【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ
カイトがテントの中で寝転がっていると、程なくしてスラッグが入ってくる。
「リンは?」
「カイトが勝手に出掛けたって、凄く怒ってたよ。毛布はぎ取られた」
「バイク見てる? 武器は触らせてないよね?」
カイトは体を起こし、テントの入り口から外を覗いた。
「あなたが勝手に出掛けたから、私が怒られたの」
「潰されたりしてない? バイクが倒れたら、リン一人じゃ起こせないよ」
「朝から、凄く怒られたの。あなたが勝手に出掛けたから」
カイトは苛立たしげに舌打ちして、スラッグに視線を向ける。
「言ったら、自分も連れてけってうるさいじゃん」
「凄く怒られたんだよ。朝ご飯抜きになるかと思った」
「食べてたじゃんか。いいから点検して」
「なめくじ野郎って言われたんだ。スラッグじゃなくて」
「どっちでも同じだよ」
「黙れなめくじって言わ」
「わーかったよ! 悪かった! これでいい!?」
「あなたが勝手に出掛けたから、私が怒られたの。リンに」
眉を寄せて、悲しげな目を向けてくるスラッグから、カイトは顔を逸らした。
「・・・・・・ごめんなさい」
「そんなに似てますか?」
「・・・・・・いや、ちっとも」
カイトはもごもごと呟いた。全く似ていない。それが余計もの悲しかった。彼は、鏡の中に面影を探すことすら出来ない。
「子供は異性の親に似るって、本当なんですかね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「リンは父親似なんですかね」
「・・・・・・リンはアンドロイドだ」
『あの子は機械じゃない! 私の娘だ!』
目を閉じたカイトの耳に、スラッグの声が響く。
「はい、数値計るから腕捲って。大分耐性がついたんじゃない?」
「お陰様で」
カイトは袖を捲りながら、皮肉っぽく呟いた。
スラッグが小型計器をいじり回すのを眺めながら、カイトはぼんやりと考える。
本当は、リンを拾ってくるべきじゃなかったんだ。家まで送って、それで忘れるべきだった。
ペアで作られる筈の片割れだけが、強盗団に捕らわれていた。一体だけでも高価なのに、もう一体を見逃すはずがない。
切り捨てられた。
カイトは瞬時にそう判断した。所有者は逃げるか身を隠すかした時に、リンを生け贄に選んだのだろう。そんな子を連れ帰れば、スラッグは手元に置きたがると踏み、実際その通りになった。
わざと反対する振りをして、「ハンターにはしない」という条件を飲み込ませた。『リン』を助けたかった。今度こそ。
家に帰すか、引き取り手を捜すかすれば良かった・・・・・・
一緒に連れて行くべきじゃなかった・・・・・・
スラッグとリン。二人を、自分の罪滅ぼしに利用している。そんな考えが、三年間のし掛かっていた。
作品名:【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ 作家名:シャオ