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田舎のおこめ
田舎のおこめ
novelistID. 26644
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Dear

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全員がそれぞれに、歌を届けたい・伝えたい相手を思ってその時を待っている。
「ミク、おはよー」
こちらに気付いたクラスの友人の声を掛けられた。
私が返事を返す間もなく、その声で私に気付いた他の友人達が
「おー、今日の主役1の到着だねぇ」
「ミクどお、喉の調子は?」
「あんたが失敗したら、私達全員の失敗になっちゃうからね!まあ、そんな心配ないだろうけど」
「今日は頑張ろうね!」
「楽しく歌おうね!」
それぞれ激励の挨拶をくれた。
あー、こうゆうのっていいな。
ここにいる全員が、同じ道を志すライバルであると同時に、理解しあえる友達だ。
私は高校生の時に歌う事を覚えたので、さすがに高校の卒業式ではソロを任してもらえる程うまくもなかったし、経験の浅い自分にどこか引け目を感じていた。
それを払拭するように、大学ではひたすら歌に打ち込んだ結果、ここにいる全員と対等に渡り合えるくらいには成長できた。
そして、ソロを歌う二人を選抜する時は全員が全力でぶつかり、私がその二人に残った時誰も恨み言一つ言わず、拍手をして認めてくれた。
あの時レンに強く薦められてなかったら、こんな気持ちになることもなかったと思う。
ほんと、レンには感謝の言葉しか出てこないなぁ。

卒業式が始まり、よくある挨拶や卒業生代表挨拶などが終わりいよいよその時が近づいてきた。
私達は舞台袖に移動し、出番を待つ。
『歌はいつも、誰かに届ける気持ちで歌ってください。上手く聞かせる技術も大事です。しかし、それだけでは歌は届きません。その時、その場所で、一番歌を届けたい人を思って心から歌ってください』
声楽科に入学して最初に言われた言葉を心の中で反復する。
私は友達に、両親に、兄弟に、そして、ここにはもういない彼に。
届けたい。



中学を卒業した私は、高校で部活を始めてそれに夢中になっていった。
レンも変わらず、ずっと空手に打ち込み小学生時代から有名だった名前をさらに有名にしていった。
二人とも忙しくなり、家でも外でも、二人でいる時間はほとんどなくなった。
それはレンが高校生になっても変わらず、いつからか私とレンを疑う目はなくなった。
両親も、そんなことなんてすっかり忘れている風だった。
でも、私とレンは変わらなかった。
たとえ家族の前での会話が減ったとしても、一緒に外出することがなくなったとしても、周りには隠しながらひっそりと。
二人の時間を作っていた。
今日はその日。
二十三時を少し回った所だが、私は電気を消して寝る準備をするフリをしながらドアがノックされるのを待っていた。

 トントントン

小さいながら、ハッキリとノックが響く。
返事もせずにゆっくりとドアを開け、深夜の訪問者を急いで中へ招き入れる。
電気もそのまま、豆電球一つの薄暗い部屋で二人きり。
「ごめんごめん、宿題してたらちょっと遅れちゃった」
「別に一、二分なんて遅れた内に入らないよ。ねぇねぇ、それよりこの前の全国大会は惜しかったんでしょ?どうだった、高校生の全国は??」
そう、訪問者はレン。
周りからはすっかり普通の姉弟になったと思われているが、週数回・深夜にお互いの部屋を行き来して、数時間話をしている。もちろん、バレないように部屋の電気は消して。
「いやー、やっぱ高校生は違うわ。県レベルまでなら結構なんとかなったんだけど全国はねー。でも、一年後には俺がチャンピオンだけどな」
負けたと言うのに自信満々な笑顔で私にそう言った。
しかし、その自信は強がりでも過剰でもなく、ただ事実として言っているのだからホント凄い。
「まあ、レンがそう言うならそうなんだろうね。今までもそうだったし。見に行きたいけどなー。部活もあるし・・・」
「無理しなくていいって。無理して見に来ようとするとまた親父と母さんになんか言われるかもだし・・・まあ、もう疑ってはないようだけど」
「そりゃ、実際こうやって部屋でお話してるだけだし。怪しい事は一切してないわけだし。まあ、こっそりではあるど」
そう、私とレンはこっそり互いの部屋を行き来している。しかし、それ以上はなにもない。
年頃の男女(姉弟と言うのは置いといて)が深夜に密室で二人きりなのに、なにもないのは多分私がどこかレンとの距離を縮めきれていないからだと思う。
レンは私の事が好き。私もレンの事が好き。
でも、やっぱり姉弟と言う現実が未だに私の意識から罪悪感を拭いきれない理由。
レンは多分そんな事ないと思う。
冗談交じりではあると思うが、毎回部屋から出る前には
「ミクねぇ、愛してるよ」
と真顔で言ってくる。
それはもう毎回毎回悶える程恥ずかしいが、同じくらいに嬉しい言葉。
でも・・・私からレンにそうゆう言葉を言った事はない。
私はレンと離れられない。離れたくない。ずっと一緒にいたい。
でも、どうしても世間の柵から抜けられない自分がいる。
だから、いつか・・・きっと、学生じゃなくなって家から出て、自立して一人前になれたら、世間じゃなくて、自分の価値観を信じられる様になったら、その時はレンとの距離を一気に縮められる気がする。
そんな私の葛藤を見抜いているように、
『俺はずっと待ってるから。大丈夫』
っとも良く言われる。・・・出来過ぎた弟だなぁ、まったく。

そんな感じで、外から見た状態では距離を置いている私とレンだが、それでもなにかあれば私を守ってくれる。
実は、高校生になってから軽いストーカーみたいなものに結構な頻度で悩まされている。
しつこいメールなんて日常茶飯事で、学校内,外でしつこく言い寄られる・帰り道で後を付けらる・見ず知らずの男性から手紙が届く、などなどいろいろあって困っている。
今のところ実害になっていないのは、結構な頻度でレンが犯人を見つけて追い払ってくれているからだったりする。
彼は日々体を鍛える為、早朝・夜間の一日二回のランニングを欠かさないので、家の周りをうろうろする変な奴が目に付きやすいらしい。
なんせ空手部期待の新鋭のレン君だから、その辺の不良なんて目じゃないくらい強く、その場で喧嘩になったって実力行使で追い返せるもんだから心強い。
まあ、結局私が甘えちゃってるだけなんだけど・・・

「おはよーミクねぇ」
夏休み目前の7月中旬。もう本格的な夏に突入したと言ってもいいくらいの蒸し暑いこの日も日課の早朝ランニングを終え、帰ってきたレンと洗面台で顔を合わす。
「おはよー。相変わらずはやいねー」
寝ぼけ眼で挨拶を返しながらレンを見ると、コブシが少し赤くなっていた。
「あ・・・」
私はすぐに、またストーカーに遭っていたんだと気付く。
「ん?・・・ああ、これか。ミクねぇは気にしない気にしない!なんか金髪にしたちょっと強がってるような奴だったけどさ、一発小突いたらすぐ逃げていったし」
「・・・ほんとごめんね、レン君。私が自分で追い返さなきゃダメなのに・・・」
いつもこうだ。
同じ女の子でも、ルカもリンもそうゆうトラブルに遭った事がない。
二人とも十分に美人なのに私みたいにならないのは、しっかりしているからなんじゃないかと思う。
私は、付け入りやすそうに見えちゃうのかな。
「大丈夫だって!・・・俺がミクねぇを守るって」
作品名:Dear 作家名:田舎のおこめ