親友で継母。
球場にはサディクさんを連れて見に行きます」
「あぁ、そう・・・・極力今まで通りにしたいのね。」
「えぇ、でも、何を置いてもサディクさんと毎日いられるだけで、私満足です。
だってもう、会えない日に泣かなくていいし、オナニーしなくてもいいんですもん。
これ以上のことなんてないですよ」
そう。そうよね。
でも、菊さんがそんなこと言うなんて思ってなかった。
ドライで冷静で、レイプ目で変態。
妄想狂でオタク。マニア。フェチ。
でも、恋をしているときだけは、本当に綺麗で。
一途な瞳は心を掴ませるものがあって。
本当に幸せなんだ。
「サディクさんたら、おかしいんですよ。
だってもう何度となくセックスしてるのに、突然緊張したみたいになって。
お前を抱いていいのか判らねぇ、なんて、全く意味不明ですよ。
でも私もそんな感じだった。
あの人の前で改めて裸になって、恥ずかしかった。私みたいな貧相な体で、あなたに申し訳ない、と。
そんな体に欲情してくれるサディクさんが嬉しかった。
不思議ですよね。何なんでしょう、あの感覚。
やっぱり、恋人同士でいるのと夫婦になるのでは違うんですかね。
私も、エリザさんに並んで人妻です。」
人妻なら、私が人妻第一号。
私。邪な気持ちもなく、今でもローデリヒさんを、あんな風に思ってるのかしら。
どうなんだろう。
自信、無くなってきちゃった。
「おめでと、おめでとう菊さん・・・・うっ、ふっ、ひくっ・・・・」
「えっ!?エリザさん!?な、泣かないでくださいよエリザさ・・・・エリザさん!」
よく判んないけど、ものすごく泣いた。
涙が止まらなかった。
私、私本当に、ローデリヒさんの何が好きなんだっけ。
萌えるから?細いから?眼鏡だから?ネタになるから?
違う、そんな理由でこんなに長く一緒にいない。
一緒にいてくれるだけで幸せ。
そう、間違いない。私も菊さんと同じよ、フェリちゃんと一緒よ。
一緒にいれるだけで幸せ。傍にいて、あなたを見ていられるだけで。
他には?もっとあったでしょ、ねぇ、私。
私がローデリヒさんのところにお世話になり始めた頃から。
ずっと、変わらない気持ちがあるじゃない。
ねぇ、何で思い出せないのよ。
優しいところ?のんびり屋さんなところ?あぁ、本当に、何だったっけ。
とにかく涙が止まらなくて、どうしよう。
帰ろうと思ってたのに、菊さんもどうしたらいいのか判らないような顔をしてる。
ちょっと落ち着くと、すぐに涙があふれてくる。
私今、酷い顔してる。
「落ち着きました?今度こそ。」
「・・・・・・うん・・・・・多分・・・・」
「私あなたが泣いている間に、色々しちゃいましたよ。
お夕飯も作りましたし、
サディクさんは帰ってきましたし。」
お昼間に、アフタヌーンティで来たつもりだったのに、もう夕方。
あぁ、私も帰らなきゃ、今日のお夕飯の買い物に行かなくちゃ、フェリちゃん行ってくれたかしら。
たまにフェリちゃんがいなかったりすると、
ルートヴィヒが飯作れって怒鳴りながら電話かけてくるのよね。
飯作れ、に、私は家政婦さんじゃないのよって、何回返したのかしら。
「ちょ、ちょっと電話する・・・フェリちゃんに」
「はい。もしよろしければうちでお食事でも」
「ううん、ご飯作んなきゃいけないから・・・・あ、フェリちゃん?私。ご飯は?」
”え?今日は俺とルートとフラン兄ちゃん家に来てるって、言わなかったっけ?”
「え、あ、あぁそうなの・・・・ううん、忘れてたけど、いい。
ごめんね?今サディクん家。
菊さんと喋ってたらこんな時間になっちゃって、ちょっと焦ったのよ。
それだけ。うん、じゃあね」
ケータイの画面にフェリちゃんの名前が表示された途端に、涙はすっと引いていった。
話していた時間、48秒。必要以上の話はしない。
別に、もっと喋ってもいいんだけどね。家族割入れてあるし。
「素晴らしいですね。やはりお嫁さんの前では泣いたところなどは見せられないと」
「当たり前よ。それをネタにされるのなんてまっぴらだもの」
何意地になってんのかは判らないけど、フェリちゃんの前では強気になれる。不思議よね。
強気になっているのか、違うのか、させてくれるのか。
強気に『させてくれる』のが、多分一番だと思う。
「さて。帰るわ、この様子だとローデリヒさん、一人で待ってるし。早くご飯作らなきゃ」
もう暗くなっちゃった。
ローデリヒさん、待ってるな。ルートヴィヒがいないからいきなり怒鳴りつけられることはないし、いいけど。
待たせちゃったのが、ちょっと罪悪感。
「ローデリヒさんただいま戻りました〜」
いい匂い。失敗した、もうご飯作ってくれてたんだ。
ジャガイモとヴルストの匂い。味の好みはルートヴィヒたちと一緒なのよね。
キッチンから顔を出して、ローデリヒさんはびっくりした声を出した。
すぐに、駆け寄ってきてくれて。
「お帰りなさ・・・・どうしたのですかその顔は。目が腫れていますよ」
またフェリちゃんのフリフリエプロン着てる。
ルートヴィヒの腰エプロンでもいいと思うんだけど、ローデリヒさんは可愛い。
「菊さんの結婚までこぎ着ける感動エピソードを聞いてもらい泣きしちゃったんです。
それで遅くなっちゃいました、すみません。
「嘘おっしゃい。何を隠す必要があるのですか」
この程度で騙されてくれるときと、騙されてくれないときがある。
今日は騙されてくれない日なんだ。
基準は何なんだろ。
きっと何か思ってそうするんだろうけど、いまいち判らなかった。
長いこと一緒に暮らしているのに、私はローデリヒさんのことを、ちっとも判っていない。
「食事もできていますが・・・・お聞かせなさい。なぜ私に嘘をつく必要があるのか。
まず、そちらにお座りなさい」
言えないし、言いたくない。
私が何でローデリヒさんのことを好きなのか判らないなんて、言えない。
いつもは4人で囲むテーブルを、二人で挟む。
フリフリエプロンのローデリヒさんが、私をまっすぐに見つめてくる。
普通なら、笑うところよ。
「あなたのことは、私が一番よく知っています。
あなたが小さいときも、あなたがおてんばだったときも、
私の元で小さいフェリシアたちを育てていたときも。
食べるのにも苦労していたときも、二人一緒に暮らせなかったときも。
あなたは私を支えてくれたでしょう。
いつでも私は、あなたを見ています。」
私だってそうよ、ローデリヒさん。
ずっとずっと好きで、ガキの頃はいじめるばっかりだったけど、
それも今思えば、好きだったからかもしれない、と思う。
私がだんまりしているのをみて、ローデリヒさんの声は優しくなった。
「私はあなたが思っているほど、達観しているわけではありません。
あなたが他の男性と話をしていれば、
何を話しているのか気になります。
その男性とどのような関係なのか、
気になりすぎて眠れない日もあるのですよ。
しかし私は、あなたに直接聞くことはしませんでしたね。
私は、そのままのあなたが好きです。
自由で、強気で、優しい。
私はあなたに依存してばかりで、
あなたなしには生きていけないと思いますよ。
美しいエリザベータ、