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凛ちゃん女体化したら争奪戦になった

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可愛いひと(少しにと凛と遙凛、主に渚凛)



「こんなヒラヒラしたもん、着たくねぇ!」
凛は鮫柄学園水泳部の部室で怒鳴った。
その手にはメイド服がある。
鮫柄学園水泳部は文化祭でメイド喫茶をするのが伝統らしいのだが、凛はメイドの格好をするのを断固拒否している。
「凛先輩、落ち着いてください」
似鳥が一生懸命、凛をなだめる。似鳥は男子水泳部員だが、女子水泳部員でしかも年上の凛のフォローをよくしている。
「凛先輩なら、絶対、似合いますから」
「そういう問題じゃねぇよ」
「でも、うちは文化祭でメイド喫茶をするのが伝統で、女子部員はメイド服、男子部員は執事の格好するって決まってるんです」
「じゃあ退部する」
「凛先輩、オリンピックの競泳の選手を目指してるんですよね? こんなことで、設備の整ったうちの室内プールを手放してもいいんですか?」
「……わかった」
似鳥にさとされて、凛はしゅんと肩を落とした。
「これ、着てやるよ」
「良かったです!」
弾んだ声をあげ、似鳥は全開の笑顔を凛に向けた。

鮫柄学園文化祭当日。
男子水泳部の部長の御子柴が、松岡のメイドコスはチョモランマ級、と言ったように、凛のメイド姿は美しい。
しかし、褒められても、凛はちっとも嬉しくなかった。
いつも以上に無愛想になり、接客態度は極めて素っ気ない。
だが、そのツンツンした様子がむしろ魅力になるらしく、メイド喫茶で凛は一番人気となっている。
そして、また指名が入った。
端正な顔に笑みは一切なく、人数分の水の入ったコップを乗せた盆を持って、凛はそのテーブルに向かう。
テーブルで待っている者たちの顔を確認する。
「げ」
凛は思わず妙な声を発した。
それから、急ぎ足でテーブルへ行く。
「なんで、おまえら、ここに来てんだ!?」
テーブルにいるのは、岩鳶高校水泳部の男子四人である。
「江ちゃんから凛がここで働いてるって聞いたんだ」
真琴が答えた。
そういえば、江は高校の友達とともにこの文化祭に来ていて、少しまえに会った。
あのとき江と一緒にこの四人が来ていなかったから安心していたのに……。
この四人にこの格好を見られたくなかったのに……。
「凛」
いつもの無表情で遙が声をかけてきた。
凛は眉を鋭くして、遙を見る。
「なんだよ?」
「おまえをテイクアウトしたい」
やっぱり、からかってきたか……!
凛は永久凍土のような冷たい表情になり、告げる。
「お帰りくださいませ、お客様」

メイド喫茶の休憩時間、凛は校庭のひと気のない場所にいた。
はぁ……、と一息つく。
メイド服を脱いでしまいたいのだが、もう少しすればまたメイド喫茶にもどらなければならないので無理だ。
だれがこんなことを始めて伝統にしたんだ、と怒りがこみあげてくる。
「あ、凛ちゃん!」
ふいに、渚の声が聞こえてきた。
凛はその声のほうを向く。
渚が天真爛漫な笑顔で近づいてくる。
「凛ちゃん、休憩中なの?」
「ああ」
「お疲れ様!」
そばまで来ると渚は立ち止まった。
「凛ちゃん、一番人気みたいだから大変だよね」
「……」
「だって、すっごく似合ってるもんね、その格好」
「嬉しかねぇよ」
ぶっきらぼうに凛は言った。
不機嫌で、ふと思いついたことをそのまま口から出す。
「ってか、この格好、おまえのほうが似合うんじゃねぇか?」
渚の外見は可愛らしい。
いつも明るい渚。
だが、凛の発言の直後、その表情が静止した。
あ、と凛は思った。
「違う、雰囲気的にってことで、その、アレだ、違うから」
慌てて言ってみたが、我ながら支離滅裂だ。
どう言えばいいのかわからない。
渚はニコッと笑う。
そして、口を開いた。
「あーあ、凛ちゃんにはバレちゃた」
笑顔のまま渚は続ける。
「うん。僕は本当は、まこちゃんみたいに背が高くなりたいし、はるちゃんみたいにムダのない綺麗に筋肉のついた身体になりたいよ。だれよりも速く泳げるようになりたいもん」
いつも渚は無邪気な子犬のようだ。
けれども、その泳ぎを見れば、内面の熱を感じることができる。
泳いでいるときの渚は自分よりも先に進んでいる者がいると、腕が伸びるのだ。
小学生のころ、それを見て、凛は渚に泳ぎながらなにを考えていたのか聞いたことがある。
渚は答えた。
絶対に追いついてやるって、それだけ。
「牛乳を毎日飲んだりしてるんだけどね。これ以上は大きくならないみたい」
小柄な渚は朗らかに言った。
凛は眼を伏せる。
不機嫌だからといって、無神経なことを言ってしまった。後悔していた。
「気にしないで、凛ちゃん」
しかし、返って渚に気を遣わせてしまっている。それを感じた。
凛は眼をあげて、渚を見た。
渚は笑う。
「どうしても、気になるっていうのなら、今度、映画見に行くの、つき合ってよ」
「……別にかまわねぇけど」
「やった!」
喜ぶ渚を見ながら、凛は映画と思い、ハッとなる。
「もしかして、ものすごいスプラッタなヤツなのか……?」
江から渚がホラー映画を得意としていると聞いたことがある。恐いもの見たさで江は怜とともに渚おすすめのホラー映画を見に行って、あまりのグロさに、さすがに気分が悪くなったそうだ。
「ううん、違うよ」
渚は否定する。
「ハリウッド映画で、凛ちゃんなら字幕読まなくても英語聞き取れるんじゃない?」
「ああ、まあ、そうだな」
「じゃあ、次の日曜日でどう?」
「大丈夫だ」
こうして、凛は次の日曜日に渚と映画を見に行くことになった。

日曜日。
凛は渚と一緒に映画館に入った。
渚がチケットカウンターで告げた映画はたしかにホラーではなかった。
凛は渚の隣の席で映画を鑑賞する。
映画はホラーではなく、感動系だった。
しかも、ストーリーが良く、演じている俳優もうまい。
凛の心に訴えかけてくる。
これは、ヤバい。
隣にいる渚が気になる。
凛はうつむいて、スクリーンのほうを見なくなった。
だが、文化祭のとき渚が言ったとおり、凛は字幕を読まなくても英語を聞き取ることができる。
スクリーンを見ていなくても、聞こえてくる声や音から、話がどうなっているのかだいたいわかってしまう。
凛はこらえきれなくなった。
頬を涙がつたうのを感じる。
やがて、映画は終わった。
「……こっち見るんじゃねぇよ」
「うん、見ないけど、凛ちゃんが泣いてるの知ってるよ?」
さらっと渚は言った。
どうせバレているだろうとは思っていた……。
バレているのに隠しているのは返ってみっともない気がして、凛は渚を見た。
渚はにこっと笑う。
「凛ちゃん、泣き虫でロマンチストなの変わらないね」
「悪かったな」
「ぜんぜん悪くないよ」
明るく渚は続ける。
「可愛いよ」
その台詞に、凛は眼を見張った。
そして。
「……年下のおまえに言われたくねぇ」
ぶっきらぼうに言い返した。
「ええー、年下とか関係なくない?」
「ある」
「ないよ!」
小動物のようなクリクリした眼を凛に向け、渚は強気に言い切った。

あとで凛はその映画のうたい文句が、全米が泣いた! であることを知った。