黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17
イリスは虹色に輝く、不死鳥の翼を開いて、シンの回復に当たった。シンの傷はみるみるうちに塞がっていく。
「すまない、楽になった……」
シンは立ち上がると、紅蓮の灯火の前に集った三人を見た。自らに深手を負わせた剣士が気になったが、それ以上に状況は思わしくなかった
。
ロビンやガルシアはそれぞれ、ダメージを受けるか、束縛されている。シバは謎の野獣に浚われ、シンが対峙した剣士は敵三人の中で一番手強い。
仲間達が総崩れになった今、あの三人と渡り合えるのかは非常に難しい話だった。おまけにシバやロビンやガルシアの家族も近くにいる。迂闊に攻撃すれば、彼女らも巻き込んでしまう可能性も十分にあった。
シン達は手出しできず、じっと堪えるしかなかった。
「全く、この脳筋バカ! 子供一人どうしてすぐに浚えないのよ!」
カールしたプラチナ色の髪を垂らす魔女は、シバを小脇に抱える野獣を罵倒した。
「す、すまねえ……、シレーネのアネゴ……」
野獣は、自分より明らかに力の弱い魔女、シレーネに罵られると、その巨躯を縮こまらせた。よほど彼女が恐いことが窺える。
「それからセンチネル! あんたの役目はこの鈍臭い馬鹿がしくじらないよう、サポートすることって言ったでしょ」
センチネルと呼ばれた剣士は、がなり立てるシレーネとは対称的に、まるで感情を表そうとしない。
「……貴様の言う通りの事はしたつもりだ。現に目的は果たせたであろう? 後の事は俺の勝手だ……」
シレーネはむかっ、となり奥歯を噛み締めた。
「あんたってやつは……、ホンット、頭にくるわね! こんな奴が仲間だと思うと……、ああ!」
「俺は貴様の仲間になった覚えはない。それよりもさっさと始めてはどうだ? デュラハン再臨の儀を」
「言われなくたって始めるわよ!」
「……アネゴ、俺様はどうしてればいいんだ?」
「あんたはひっこんでなさい! 絶対にその子供を放すんじゃないわよ!」
終始騒いでいた魔女は、ぶつぶつ文句を言いながらも、悪魔再臨の儀の仕上げに入った。
「あいつら、随分仲が悪いんだな……」
三人のやりとりを見ていて、ふとジェラルドが言った。
「呑気な事を言っている場合ではありません! なんとしても悪魔再臨だけは阻止しなくては……!」
イリスは虹色の翼を広げ、儀式を妨害すべく、魔女目掛けて飛び出した。しかし、やはり行く手を阻む者が割り込んでくる。
「……ここから先へは行かせん」
剣士が切っ先をイリスへ向けて、動きを止めさせた。
「飛翔・飛燕刃!」
白銀に煌めく刃が、燕の如く空中に弧を描いて、イリスに向けられていた切っ先を弾いた。
「シン!?」
「さっきのお返しだ。まともにやり合っても適わないだろうが、時間稼ぎぐらいはしてやる。イリス、早く行け!」
「シン、すみません……!」
イリスは飛び立って行った。
剣士は追うことはせず、視線だけをイリスに向けると、シンへと向き直った。
「……弱者は斬らない、それが俺の決まり事なのだがな……」
「今のオレじゃ勝てねえのは百も承知さ、時間稼ぎが限界だ。だが、退くわけにはいかねえんだ!」
「仕方あるまい、相手をしてやろう……」
「行くぞ!」
シンと剣士は激しいぶつかり合いを始めた。
「メアリィ、今の内にロビン達を回復しましょう!」
「はい!」
ピカードとメアリィは、魔女の罠にかかり、傷を負ったロビン達へ駆け出した。
「おおっと、そうはさせないぞ」
彼らの行く手を阻んだのは、あの野獣であった。
「邪魔をするな!」
ピカードはエナジーを纏った。
