Dear
自らセットした髪型をプロが崩そうと迫って来たので、私達姉妹は笑いながら退散した。
「ほんとにありがとねー!お金は後でお母さんが払うからー!!」
「こらー!!逃げるなー!もう・・・レン君によろしくねー!!」
わかってるー!!っと大きな声で返事をし、家に帰る。
レン、君は今でも、みんなの中に生きてるんだね。
少し、妬けちゃう。
でも、それ以上に嬉しい。
さて、後は着付けをして大学に行こう。
どこで着付けをするかって??ふっふっふ。私、今時珍しく着付け得意なの。久しぶりの着付けだけどね。
家に帰り、着付けに取り掛かる。
振袖が置いてあるのは和室だったので、レンの目の前で着替える事になるんだけど・・・
写真とは言え、ちょっと恥ずかしいな。
ごめんね、レン。と心の中で謝りながら壁に掛けてあった写真反対へ向ける。まあ、レンなら見せてもいいんだけど。それだと恥じらいが足りないような気もする。女子としても魅力をキープするには、簡単に見せないって言うのも大事。
さてと、着替えに取り掛かりますか。
っと、そこでドアが開かれ、着替えの終わったリンが入って来た。いつもより少し大人びて見えると言う程度の服装だったが、髪型と相まって実年齢より4っつくらい上に見える。これはモテそうだなぁ。
「やあやあ、入るよ。私準備終わって暇でさー。お母さんとルカちゃんは美容院行ったし、お父さんは仕事場行ってから行くとかで、もう出ちゃって誰もいないんだよねー」
残念ながら、口調はいつもの少年のような口調。女子大生なんだからもうちょっと気を使った方がいいんじゃないかと最近得に心配になってきたよ、お姉ちゃんは。注意はしないけど。
「そっか。まあ、私はちょっと時間掛かるから、お話くらいいいよー。さてさて、なんの話する?学校の話?将来の話?それとも恋話〜?」
少しお茶らけながら話をしつつも、手はしっかりと動かす。手順を忘れていないか心配しつつも、澱みなく動く手に安心する。
「そうだねー。学校の話なんてつまんないし、将来の話なんてしてもミクちゃんはもうその将来って奴が近づいてくるわけだし」
「・・・あんた、ひどい事言うね・・・」
「ひひひ。冗談冗談!あ、レンの写真が裏向いてる。写真さえ恥ずかしいなんて・・・ミクちゃんってば乙女―!!」
リンが楽しそうにそれを見つけ、言って来る。
うぬぬ・・・なんか、そう指摘されると恥ずかしい。いや、まあ確かに意識はしてたんだけど・・・。
「なに言ってるのよ。これは女子として恥じらいを持つためにやってみたの。リンちゃん、あなたはもっと恥らってものを知らなきゃ色気が付かないわよ」
「ふーん、恥らいねぇ・・・そうかそうか、だからミクちゃんのお胸は恥ずかしがって中々出てこないわけですねぇ。ぷぷぷ」
「あんただってそんなにないでしょうがーーーー!!」
部屋を逃げ回るリンを全力で捕まえ、ほっぺたを容赦なく引っ張る。胸なんて所詮女のパーツの一つだっての!!
「ぎょめふぎょめふ!!・・・いったーい。ミクちゃん、本気で引っ張ったでしょ!」
「ふん、天罰よ。」
あー、リンと戯れたせいで折角途中まで着てたのが崩れちゃったよ・・・やり直し。
「あー、いったー。・・・・ねえ、ミクちゃん」
いつもの少年っぽい元気な呼びかけではなく、その声は真剣そのものだった。突然の変貌っぷりに、驚きながらも答える。
「な、なによう?どうしたの、いきなり真剣な声だして。まるで恋に悩む女の子みたいだよ」
「私は女の子だよ!恋に悩んではないけど。・・・・ミクちゃん、今日、ちゃんとレンも連れて行くからね」
そこ言葉に、着付けをしていた手が止まる。
「いやいや・・・目立っちゃうよ、遺影なんて持ってると」
少し笑いながら答えると、予想外にこれも真剣な声で返事が返ってきた。
「そんなの、全然関係ないよ。ミクちゃんの大切な日を、レンが行きたがらない訳ないんだから。ちゃんと連れて行かないと、レンが悲しむよ。それに・・・ミクちゃんも来て欲しいでしょ?」
言葉が出なかった。
来て欲しいに決まってる。ちゃんと後ろで見ていて欲しい。まさか、妹のリンがそれを分かってくれているとは思わなかった。もしかしたら、お父さんかお母さんが連れて来てくれるかも、とは思ってたけど。
「大丈夫だよ、ちゃんと連れて行くから。私とレンは双子だもん。レンが悲しむような事は、私も悲しいんだよ」
笑いながらリンは言ってくれた。
ずっと少年みたいだと思ってたけど、こうゆう気遣いはもうすっかり女の子だなぁ。
「ありがとう、リンちゃん。・・・・じゃあ、お願いしていいかな?」
「任せてよ!一番ミクちゃんが見える所に連れていくからさ!」
少年のような笑い方で、綺麗になったリンが約束してくれた。
あー、泣くほど嬉しいな。レンにも見てもらえる。でも、妹の前で泣く訳にもいかない。
ここは姉の意地です。
リンが大人しいモードに入ったので、私は着付けをしながらいろいろ考え、思い出す。記憶にある中で、一番古い思い出は、まだ小学校低学年の時だった。
まだ倫理も道徳も理解しない年頃に、私は彼に魅かれ始めていた。
子供に限らず、人間は自分と違う物を見ると排除したがる。
それが子供には特に顕著だと言うだけのこと。
小学校低学年の頃、私は周りと違う物として排除されていた。要するに、イジメ。
私達一家は、みんな髪の色が周りと違う。
少し茶色いとか、白髪が多いとか、そんなレベルじゃなくまさに子供がクレヨンで色を塗ったかのような色をしている。
父は海の様な青。母は燃えるような赤。姉のルカは桜のようなピンク。双子で、妹と弟のリンとレンは輝く金色。そして、私は若草の様な緑。
両親の両親。つまり、両方のおじいちゃんおばあちゃんは普通に真っ黒なのに、父母の代から突然髪の色が変わったのだと言う。
なにかの異常ではないかと、両親は小さい時から大きな病院でいろいろ検査を受けていたらしいが、結局確固たる原因は掴めず、『遺伝子の異常』と、言う結果で終わったらしい。
(ちなみに、この検査がきっかけで両親は出会った。)
検査をした医者は、こんな異常は次の代にはなくなっている可能性が高いと言ったらしいが、見事に一家そろって異常に産まれました。まあ、両親がそうなんだからそうなる可能性が高くなっただけのような気もするけど。
今では自慢のこの髪も、当時は異分子扱いで、イジメの対象にしか見られずとても嫌いだった。
ただ、イジメられていたのは私だけで、姉のルカはちょっかいを掛けられたら3倍返しを徹底し、女番長みたいになっていし、妹と弟は持ち前の明るさから、自分たちが人の輪の中心になって周りからは慕われていた。
今考えると、すぐに塞ぎ込む当時の性格の方が災いしたような気もするけど、そんな事は気付く訳もなく、全部髪の色の所為にしてた。
そうやっていつもイジメられていた私を、レンが守ってくれたのが始まり。
「なんでお前は頭に葉っぱのっけてるのー?変なのー!!」
「違うもん!これは私の髪なんだもん!」
「なに言ってるのー?髪って黒いもんなんだよー?そんな色してたら、先生に怒られるんだぞー!!」
「違うもん!!違うもん・・・」
なんで私は髪が黒くないのか。