Dear
「手を繋いで帰ってたってのは、噂だよ噂。距離が近いからそう見えたんじゃないかな??まあ、お父さんとお母さんに心配かけちゃったみたいだから、これからはきょうつけるよ!まったく、真剣な顔をしてなにを言うかとおもったら。じゃ、私は片付けも終わったし、今日はもう寝るね!おやすみー!」
笑顔を就寝の挨拶をし、まだなにか言いたそうな父と母に背を向け部屋を出た。
自分の部屋に行くまでは笑顔でいれた。
部屋に入り、扉を閉める。
電気は付けず、その場に座り込んでしまった。
「・・・・見られてたんだ・・・。そうだよね、外だもんね」
その場で呟く。
笑顔が崩れ、すぐに涙が頬を伝った。
「私・・・私・・・もうダメかなぁ。レンを、諦めないとだめかなぁ。カルにも言われたし・・・お父さんとお母さんにも・・・なんで、姉と弟なんだろう・・・血が繋がってなければ・・・うぅ・・・あぁぁ・・・」
声を殺して泣いた。
自分の感情が間違いで、カルや父・母の言う事が正しい事は分かっていた。
でも、どうしようもなかった。
まだ、続けていられると思った。レンとゆっくりした時間を共有できると思っていた。
世間はそんなに甘くない。
自分達は、見られていたんだ。
その事を強く理解する。
「明日からは、レンと距離を置かなきゃ・・・学校でも、あんまり話しかけないようにしないと・・・急にそんなのになっちゃったら、レンに嫌われるかな・・・でも、もう仕方ないのかな・・・」
明日からの生活に絶望しながらも、それが正しいのだと自分に言い聞かせ、レンとどう接すればいいのか考えていた。
あんまりいきなり話をしなくなっても不審に思われやしないか、どの程度距離を離すのがいいのか。
電気もつけず、暗い部屋で考えていた。
コンコン
ビクッ!
扉をノックする音に怯えた。
今は誰とも話たくない。一人でいたい。
そうだ、寝た振りをしとけばいい。
部屋の入り口で座り込んでいた腰を上げ、音を立てないようにゆっくりとベットに近づいた。
コンコンコン
もう一度ノックが響く。
無視をしてベッドへ向かう。
「・・・ミクねぇ」
扉の向こうから聞こえた声に、足が止まっる。
なぜ、レンが今私の部屋に来るのか。寝ていたんではないのか。
ただでさえ混乱状態の頭がさらに混乱し、どうしていいか分からずその場に立ち竦んだ。
「ごめん、ミクねぇ。入るよ?」
返事が、出来ない。
こんな状態の自分を見られたくない。けれど、同じくらいレンと話がしたい。
でも、レンと話をすれば今の気持ちが抑えられないかもしれない。
どうすれば・・・そんな事を考えているうちに、ゆっくりと扉が開き、レンが部屋に入っって来る。
「ミクねぇ、やっぱり起きてたんだね」
ニッコリと笑う。
いつもの元気なレンの笑顔なのに、声色はいつもと違いどこか柔らかい。大人びていると言った感じ。
しかし、次の瞬間には笑顔はなくなり、真剣な顔のレンがいた。
「ごめん、ミクねぇ。・・・喉渇いてさ、お茶飲もうと思ってリビングに行ったんだ。その時さ、なんか父ちゃんと母ちゃんが真剣な顔でミクねぇと話してたから・・・聞いちゃった」
いろいろ考えていたが、すべて吹き飛んだ。
聞かれていた。
よりにもよって、本人に。
「どこから・・・聞いてたの?」
「・・・ミクねぇが、俺の事どう思ってるかって父ちゃんに聞かれた所。
「・・・一番最初じゃん!!」
最初から聞かれていたらしい。
会話をすべて聞かれている。
なら、仕方ない。それに丁度いいじゃないか。