「おやおや、コイツが見えないのかなぁ?」
野獣は小脇に抱えたシバを見せ付けた。人質となっている仲間を見て、ピカードはエナジーを消失させる。
「くっ、卑怯な!」
「ぐははは……、アネゴに怒られないためなら、何だってするぜぇ!」 野獣は外見通りの下品きわまりない笑い声を上げる。
「私の事なら構わないわ!」
「で、でも!」
「いいから、攻撃するのよ!」
「がははは……、美しい友情ってやつか? 羨ましい限りだなぁ……、はぐっ!?」
突然野獣は背中に痛みを感じ、顔をゆがめた。思わずシバを落としそうになったが、何とか耐えた。
「背中ががら空きだったぜ、野獣さんよ!」
ジェラルドが暗黒剣、ダークサイドソードで野獣の背中を斬っていた。しかし、不意打ちでも傷は浅かった。頑丈そうなのは見た目だけではないらしい。
「ピカード、メアリィ! 今だ、走れ!」
「ありがとうございます、ジェラルド!」
メアリィが軽く礼を告げると、二人は手負いの者達へ駆けていった。
「てめぇら、よくも俺様の背中を!」
脳筋馬鹿などと魔女に揶揄されていただけあって、野獣は頭に血を上らせていた。
「……いいかイワン、あいつはオレ達だけでどうにかなる相手じゃねぇ。シバを救うことだけを考えよう」
「はい、風のエナジーは相手を撹乱するのが得意ですから。しかも相手は単純な奴です。力では遠く及びませんが、ボクのエナジーには引っかかってくれるでしょう」
ジェラルドとイワンは耳打ちしあうと、それぞれ役割を決めた。
「……よし、オレが奴を引きつける。イワン、奴の後ろは任せたぞ!」
「はい!」
ジェラルドとイワンによる、シバ奪還作戦が始まった。
イリスは魔女目掛けて飛んでいた。魔女が悪魔再臨の儀を行っている為か、彼女の周りには邪悪なる障壁が展開されている。
イリスは障壁を無視して、魔女が掲げる邪悪の根源たる漆黒の鏡を、叩き割ろうと突き進んだ。
「きゃあ!」
しかし、障壁は思いの外強力で、イリスは弾き返されてしまった。
「……ならば、これならどうです!?」
イリスは自らの力を右手に集中させ、虹色に輝く細身の剣を作り出した。そして切っ先を障壁へ向けると、そこへイリスの持つ全力を込めて突進した。
邪悪なる力を持つ障壁とイリスの清浄なる虹の剣がぶつかり合う。
「やあああああ!」
障壁はイリスの攻撃に耐えきれず、放射状にひびが入っていく。しかし、まだ砕け散らない。本来ならばこの程度の魔の障壁ならば、イリスの聖なる力に触れた瞬間に崩壊するはずだった。
イリスの作り出した虹の剣も悲鳴を上げ始めた。切っ先からひび割れが始まってしまったのだ。折れるのも時間の問題であった。
「くっ! もう少し……。本気の本気で……、行きます……!」
剣が折れる事を覚悟で、イリスは
更に力を込めた。障壁のひび割れもより広がっていく。
そしてついに、障壁は割れたガラスの如き音を立て、砕け散った。同時にイリスの剣も真っ二つに折れた。
障壁を割って間もなく、イリスは悪魔の再臨を司る漆黒の鏡を破壊すべく、それに手を伸ばす。
しかし、鏡はイリスの手を避けるように浮き上がっていった。
「残念、後一歩でした」
魔女はあたかも、これが子供の遊びであるかのように、笑みを含めて言った。
「そんな……!?」
イリスは、一旦は絶望の表情を浮かべるものの、すぐに魔女を睨み付ける。
「そんなこわーい顔した女神様に種明かし。実はあの障壁はあたしのエナジー、『バリアアンシル』でしたー。キャハハハ……!」
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 17 作家名:綾田宗