I’m mine.
「あなたも、本当におかしな人だな。どうかしている」
辛辣な響きを持つかも知れぬ言葉を、泰衡は躊躇いもせずに口にした。
それを聞いた相手も、しかしそんなことは言われ慣れているとばかりに、笑い飛ばしてしまった。
「変わり者の嫁は困りものですか? けっこう、楽しい毎日になると思いますけど」
彼女の言うような楽しい人生など、送る気はなかった。彼にとって人生は、故郷のために捧げられるべきものだ。
珍妙なものを見るような目を彼女に向けていると、つと泰衡の隣に近寄ってきて、
「私の人生は、泰衡さんに差し上げます」
などと言う。
本当は全く物分かりの良い人間などではない妻――この話をしたときはまだ婚姻はしていなかったと記憶しているが――は、しかし何故か時折、泰衡の全てを、その心中を見抜いたようなことを口にする。
「でも、私は泰衡さんの人生が欲しいわけじゃなくて、その人生に私も巻き込んで欲しいわけです」
「それも、あなたの詭弁だな」
「だけど嘘じゃないです」
そう否定せずとも、分かりきっていた。
全く、本当におかしな人だと思った。そういう人を妻にすることに、抵抗がなかったとは言えない。本当は、都の貴族か付近の豪族から妻を見つけるはずだった。しかし、この女人の出現が、全てを狂わせていく。
恨みはしない、けれども、結局は彼女を妻にすることを決めてしまった自分自身が、彼女がこの世界に生きることを後悔するより先に、後悔してしまうのではなかろうかと思った。
いや、実際のところ何度も、やめれば良かったと考えた。妻に正直に話して聞かせれば、おそらく怒髪天を衝いてしまうだろうから口にはしない。
それでも、結局手離しはしなかったし、傍に置いたままだ。離縁などそうそうするものではないし、何より、泰衡は後悔したくなかった。今さら己の選択を過ちだったと嘆きたいとは思わない。それと同時に、後悔させたくもないと思うのだ。
あなたを娶らねば良かった、あなたを無理にでも帰してしまえば良かったと、そう話せば、妻自身が泰衡と生きる道を選んだことを悔いることだろう。それを、避けたがっている自身がいるのも確かだ。
この心はあなたのものにならぬと、そう婉曲に言い放った泰衡を、そうと知りながら選んだ彼女にとって、泰衡の傍に生きることだけが、この世界に在る意味だ。それを失わせたいとも思えない。
この心は、……故郷を想う自分だけのもの。それだけ、それだけなのだけれど。