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太陽と月と星(後)

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 照れたように少しの笑みを浮かべる若い男は、コルネーリアの目から見ても充分に好ましい人物と映った。
「…きっと素敵な人なのね」
 コルネーリアは、微笑を深めて、アメストリスの言葉で語りかける。
 それは、ロイを語り合うに足る人物と認め、敬意を表してのこと。
「…はい」
 それに、眩しげな顔をしてロイは小さく答える。
「…とても、…素敵な子です。私に光を示してくれる」
 光、とコルネーリアは繰り返した。ロイはもどかしげに口を開いたり閉じたりした後、失礼、と断りを入れ、母国の言葉で話し出した。
「私には、かつて、野心がありました。…今にして思えば、何とも幼稚であったかもしれません。…私は、…人の命の重さも、理解したつもりで、…本当は何もわかっていなかったのかもしれない」
 そっと両手を持ち上げながら、ロイはゆっくりと語りだす。それは懺悔のようにも聞こえた。
「友を失い、望んできた物も曖昧になり、進むべき途を見失いそうだった。つまらぬことに心をすり減らし、己を欺き、人を恨み、傷つけ…こうしてついてきてくれる部下がいる幸運にも、気付けなくなりそうだった。…けれど、あの子がいる、そう思ったら、投げ出してしまえるものなのどただのひとつもなかった」
 ロイは照れたように少しだけ笑った。
「…結局私は、小さな男なのです。…だがそれも悪くないと、今は思っています」
 コルネーリアは、そんな風に言った若い軍人に瞬きした後、…目を和ませて微笑む。
 誰が何と言おうと、この男がいるなら隣国と誼を通じても大丈夫だと、彼女はその時そう思った。

 会食には現職の大統領も同席していた。ちなみに、前大統領は昨年鬼籍に入ったそうだ。
 現大統領はバランス感覚に優れていると評せられることの多い人物で、国内の感情や今回の件でのロイの活躍、また、不戦の意志を明らかにしている今のアメストリス…等々、諸々の要素を鑑み、考慮の結果、ロイの申し出を受け入れる旨を明らかにした。
 無論無条件に受け入れるなどといった事はありえないわけだが、これは大いなる躍進ではあった。
 そうして調停に関わる手続きは一週間ほど続き、…その後三日を滞在した後、ロイはいよいよ、一触即発の南部へと旅立つことになったのだった。





 中央図書館の前は広場になっており、天気の良い休日ともなれば、露店が並んだり大道芸人がジャグリングやマリオネット繰りの芸を見せてくれる。それを目当てに家族連れや若い恋人達や友人同士、子供だけのグループなどがやってきて、思い思いに日を過ごしているのが見られるものだった。
 白い鳩が一斉に青い空へ舞い上がるのを見上げる少女の、肩につく位の髪が風に揺れた。太陽のような金色は目に鮮やかで、飾りのない白いシャツに紺のタイトスカートといういでたちにも係わらず人目を引いた。その面差しも含めて。
 黒いリボンタイと白いシャツに付けられている金のバッジから、彼女が司書であることは知れたが、随分と若い、まだ十代らしき少女であることを思うと、随分と若手なのだろう。
 歓声を上げて走る子供達が、彼女の前を通り過ぎる。
「いたっ」
 その最後を走っていた子供が、石に躓いて転ぶ。その高い声と転んだ音に驚いたように、少女は目を瞠って下を向いた。それから、慌てたようにしゃがみこむと、転んだ子供を抱き起こしてやる。そして、子供の体の埃を軽くはたいてやってから心配そうに顔を覗き込む。
「…大丈夫か?」
 顔立ちに似合わずぶっきらぼうな口調は男のようだったが、細めた目はやさしかった。助けられた子供はきょとんと瞬きした後、ぶんぶんと首を振った。
「そっか」
 子供の頭をぽん、とたたき、少女めいたその司書は立ち上がった。
「…おねえちゃん」
「ん?」
 友達が走っていってしまったのに付いていかなかった子供に呼びかけられ、彼女は視線を落とした。すると、子供は何やら難しい顔をしてこちらを見上げている。
「…どした?」
 彼女は笑って、よいしょ、ともう一度腰を落とす。そして子供と目の高さを揃えた。…あまり背の高い少女ではないので、そうすると子供の方が頭の位置が高いくらいだった。
「……、」
 すると、子供がなぜか手を伸ばして、少女の金色の頭をいい子いい子、と撫でてくる。さすがに呆気にとられたのだろう、金色の目が大きく見開かれた。
「あのね、」
 子供はたどたどしく口を開いた後、あどけなく言った。
「うんとね、…ありがとう」
「…どういたしまして」
「それでね、…あのね」
「…うん?」
 首を傾げて促せば、子供はもじもじとはにかんだ後、ちょこん、と顔を寄せて少女の目元に唇をつけた。ぷちゅ、と。
「なきむしさん、バイバイなの!」
 思わず目を閉じた少女の耳に、笑う子供の声が聞こえた。すぐに目を開ければ、悪戯に成功した子供はきゃあと罪のない声を上げて走っていくところ。
「…。泣いてないっつーの…」
 なんだか怒る気も失せて、少女は空を見上げた。
 平和な空だった。
 そして、この空の下のどこかで、彼女が帰りを待っている人は何かと戦って、勝ち取ろうとしている。
「…早く帰ってきてよ」
 ほんの少しいじけたような呟きを聞く人は、誰もいなかった。

 ランチを買い込んで帰ってきた少女を、同僚が迎える。
「お帰り、エトワール」
「ただいま。…シーラ、はい」
 頼まれていたサンドを渡して、自分はホットドックに齧りつく。
「…そういえば、聞いてみようかと思ったんだけど」
「うん?」
 なに、とホットドックを食べながら少女は顔を上げた。
「リスみたいね…」
 口いっぱいにほおばって食べる少女に笑いながら、シーラは尋ねる。
「髪の毛、…前は長かったんでしょ?どうして切ったの?」
 この質問に、少女は一瞬動きを止めた。そして目を見開いた後、かあっと顔を赤くする。その反応にこそ、シーラは驚いてしまった。
「…なに?」
 だが、シーラにしてみれば、一体何がそんなに照れくさいのかわからない。
「…、し、シーラ!それ、あったかいから!あったかいうちに食べた方が、い、いいと思うぞ!」
「そんなに慌てるようなこと? …なんだかそこまで過剰に反応されると、逆に聞きたいわぁ…」
「べ、べべ、べっつに、そ、そんな面白いことなんか、ねぇぞ…?!」
 真っ赤になって手をぶんぶんと振る姿からは、とてもではないが「何もない」とは考えられない。
「…まあ、いいけど…」
 シーラはしばらく同僚を見つめていた後、はあ、と溜息ついて手を振った。
「ちょっとした興味だし」
 食事を始めた女性を、しばらく顔を赤くした少女が見つめていた。が…、しばらく経ってから、彼女は口を開いたのである。
「…髪の毛は、さ」
「?」
 軽く驚いた様子で、シーラは振り向く。そこには、困ったような顔で下手な笑い方をしている少女がいた。
「…前、ずっと伸ばしてたのは、…なんていうか…願掛けっていうか、そういう感じだったんだけど…。まあ単純に切るの忘れてたってのも、ないではないんだけどさ」
 どこか遠い目をして話し出した少女の、白い手の先をシーラは見つめた。
作品名:太陽と月と星(後) 作家名:スサ