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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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Dear

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私はと言うと、部屋の隅に行き一人両手の手のひらを見ていた。
その両手を見ながら、最後に抱きかかえた彼を思い出す。
---レン・・・私、ちゃんと歌えたよ。聞こえたかな?---
ひっそりとつぶやいた直後、目の前に見覚えのある足が現れたと思うと同時に、抱きしめられた。
「えっ!?」
びっくりしていると声が聞こえてきた。中学からの親友の嬉しそうな声だった。
「ミク・・・あんたすごいよ!感動したよ!ほんと天使みたいだった!」
「ちょ・・っと、カル!?あんたもうすぐ出番でしょ!??」
私の声を無視し、カルが直後に私の耳元で囁く。
「だから、きっと弟くんにも届いてるよ」
ここに居る誰も、レンと私の関係は知らない。知っているのは、中学からずっと一緒のカルだけ。
正確には彼女も知らないが、察しがいいのが昔からのカルだ。
中学時代には警告をくれた彼女は、高校のときレンが居なくなってしまった後、私が学校に行くと私の頭を抱え私にしか聞こえないようにそっと謝ってくれた。
謝ることはなにもないのに。圧倒的に彼女が正しいのに。
当時の私はただ、泣きながら首を横に振る事しかなできなかった。
そして今日も、カルの言葉に涙があふれる。今度は、うれし涙だったけど。
「カル・・・ありがとう。届いたかな?私が聞かせたかった歌、届かせたかった気持ち。届いたかなぁ?」
「届いたよ。きっと届いた。ミクが聞かせたかった音。見せたかった気持ちは天国の弟くんに全部届いてる。だって、天使だったもん。天使なんだから天国に贈り物くらいできるでしょ?」
「うん・・・」
流していた涙はさらに勢いを増して流れていく。
もらってばっかりだった彼にようやく一つプレゼントを返せたかもしれない。
気が付けば私とカルの周りにはみんなが集まっていた。
「ミク・・・すごくよかったよ!私まで感動しちゃったよ!」
「なんでそんな歌声がでるのよ・・・」
「ミクーーーー!大好きだよーーーー!」
「悔しいなぁ・・・一瞬あんたには勝てない気がしちゃったじゃん・・・」
一緒に舞台に立った仲間たちがそれぞれに声を掛けてきてくれる。
「みんなぁ・・・・最高だったね!!!」
涙を流したまま今までの人生で最高の笑顔がはじける。
レン、私は強くなったよ。すぐに今まで言えなかった事、伝えに行くから。
心の中で叫んだ。



レンのお葬式からどれくらい経っただろうか。
あれから私は、言葉をしゃべっていない。
食事も最低限生きていられる程度だけを取りあとはなにも食べない。
腕を見ると、もともと太くはなかったのがさらに一回り細くなってしまったような気がする。
それでも危機感を抱くことはなかった。
いっそこのまま死んでしまいたかった。
そしたら、レンに会えるだろうか。
レンの・・・最後の言葉の意味は・・・
頭の中はずっとレンの名前を叫び、レンの事をいろいろ考えていた。
そんな毎日を過ごしていたが、今日は少し違った。

深夜、家族みんなが寝静まってから母の用意してくれた食事を部屋の外に出す。
家族にすら顔を合わせたくなかったからこの時間に行っていた作業。
いつものように、すぐに部屋に引っ込むつもりでいた。
それが、なぜか今日だけはふっと横を見る。右横。
そう、レンの部屋。
いや、主人がいなくなった今はレンの部屋だった部屋。
私はなにも考えていない。ここ最近ずっとそうだったように。
体が勝手に動く。
主人を失くした部屋の扉の前に立っていた。
ほんの少し前まで、ドキドキしながらノックしていたドア。
その時と同じように扉を叩く。
---コン・コン・コン---
三回のノックでいつも開いていたドアは、なんの反応もない。
知っていた。
なにも起こらない。誰もいないのだから。
ノックでは開かなくなったドアを自力で開け、中に入る。
電気はつけなくても、月明かりに照らされて明るい部屋は私の知っているレンの部屋だった。
持ち主の性格を現すように整理された机。
教科書はすべて並べられ、脇には筆記用具が並べられている。
乱れの無いベット。
綺麗に整えられた布団は、もう帰ってこない部屋の主を待っているようでもあった。
その脇には、制服と胴着が掛けられている。
記憶にあるそのまま。ただ、前まであった生活感がまったく感じられない。
私は無表情のままベットに腰を掛けた。
いつもレンの声を聞いていたこの場所は、今は静かでなにも聞こえない。
窓から空を見上げる。
人は死んだら星になると言う。
そんな事はまったく信じてはいないが、それでも、どこかに彼がいないかとついつい探してしまった。
レンが星になるとしたら、きっと大きく輝く星だろう。
生きていた時の彼がずっと輝いていたように。
とにかく光る星を探した。それでなにが変わる訳でもないのに。

どれだけの時間そうしていたのだろう。
たくさんの星を眺め、レンを探し続けていた私は予想外の音にその視線を空から外した。
「カチャ」
ドアの開く音。
まさかこんな夜中に自分以外が起きているなんて思いもしなかった私は少し驚いた。
---逃げよう---
とっさに浮かんだ考えは逃走だった。
あの日以来、逃げ続けた。友達からも、家族からも。
今突然顔を合わせて、話をできる自信はない。
ただ、現実がそれを許さない。
極限まで落ちてしまった体力と筋肉は、脳の命令に反して突然の運動をしようとしない。
スムーズに立つことができなかった。
逃げようと思った私が立てもしないうちにドアは開けられ、また閉じられた。
そもそも、出入り口は一つしかないんだから逃げようもなかったんだ。
久しぶりの驚きでちょっとだけ混乱していた頭は冷静になり、逃走を諦める。
結局動くことのできなかったベットの上にいると、部屋に入ってきた人物は私の横に腰を掛ける。
そして、ずっと下を見ていただけの私に声を掛けてきた。
「久しぶりミク。ちょっと痩せちゃったね」
少しハスキーだけど耳障りなところが一切無い綺麗な声。
目線を少し上げて横を見ると、綺麗なピンク色の髪が見えた。
入ってきた人物はルカ。
いつも強い、美しい姉だった。
なんと返事をしようと考えていると、私の返事は待たずに姉が話しを続ける。
「急にしゃべらない方がいいよ。長いことしゃべってないでしょ?」
その言葉を受けて、首をゆっくり縦に振る。
そういえば、一ヶ月近く声をほとんど出していない。自分がどんな声だったか忘れてしまいそうだ。
あまり関係ない事を考えていた私に、姉はそのまま話を進めた。
「・・・この部屋さ、片付けないんだって」
「・・・え?」
約一ヶ月ぶりの自分の声は間抜けな声だった。
その声を聞いた姉は、ちゃんと私が話を聞いている事を安心したように頷き、さらに言葉を続けた。
「父さんも母さんも、この部屋を空にはできないみたい。もちろん、私やリンも。」
「・・・うん」
父と母がこの部屋を片付けるとは思っていなかったが、姉の口からこの部屋はずっとこのままだと言う事を聞きホッとする。
やはり両親も、レンが居なくなってしまったことを認めたくないのだろうか?
作品名:Dear 作家名:田舎のおこめ