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【カイリン】愚か者め、嘆くが良いわ

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翌朝、リンが焚き火を起こそうと出てきた時には、カイトの姿はすでにない。

「・・・・・・・・・・・・」

スラッグのテントにちらりと視線を向けてから、リンは黙々と薪を運んだ。組み終わった後、火をつけずにぼんやりと座り込む。

マスターは、あたしのことなんてもう忘れてる。だから、あたしも、マスターのことを忘れてしまえばいい。

リンは、ふっと視線を指先に向けた。

・・・・・・レンは、どうなんだろう。

彼は自分を覚えているだろうか。とっくに忘れて、マスターと仲良く暮らしているだろうか。
三年という月日は、どのような意味を持っているのだろう。

「・・・・・・はあ。アホくさ」

リンは立ち上がると、ぶらぶらと歩き出す。スラッグが目を覚ますか、カイトが帰ってくるまで、まだ大分あるだろう。早朝散歩と洒落こんで、リンは少し離れた岩場を目指した。

「ふふ~んふ~ん」

鼻歌交じりに小枝を振り回し、時折テントを振り返る。一人で行動しないようカイトからは言われているが、子供じゃあるまいしと、リンは肩を竦めた。

大体、この辺に危険なモンスターは出ないって言ったの、カイトじゃん。

他のハンター達は、賞金首の出る場所を目指す。こんな雑魚だらけの場所を拠点にするなど、カイト達くらいのものだ。

あたしが、狩りに出られないから・・・・・・。

リンを一人に出来ないから、スラッグも残ることになり、必然的にカイトだけで狩りに行かなければならない。凶暴なモンスターや賞金首を相手にするのは、分の悪い賭だ。

『いらない方を貰っていく』

カイトもスラッグも、あたしを「いらない」と思うかな・・・・・・。

立ち止まり、両手で顔を覆う。捨てられたくない。怖い。だから、捨てなくては。

マスター、レン・・・・・・バイバイ。

吹っ切るように空を仰いだリンの上に、影が覆い被さった。

「あ・・・・・・」

それは、巨大な亀と戦車を掛け合わせたような、捻れた姿のモンスターであり、高額の賞金が掛けられた危険な存在であり、その口腔内から覗く大砲が、リンへと照準を合わせていた。

「カイト・・・・・・」

ぼんやりとリンは呟く。

カイトに知らせなきゃ。凄いモンスターがいるって。スラッグも起こして、それで、賞金首を間近で見たって、自慢してやろう。それで、夢でも見たんだろって・・・・・・三人で笑って・・・・・・

「リン!」

誰かの声がして、体に衝撃を受ける。同時に爆音が響き、石つぶてと砂煙が襲いかかってきた。

「急いで!」

ぐいっと腕を引っ張られ、砂埃の中を闇雲に進む。手が堅い物に触れた瞬間、体を押し込められた。

「隠れてて。大丈夫だから」
「スラッ・・・・・・グ・・・・・・?」
「すぐ片づける」

気配が遠ざかる中、リンは必死に手で周囲を払う。うっすらと開いた目に飛び込んできたのは、赤黒い染み。
それが血だと気づいた瞬間、乾いた銃声が響いた。一拍置いて、二度目の轟音と土埃。

「スラッグ! スラッグ!!」

リンは半狂乱になって、砂煙の向こう側へ名前を連呼する。生身で立ち向かえる相手ではない。このままでは、スラッグが死んでしまうかもしれない。そんな恐怖に駆られて、リンは声を張り上げた。

「スラッグ! やだ!! カイト!! カイト助けて!!」

リンの叫び声は、三度目の轟音にかき消される。それでも声を上げ続けるリンの耳に、微かなエンジン音が聞こえた。ハッとして振り向いた瞬間、リンの体を影が飛び越える。三年前の、あの時のように。