で、それから清掃をし、食事となる。
 パチン、というけして大きくない音が大きな熱とうねりを生んで朝の静寂を壊したのは、〇五三〇。
 作戦の開始であった。

 どこからとも知れない攻撃に、完全にリンデン収容所はパニックに陥っていた。それはそうであろう。あまりにも唐突過ぎる爆発だった。
 ―――アメストリス使節団は、夜のうちにリンデン収容所まで五百メートルの位置まで移動し、保護色の大きなシートをかぶって、息を潜めていた。ロイはそれとはいくらか離れた地点に護衛二人のみを従えただけで身を潜め、…そして、時計の針が決行を告げた瞬間、錬成を発動させたのである。
 突然の爆発に、収容所内からは混乱しきった声とサイレンが聞こえている。
 そこそこの近距離に迫っているアメストリス側にとっても、熱風等の障害はあるのだが、風下にいるわけでもないので被害といえるほどではなかった。
 ロイは、間断なく、意識を研ぎ澄ませて錬成を行う。
 最初の爆発で壁は半壊し、そして二度目三度目とそれが続いた頃には、骨組みが突き出して焼け爛れていた。突如として襲い掛かってきた焔に、中の人々は狼狽しきっている。まだ寝ていた者もいるだろうし、数度の爆発に巻き込まれて既に落命した者もいるに違いない。
 だが、徹底的に、減らせるだけの障害を減らしておく必要がロイにはあったのだ。手勢には限りがある。なおかつここは敵地だ。人的にも補給面でも物資が乏しい状況では、ふんぞり返っているわけにも行かない。
 いずれにせようまくいかなければ帰れない。
 迷っている余裕はなかった。
 それに、…自分ならやり遂せる、と思えるくらいには、彼にはまだ若さがあったのだ。

 所内には、通訳が繋ぎをつけた親アメストリス派の人間も数人いた。彼等には、近いうちに何かあるかもしれない、程度のことは伝えてあった。騒ぎがあれば、その時どう動くべきかも。詳細を伝えなかったのは当然の保身である。
 あらかた侵入口を作ったところで、ロイは立ち上がり、シートを跳ね除けた。本来であれば収容所の壁の上から射撃が跳んでくるところだが、今は壁そのものが機能しなくなっている。
 ロイがシートを跳ね上げたところで、別途待機していた、アメストリス出発からロイに従ってきた一個小隊より少し人数が多いくらいの変則的な編成になっている一軍が、勢いよくシートを跳ね飛ばし、それぞれが手持ちギリギリの火器を構え雄叫びを上げて突入を始めた。


 あまりにも突然の、しかも想像を超えた奇襲に、リンデンの警備の人間はすっかり度肝を抜かれており、抵抗らしき抵抗を受ける前に、通信設備を占拠することができた。これでまずは、アエルゴ軍の集結を遅らせることが出来る。上出来だった。次は輸送手段、具体的には車だが、こちらの確保が先決であったが、―――リンデンにはどうやら車というものは二台しかないらしく、そのうち一台は中庭らしきところに停車しており、乗り込もうとした職員を制止し確保、もう一台にいたっては当初の奇襲によって既に大破していた。
 しかし、抵抗がほとんどないとはいっても、まったくの無抵抗というわけではなかったため、小競り合いを繰り返しつつ、通信設備を拠点に、アメストリス軍は展開していく。
 ロイ自身もまた、錬金術だけでなく体術までをも使いながら戦闘に参加した。こんな乱戦に加わるのは久しぶりだったが、幸いにして勘は鈍っていないようだった。
 平素であれば、あれだけの大規模な錬成を立て続けに行えば、多少の疲れは出てくるはずだ。だが、昂揚した意識がそれを覚らせない。ぎらぎらと心は昂ぶり、いくらでも動けるような気分だった。
「ご報告いたします、閣下!現在職員十八名を確保、新アメストリス派五名を解放いたしました!」
「了解した。当方の被害は」
 まるで焔を秘めたかのように燃え盛る黒い目が、伝令を見返した。煤けた頬をした兵、徽章から少尉と知れる青年は、再び敬礼をし直してから緊張気味に口を開く。
「軽傷が八名、重傷、死傷はなしです! …我が軍は未だ健在です!」
「そうか」
 ロイはそこで、笑った。恐らく無意識なのだろう。だが、それを見た兵士は感激に目を輝かせた。
「報告ご苦労。以降も占拠およびムスタファの解放に尽力せよ」
「…はっ!」
 ばっ、と青年は胸を張って足を揃え、敬礼を仕切り直す。それから「失礼いたします」と声を上げると、元来た回廊を走って戻っていった。
 ―――副官が南方司令部まで行って戻ってくるのに掛かると考えられる時間は、七日前後。リンデンに直接向かうよう指示してあるので、すぐにこちらへ来るだろう。雨巣トリスからリンデンに入るには、アメストリス側の砂漠から入ってくるのが地図上では最短だが、容易ではない。それゆえにアエルゴの監視の目も薄い。だから、是が非でも砂漠を越えてきてもらうしかない。
 リンデンを占拠し立てこもれば、数日は持ちこたえられるはずだ。
 便利なことにロイは錬金術師で、自ら壊した壁を修復することも出来る。
「…あの子のように手を合わせただけでは到底無理だが」
 ぽつりと呟き、ロイは苦笑した。

 ムスタファが解放された、という報告を、ロイは通信設備がある、仮の司令室で受けた。
「…そうか!」
作品名:太陽と月と星(後) 作家名:スサ