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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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Dear

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イジメられている時は、いつもそんな事を考えていた。
教室では先生がいるので、そこまで直接的な事はなかったが、登下校の時などはよく意味のわからないイチャモンもつけられ、私は泣きそうになっていた。
「ねぇねぇ。うちの姉ちゃんになんか用なの?」
泣きそうになると、大抵こういった台詞が私の後ろから飛んで来る。
小学校低学年が言う台詞としては、少しマセすぎている気がする。今思い出すと、ちょっと笑ってしましそう。でも、その声が聞こえると私の涙は決まって止まっていた。
「げ・・・レンじゃん・・・。なんでもないよ!じゃあな!!」
いじめっ子達はすぐにいなくなる。
レンはまだ幼稚園児の時から本格的に空手を習い始め、かなり筋がいいようで小学校に上がる頃には少しくらい年上の相手にだって負ける事はなかった。
それが学校でも有名だったので、一声だけでいじめっ子を退散させる事ができたみたい。
たまに取っ組み合いの喧嘩になっても、実際負ける事なんてなかったし。
「レンくん・・・・ごめんね、いつも」
「まったくだよ。ミク姉ちゃんもさ、ルカ姉ちゃんみたいにやり返したらいいんだよ」
「わたしには無理だよ・・・力だって全然ないし・・・」
「力の問題じゃなくて、やり返そうって気がないだけな気もするけど・・・まあ、そんな平和主義なミク姉ちゃんが、オレは好きなんだけど」
「えへへ〜。ありがとう、レンくん。私も、レンくんの事好きだよ」
小学生の姉弟の会話としては、特に問題はない会話。
でも、この時から、きっと弟に対する『好き』ではなく自分を守ってくれる一人の男の子に対する『好き』だったと思う。
今思い返せばそう思うだけ。当時の私にその区別があったのかどうかはよく分からない。
「へへへ〜。さて、帰ろうかミク姉ちゃん!」

レンは決まって、手を差し出してきた。私も、それに応えて彼の手を握る。
彼に守られ、彼と手を繋ぎながら帰る道が、私はとても好きだった。
そして、彼に守ってもらえる要因を作ってくれるこの緑の髪も、次第に好きになっていった。



そんなこんな思い出してたら、私の着替え完了。
「リンちゃーん。リンちゃーんってば!!」
妹はいつの間にか座りながら寝ていた。朝は私より早く起きてたみたいだけど、いったい何時から起きてたんか・・・
「・・・・はっ!!ああ、ミクちゃん。おはよう」
ヨダレ垂れてる・・・ホントに大学生なのか心配になってしまう・・・
「おはようじゃなくて!ほら、ヨダレ!私準備できたから、そろそろ出るよ?」
「はいはーい。じゃ、私はお母さん達と後から行くから」
『了解―』っと返事をし、妹は母親達に任せ家を出る事にした。
久しぶりすぎる振袖に一抹の不安を感じつつ、それを無視して部屋を出る。
「じゃ、行ってくるねー」
「いってらっしゃーい」
さて、ここは2階だから、いきなりの難関。階段が目の前に。
ゆっくり行けば大丈夫!!さて行こう!!
ゆっくり・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・ゆっくり・・・・・・・
よしよし、もうちょっとで降りれる。ちょっとずつ慣れてきたし、大学に着く頃には大丈夫。
っと、思った所で自分がなにも持っていな手ぶら状態であった事に気付いた。
歩く事に集中してた所為で、完全に鞄の存在忘れてた・・・・。
うわ・・・階段また上がるのめんどくさいなぁ・・・。
リンが二度寝してない事に期待しつつ、二階に向けて呼びかけた。
「リンちゃーん!!起きてるーーー???!!鞄とってー!!!」
・・・・返事がない。ただ寝ているだけのようだ。
むむむ。まだだ。まだ諦ない。
「リンちゃーん!リンちゃんってば・・・・・・!??」
ドゴンゴゴゴ!!
「え!??なになに!??ミクちゃん呼んだー!??今なんかすごい音したよー!??」
ううううう・・・痛い・・・
「ミクちゃんってばー!!・・・うわ!!こんなとこで何してるの!??」
さっきまで階段にいた私は一階の床でうずくまっている。
リンを呼ぶ時、一歩階段を上がった拍子に裾に足を引っ掛けて転がったみたい。
痛い・・・よかった、まだ階段の下の方で。
「リンちゃん・・・痛い・・・アザできたかも」
膝を思いっきりぶつけた。痛さで涙が出るなんて、多分中学生くらいが最後だったような気がする。童心に帰った気分。
「もう、ミクちゃんったら・・・大した事なさそうでよかった」
妹は呆れた後にしっかり心配してくれた。優しい女の子に育ったねぇ。ヨダレは垂らして寝てるけども。
「大丈夫?歩ける?ってか、一人で大学まで行ける??」
その質問に、さっき意図的に無視していた一抹の不安が頭をよぎる。
正直、今の自分に自信はない。でも、妹の前でそんな事言うの恥ずかしい・・・
「だ、大丈夫っす!行けます!!」
「・・・・・」
・・・無言で見て来る。
「ほ、ほんとに大丈夫だよ!!ほら、私お姉ちゃんだし!!」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・ごめんなさい。タクシー呼んでもらってよろしいですか??」
妹よ。無言は怖い。
「まったく。強がらないでよね。怪我でもしたらどーすんのよ。じゃ、タクシー呼ぶからソファにでも座っといて。鞄もとって来てあげるから。」
ありがとう、妹よ。
でもね、鞄の事聞こえてたなら。もっと早く返事してほしかったな。
そしたら、痛い思いしなくて済んだのに・・・。

タクシーを待っている間に、家の中で歩く練習をしてお陰で、とりあえず転ぶ心配はほとんどなくなった。
まあ、それまでに3回ほど転んで妹に笑われていたんだけど。
「お姉さん、卒業式ですかい?」
不意に、前方から自分を呼び掛ける声が聞こえた。
「はい。今日大学の卒業式です。まだまだ気持ちは子供ですけどね」
今はタクシーに乗り込んで大学に向かっているのだが、なかなか進まない車に私が暇を感じない様にか、自分が暇だったのか運転手さんが話しかけて来てくれた。
「はっはっは。自分を子供だと自覚できるのなら、少し大人だよ。おっちゃんなんて、そのくらいの頃は自分を大人だと思って背伸びばっかりしていたもんさ」
あまり深い事を考えずに放った言葉だったが、運転手のおじさんは今のフレーズで私を『少し大人』と、評価してくれた。
「あはは、ありがとうございます。」
笑顔でお礼を言ったが、運転手のおじさんも私も、そこから続く言葉がなくなりまた車内は静かになった。
静かになった車内で、私はぼーっとさっきの会話を考えていた。
大人。
私はいつのまにか大人になっているらしい。
大学も卒業なのだから、当然と言えば当然なんだけど。
大人って、なんだろう?
運転手のおじさんは、『背伸びをしていたから子供だった』と言っていたが、今の私は『大人になりたくないと思っているから子供』なんだと思う。
おじさんは大人だと言ってくれたが、やはり私は子供なんじゃないか。
できるだけ、変わりたくない。
ただでさえ、私だけ歳を取ってしまうのに。
そんな事を考えながら、いつのまにか浅い眠りに誘われていった。



カチ・カチ・カチ・カチ・カチ・カチ・・・・
私は一秒ずつ進む時計に『早く進め!!』っと念じながらジッと睨みつけている。
今日は弟の空手の大会の日。
作品名:Dear 作家名:田舎のおこめ