【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ
マスターのこと、レンのこと、スラッグの言ったことを考えていたら、背後に足音が迫ってくる。
「リン!」
顔を上げると、カイトが怒った顔で立っていた。
「まだ懲りないの?」
見回せば、思いの外キャンプから離れてしまっている。リンは「ごめんなさい」と頭を下げ、
「マスターとレンのこと、考えてた」
「会いに行くかどうか?」
「・・・・・・会いたくない。どうせ、また、捨てられる」
「捨てられたら、戻ってくればいいじゃん。何が怖いの?」
リンは躊躇った後、スラッグから昔のことを聞いたと言い、
「スラッグが、カイトを偶然拾ったって、本当?」
「嘘」
顔を上げれば、赤い瞳と視線がぶつかった。
「・・・・・・あいつ、嘘つきだよね」
「今頃気づいた?」
カイトの言葉に、リンはくすくすと笑う。
「どうやって、見つけたの?」
「さあ、そこまでは知らない。でも、ガラクタの山から僕を見つけた時、言ったんだ。「やっと見つけた」って。殆どの機能が死んでたけど、聴覚だけはかろうじて残ってたから」
『父を助けなければ、彼は幸せに暮らせたはずだから』
スラッグの言葉を思い出し、リンは俯いた。
「スラッグはずっと、カイトを探してたんだ」
「僕も、ずっと「リン」を探してた。あの時のこと、謝りたかった」
「・・・・・・カイトのせいじゃないよ」
「あの時、助けるべきだった。二人とも助けられたはずだった。だから、僕は二度とリンを見捨てない。今度こそ助ける」
カイトの言葉に、リンは「違う!」と叫ぶ。
「あたしは、あの時の「リン」じゃない! あたしは、捨てられて当然なんだ。あたしは、自分が、一番、大事で・・・・・・最低な・・・・・・」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、途切れ途切れに言葉を絞り出した。
「あたし、あの時、レンを選んでって、心の中でお願いしてた。マスターと離れたくない、壊されたくない、だから、レンを選んでって。だから、だから・・・・・・マスターはあたしを捨てたんだ。あたしが、最低なこと考えたから」
「リンは悪くないよ。僕だって、きっと同じことを考える」
だが、リンは力なく首を振る。
「・・・・・・マスターもレンも、あたしを許さない。だから、会えない。会えないよ・・・・・・」
「リン」
カイトの手が、リンの頬を拭った。赤い瞳が、顔をのぞき込んでくる。
「二人に会って、謝っておいで。リンの気持ちをちゃんと話すんだ」
「でも・・・・・・」
「それでも許してもらえなかったら、また三人で旅をしよう? 今度は、バイクの乗り方を教えてあげる」
穏やかな声に促されるように、リンはカイトにしがみつくと、こくこくと頷いた。
作品名:【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ 作家名:シャオ