これをキッカケに、レンと距離を作ればいい。そしたら、私はレンを諦める事ができるはず。レンにもう触れられないのは嫌だけど、それが自然な事なんだから。
そう考えていた。
「聞いてたならわかってるよね?私とレンは姉と弟なんだから、これからは・・・」
「ミクねぇ!!」
私の言葉は遮られた。
「ミクねぇ・・・ミクねぇだって分かってるんでしょ?俺がミクねぇの事どう思ってるか!確かに俺とミクねぇは血の繋がった姉弟だよ!でも、俺はミクねぇの事がずっと・・・」
「レンッ!!」
「・・・!」
今度は私がレンの台詞を遮った。
レンの気持ちが昔から変わってないのは気付いていた。
いつも側にいるんだから、気付かない訳がない。
それでも、私は言わなきゃいけない。姉として。
「レン。そうだよ、姉弟なんだよ。血の繋がった、実の姉弟なんだよ。今レンが言おうとした事は、姉と弟では言っちゃいけない事なんだよ」
「ミクねぇ・・・」
「それに、こんなのはやっぱりおかしいんだよ。レンはちゃんと他の家の子を好きになって、その子と付き合ったりとかフラれたりとかしてないと、ダメなんだよ。いつまでも、私と一緒じゃ、周りの人が変だと思うでしょ?
「・・・」
レンはジッと私の目を見ながら黙って聞いていた。
「今日さ、学校でも友達に言われたんだ。あんたら姉弟はちょっと変だよって。で、さっきお父さんとお母さんにも心配された。それは、レンも聞いてたんだろうけど。だから、今のままじゃダメなんだよ。周りに心配かけちゃ、いけないよ」
「・・・・」
レンはまだ、なにも言わない。
さっきと変らず、私の目を見ているだけ。
「私の言ってる事分かった??だから、明日からもう少し距離を開けようか。普通の姉弟がどんな感じかよくわかんないけどー・・・学校じゃあんまり話ししないと思うから、お昼は・・・」
「わかんない。」
私が話している途中に、沈黙していたレンが口を開いた。
「俺はまだまだガキだから、ミクねぇの言う事、全然わかんない。確かに、周りの奴らは兄妹仲悪いとか良く聞くけど、それは余所の家の事情だし。俺とミクねぇが仲好くしてて、誰が困るの?」
「誰が困るって・・・そりゃ、家族みんな困るよ?ご近所さんから『あそこの家の姉と弟は・・・』って噂立てられて、後ろ指差されて暮らさなきゃいけないんだよ?私達の所為で」
「ならバレなきゃいいよね?学校では喋らないようにして、家族の前でもベタベタしないで、夜お互いの部屋でこっそり話とかすれば、周りにはバレないんじゃない?」
「そ、そうだけど・・・そうゆう事じゃなくて、姉弟でって言うのは、ダメなの。なんと言うか・・・常識的に、とか・・・社会的に、とか・・・・」
「じゃあ、ミクねぇが泣いてるのはいいの?」
ハッとなって、自分の頬を撫でると、手には暖かい液体がしっかりと付いている。
話に夢中になりすぎて、涙の感覚さえ分からなくなっていた。
「こ、これはちが・・・」
私が言いきる前に、レンはハッキリと宣言した。
その一言が、私に『諦める』の選択肢を奪う。
「ミクねぇが泣いてるのが、俺の中では一番悪い事なんだ。ミクねぇが笑っていられるなら、世間も、常識も関係ない」
「で、でも・・・みんなが・・・」
「俺は、ミクねぇと一緒に居たい。ずっと」
私に手を差し伸べるように、レンが右手を差し出してきて言った。
「ミクねぇは、どうしたい?ミクねぇの本音は、本気の気持ちは、これからどうしたい?」
流れていた涙が、加速度的に増えていく。
抑えていた気持ちが止められない。
私は、号泣したまま、縋り付くようにレンの右手に自分の左手を重ねた。