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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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Dear

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そこで数秒待ち、返事がなかったので扉を開けることにした。


--コンコンコン--
ほとんど思考を止めていた脳が、その音に反応する。
----ミク・・・・ねぇ・・・・?----
辛うじて取り戻した思考は、ミクねぇの事を考えた。
「レン君。入るよー?」
----やっぱりミクねぇだ・・・・返事・・・しなきゃ----
スイッチを切り入れしているかのように思考は進まない。
瞼が信じられないくらい重かった。
それでも、無理やり目を開けるとそこには特上に汚れた笑顔を貼り付けた汚い金髪がいる。


返事を待たずに扉を開けた私の目に飛び込んで来たのはレンではなかった。
まったく見覚えのない、金髪の男。
明らかに異様なのは、部屋に充満した鉄くさい臭いと男の胸元辺りにある赤い模様。
模様というにはあまりに歪。
病室を間違えた訳がない。ここがレンの病室。なのに、レンの姿が見えない。
意図的に男を無視て部屋の後ろをキョロキョロと見渡していると、男が話しかけてきた。
「やあやあやあやあミクさん。偶然ですねぇ。一応、始めましてですかねぇ。レン君は・・・」


笑顔をそのままに金髪は扉に向かった。
扉を開けたミクねぇに俺が見えないようにする意図もあったと思う。
それとも、単純にミクねぇに近づきたかっただけか。
消えかけた意識は急速に覚醒していく。
----こいつをミクねぇに近づけたら・・・!----
扉が開く音は聞こえたが、金髪に遮られてミクねぇの姿は見えない。
恐らく、ミクねぇからも俺の姿は見えていないだろう。
「やあやあやあやあミクさん。偶然ですねぇ。一応、始めましてですかねぇ。レン君は・・・」
そこまで聞こえた時には、自分の体から生える木の持ち手を掴んでいた。


知らない男が奇妙な笑顔で話しかけてきて気持ち悪かった。とりあえず、レンを探そうと男の後ろを覗き込もうとすると見知った綺麗な金色が男の肩から顔を出した。
『レンだ』
思ったと同時に、レンと目が合った様な気がした。
レンはすぐに視線を男に向けて、羽交い絞めをするよう男の首を抱きしめた。
直後、レンは後ろに倒れ男もまた、気持ち悪い笑顔のまま喉元から木の持ち手を生やして横に倒れる。
私は混乱した。
目の前にはあまりの非日常的光景が広がっている。
腹部から大量の血をながして倒れているレン。
喉にナイフを差したまま顔には笑顔を貼り付けて倒れている知らない男。
ベットには、白いシーツに赤いペンキでもぶちまけたような染みがある。
そして、部屋に広がる錆びのような臭い。
なに一つ理解できない。ありえない光景。頭が追いつかない。
ただ、混乱しきった頭で最初に理解できたのはレンが血まみれで倒れているということだった。
「・・・レン君!?レン君!!!」
叫ぶようにレンの名前を呼び、硬直した体が動き出しレンの方へ走る。
抱きかかえるようにレンを起こす。
「・・・・・!?」
抱えた手の平には生ぬるい感触があった。
抱えただけで手にはべっとり血が付いていた。
自然と体が震える。
保健体育の授業で聞いた事がある。
成人男性で大体二リットルの出血。これが、人間の失血死する量だ。
ベットに浮かぶ赤い染みと今レンが流している血液。
二リットルなんて、とっくに超えているんじゃないだろうか。
「レン君!!ねぇ起きてよ!どうしたの!?レン君!」
必死に呼びかけた。
いくら呼びかけても返事はない。
レンの顔色はみるみる青くなっていき生きている証拠がなくなって行く気がする。
力なく垂れ下がっているレンの右手を握り締める。とても冷たい。
必死に叫んだ。必死に必死に必死に必死に叫んだ。
握り締めた。必死に必死に必死に必死に冷たい右手を握り締めた。
いつでも私を助けてくれたレンは、きっと私が泣いていたら飛んできてくれるはず。
あまりの騒ぎに駆けつけてきた周りの患者さんが驚いたりナースステーションに駆け込んでいるのも無視して、自分で他の人の助けを呼ぶことも忘れて今、目の前に倒れているレンに助けを求めた。
思い返せば、これ以上愚かな行動もないと思う。
助けたいのならここは病院。医者でも看護師でもそこいらに居る。ナースコールも手の届く範囲にある。
私が冷静に他者に助けを求めてもレンは助からなかったかもしれない。
でも、ただ目の前のレンにすがり付くよりはよほど、助かる確率は上がってたはず。
そんな事もわからないくらい混乱し、当時の私はレンに頼り切っていた。
レンが私の目の前で倒れて、私の主観ではとんでもなく長い時間叫び続けていた気がしたが意外に短時間だったのかもしれない。
いや、極々短い時間だったのだろう。
場所を考えれば、助けが来るのが遅くなる事がまずありえない。
とにかく、私の主観では長く長く。とんでもなく長い間レンにすがり続け叫び続けた。
そして、レンはその声に応えてくれた。
いつもの様な自信満々な素振りもカッコいい台詞もないが、目を開けてくれた。
「・・・・!レン君!!ねぇどうしたの!大丈夫なの!?」
どう考えても答えなんて返せる状況でもないのに、目を開けたことすら奇跡と呼べる状況なのに、なにも見えていない私はレンに無事を確認するような言葉を投げる。
「・・・・」
数秒、レンは無言で私の顔を見つめていた。
その視線に、さすがに私も叫ぶのを止めていた。虚ろでいて、それでも辛うじて弱々しい光を宿していた瞳はまっすぐに私の顔だけを見ていた。
そして、ゆっくりとレンの顔は笑顔を作った。
いつも私に見せてくれる、優しい笑顔だった。
「・・・い・・・」
なにかしゃべろうとしているのに気づいて、すぐにレンの口元に耳を近づける。


夢のようなあやふやな感覚。
これが走馬灯ってやつだろうか。
さっきまで感じていた体の重さも、体を巡りすぎてもはや麻痺しているのか痛みも感じない。
俺の走馬灯は、いつも空手と共にあった。
高校生になって始めての大会では、久しぶりに心のそこから負けを認めた。
中学生の時は誰にも負ける気がしなかった。
小学生の時は誰にも負けたくなかった。
苦しくても苦しくても毎日こなしていた練習。
いつの時でも、側には家族がいて、そしてミクねぇがいた。
自分がものすごい速さで幼くなって行く感覚が次第にスローになっていき、ある一点で止まる。
目の前にはミクねぇが居た。
青く綺麗な髪をツインテールにまとめているのは今と同じだが、後はすべてが小さい。
いや、幼いと言ったほうがいいか。
恐らく幼稚園に入るかどうかというくらいだろう。
俺は泣いているらしい。
泣いていると、ミクねぇが近づいてくる。
太陽の様な笑顔で、俺の頭を撫でてくれた。
そして、泣いていた俺は次第に泣き止んでいく。
--ああ、そうだ。この頃か。この頃から俺はミクねぇを・・・・--

「・・・ん!!レ・・・く・・・!レン君!」
ミクねぇの声がする。
体を起こそうと思ったが、全身まったく力が入らない。
瞼も嫌になるくらい重かった。
それでも、ミクねぇに呼ばれているんだから目くらいは開けないと。
重い重い扉を開けるように、ゆっくりと開いた瞼の先には涙と血で汚れながらぐしゃぐしゃの泣き顔なミクねぇがいた。
作品名:Dear 作家名:田舎のおこめ