黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17
思いも寄らない場所での両親との再会に、ジャスミンは思わず駆け出しかけた。
「待つんじゃ! 何やら様子がおかしいぞ」
彼女を引き止めたのは、スクレータであった。
「放して! パパとママが倒れてるのよ!? 早く助けなきゃ!」
肩に乗せられたスクレータの手を振り払い、ジャスミンは再び両親のいる方へ行こうとする。しかし、次の瞬間起こった現象が、ジャスミンの足を止めさせた。
ジャスミンとガルシアの両親、シェルスとアン、さらにロビンの父親ドリーが、まるで天井から吊らされた人形のように、不自然な格好で起き上がったのだ。
「父さん!」
ロビンは思わず走り出してしまった。ジャスミンも後に続く。
「……くっ! 来てはだめだ……、ロビン……!」
ドリーは辛そうな声でロビンを制した。しかし、制止は虚しく、ロビン達は罠にはまってしまった。
赤に黄色のまだら模様のあるボールが、ロビンとジャスミンに襲いかかり、爆ぜた。
「うわあああ!」
「きゃああああ!」
爆発は想像以上に威力があり、ロビン達は深手を負った。
「ロビン、ジャスミン!」
とうとうガルシアまでもが駆けてしまった。
『ミスティック・コール!』
妖艶な女の声がしたかと思うと、土色のボールがガルシアを襲い、まるで大きな口を開くかのようにボールは割れ、黄色いガスを噴出した。
ガルシアは咄嗟に顔を腕で被い、吸入を防いだが、それは毒を撒くようなものではなかった。
「くっ! これは!?」
ガスは固まり、ガルシアを拘束した。逃れようにも固まったガスは岩のような硬度を持っており、びくともしない。
ガルシアは拘束を逃れた顔を、声のした上空へ向けた。群青色のローブを身に纏い、頭には三角帽子、カールのかかったプラチナ色の髪を垂らす女が、空中に浮かんでいた。片手の指先から蜘蛛の糸のような物を出し、それがドリー達を吊っていた。さらにもう片方の手には漆黒の鏡のような物を持っている。
「アハハ……! まさかこんなオンボロのエサで三匹も釣れるなんて、思ったより役に立ったわ……!」
魔女の姿をした女は、糸を指から切り放すと、地にいるドリー達は力なく崩れ落ちた。
「ロビン、ガルシア、ジャスミン! ちきしょう、あいつめ!」
「ジェラルド、動かないで!」
「ほうらよっと!」
イリスが叫ぶのとほぼ同時に、様々な野獣を継ぎ足したような姿に、狒々のような毛に顔を覆った巨漢が、身の丈ほどの大槌を振り下ろし、衝撃波を放った。
イリスはすぐさまバリアを張って仲間を後ろに下げさせた。衝撃波はバリアを打ち破るほどの威力を持つかと思いきや、簡単にバリアに阻まれた。しかし、破壊力は高く、地面を抉るほどだった。粉塵により視界が阻まれる。
イリスには、自らに襲いかかって来た者の正体が分かっていた。かの者ならば、これしきのバリアを破るのは容易いことである。故にイリスは破られた後の反撃の用意をしていた。
ーーまさか、目的は他に……?ーー
イリスの考えは的中する。
赤く、骨太の腕がシバを抱えた。
「きゃあっ! ちょっと、放しなさいよ!」
「シバ!?」
シバは野獣の小脇でもがいていた。
「ぐふふ……、悪く思うなよ嬢ちゃん。おめえが必要なんだな」
野獣は野太い声で笑いながら、シバに顔を近付けた。
「ちょっと、獣臭い! 顔を近付けないでよ!」
「ひでえ事いうなあ……、シレーネのアネゴといい、俺様の気にしていることを……」
虹彩のない赤色の目がしょぼくれる。
尚もシバが手足をバタつかせ暴れていると、シバの左手から瑠璃色の物が落ちた。もともと緩めだった、エナジーの封じられたラピスラズリの指輪が暴れる余りに外れてしまったのだ。
「ああ! テレポートのラピスが!」
指輪が外れたのに気がつくと、シバは暴れるのを止めた。
指輪は灯台から落ちていくかと思われたが、イリスがエナジーで受け止めた。
「バルログ! シバを放しなさい!」
イリスは指輪を引き寄せながら叫んだ。
「そうはいかないなぁ……、シレーネのアネゴの命令だからな。しくじったらどやされちまうんだ」
「くっ!」
イリスは攻撃体勢に入ったが、躊躇った。シバが人質となっている以上、巻き込んでしまう危険があった。
そんなイリスに高速の刃が襲いかかった。
「あぶねえ!」
シンは一瞬で迫り来る刃を読み、双剣の片方を抜きはなった。シンが刃を受け止めると同時に、全身を甲冑に包み、頭部全体を覆う鉄仮面を付けた剣士の姿が明らかとなる。
「……ほう、俺の一撃を受けるとは……」
いや、剣士は血を噴くシンの肩を見て言葉を改める。
「……寸前で串刺しを避けただけ、か……」
「く、くそっ……!」
剣士が刃を引くと、シンは血の滴る右肩を抑える。
「貴様とは全力でやり合いたいものだ……」
「なめるな! 『颯の……』」
シンは反撃しようと、エナジーを発動しようとしたが、エナジーが十分に膨らまず、終いには消えてしまった。
「っ!? 何故だ、どうして発動しない!?」
「……俺の前ではエナジーなど無力。ただ己が力のみで当たれ」
剣士はまた鋭い一撃を放った。シンはもう片方の剣も抜いて、刃を受け止める。そして間を空けず剣士のがら空きの胴体に、蹴りを放った。
しかし、シンの脚は虚空を舞った。
剣士の姿はそこにはもうなかった。
「遅い……!」
振り返ろうとした時には、既に背中を斬られていた。
「ぐあっ!」
シンは背中からも血を流し、片膝をついてしまった。
ーー転影刃よりも速い……!?ーー
痛みに意識が朦朧とする中、首筋に冷たい物がピタリと付けられる。
「……なんだ、掠ったとはいえ、先ほどの一撃を受けたのは偶然か? 貴様とならば楽しめると思ったのだがな……」
剣士はシンの首に付けた刃を引いた。
「まあいい、俺は弱者に用はない。それに、今回の目的は他にある……」
剣士は鉄仮面越しに、イリスへ視線を向ける。
「虹の女神よ、我らに付いて来ていただこう……」
イリスが身構えると、剣士は左手に持った剣を構え直し、彼女へ襲いかかった。しかし、イリスへ近付く前に剣士は足止めを食らう。
「ま、待ちやがれ……!」
シンは深手を負いながらも、剣士の足首付近をつかんでいた。
「……イリスには、指一本、触れさせ、ねえぞ……!」
「ふん、小賢しい……」
剣士は簡単にシンの手を払いのけた。そして、イリスに向けていた切っ先を再びシンへ向ける。
「それほどまでに死にたいというのなら、望み通りにしてやろう。剣の錆になるがいい……」
剣士は刃を振るい、シンの首を落とそうとした。
「シン!」
イリスは叫んだ。
「こら、二人とも! 遊びはそこまでにしときなさい!」
最早これまでか、諦めかけていたシンへ襲いかかる刃が止まった。
「……命拾いしたな、シンとやら」
「……どういうつもりだ?」
「いや、すぐに死は訪れよう……」
剣士は意味深な言葉を残し、シン達から離れ、魔女のもとへ一瞬にして移動した。
好機とばかりにイリスは手負いの
状態のシンまで近付く。
「大丈夫ですか!? 今手当てします」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17 作家名:綾田宗