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凛誕!

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男子校(鮫柄学園水泳部)



深夜。
鮫柄学園の寮内は静かだ。まだ起きている者もいるだろうが、このぐらい夜遅くなってくると大きな音をたてるようなことはしない。
凛の部屋は灯りが消えている。
もう寝ると決めて消灯した。
凛は寝付きがあまり良くない。
しかし、同室の似鳥は寝付きが良い。もうすっかり夢の国に行っているのではないだろうか。
凛は寝返りを打った。眠っていないわけではないが、浅い眠りだ。
ふと。
ガチャッと部屋の扉が開けられた。
「サプラーイズ!!!」
聞き覚えのある太い大声が、凛の耳を打った。
直後、パッと部屋が明るくなって、その光が閉じているまぶたに突き刺さってくる。
凛はガバッと上体を起こした。
部屋の出入り口のほうに眼をやる。
そこには御子柴をセンターにして水泳部員たちが立っている。
「松岡」
御子柴が笑った。
「誕生日、おめでとう!」
その言葉が合図となり、御子柴を含む何名かが手に持ったクラッカーを鳴らした。
色とりどりの細長い紙が部屋に放たれ、舞い落ちる。
凛の頭上でもクラッカーが鳴った。
頭上にあるのは二段ベッドの上のベッドだ。鳴らしたのは、間違いなく似鳥だ。
やがて、似鳥が上からおりてくる。
「先輩! 誕生日おめでとうございます!」
明るく弾んだ声が凛の誕生日を祝った。
どうやら夢の国に行ってなかったらしい。もしかしたら、携帯電話でこの部屋が消灯したことを御子柴たちに知らせたりしたのかもしれない。
とりあえず、凛はベッドから離れることにした。
そのあいだに水泳部員たちがベッドと勉強机のあいだの床にテーブルを運んできた。
さらに、水泳部員一名がケーキを持ってきて、そのテーブルに置いた。
顔よりも大きいサイズの円形のケーキだ。
「誕生日と言えばケーキだからな!」
御子柴はそう言って、ケーキをテーブルに置いた部員を指さした。
「コイツが料理得意だから作ってもらったんだぞ!」
「……手作りケーキっすか」
俺、甘いもんは苦手だって、このひとに言ったことなかったっけ……?
そう凛は思った。
言ったことがあったとしても、忘れたのかもしれないが……。
「おまえは肉とキムチが好きだから、その味のケーキにしてもらおうかと思ったんだが、コイツから無理と言われたんだ。残念だったな!」
「いや、ちっとも残念じゃないです」
そういうといきは、わざわざケーキにしないで、肉とキムチそのものをくれと言いたい。
まあ、いくら好物とはいえ、この時間から肉を食べる気はあまり起こらないが……。
「だが、コイツの作ったものだから確実にうまい、はずだ」
「なんで、うまいのあとに、はずだって取って付けたんっすか?」
「そのうまい、はずの、ケーキ、丸々、おまえが全部食べていいんだぞ!」
「これ一個、全部っすか!? 無理っす!」
甘いものは苦手でも食べられないほどではない。しかし、この大きさを全部なんて厳しすぎる。
そんな凛の訴えを無視して、水泳部員がナイフを渡してくる。
そのナイフでホールケーキを切れということだろう。
自分の誕生日を祝ってくれている者たちの好意を無にすることはできかねるし、全部食べなくてもいいだろうと思って、凛はケーキにナイフを入れた。
その凛の手にだれかの手が重ねられた。
「ケーキ入刀!」
水泳部員が司会者のように声を張りあげた。
「僕たち幸せになります!」
似鳥が宣言した。
ナイフを持った手に手を重ねてきたのは似鳥である。
凛はジロリと似鳥を見る。
似鳥は野に咲く花のように笑う。
「こんな頼りない僕ですが、一生懸命がんばって、必ず凛先輩を幸せに」
「変なこと言ってんじゃねえよ!」
凛は似鳥の台詞の途中で怒鳴り、似鳥の頭を叩いた。
「イタッ」
似鳥は声をあげ、上体をひいた。
とはいえ、凛はある程度加減していたので、それほど痛くはなかったはずだ。
「じゃあ、先にプレゼントを渡そうか」
御子柴が部屋の空気を切りかえるように言った。
その御子柴の手に水泳部員一名がプレゼントらしき物を渡す。
「松岡」
そう呼ばれたので、凛は立ちあがった。
凛は御子柴の正面まで進んだ。
御子柴は綺麗にラッピングされた物を凛に差しだした。
「みんなからおまえへの誕生日プレゼントだ」
「ありがとうございます」
凛はプレゼントを受け取った。
「フォトフレームだ」
御子柴はきりっとした表情で話す。
「今年の全国大会で活躍して、そのときの写真をここに飾ってくれ」
「部長……」
なんだか胸がじんわりとした。
「松岡、中を見てくれ」
「はい」
素直に凛は包装紙をはがしていき、中にあった白い紙箱も開けた。
その箱に収まっているのは、御子柴が言った通り、フォトフレームだ。
ただし。
フォトフレームにはすでに写真が入っている。
「なんっすか、これ」
凛は思いっきり眉根を寄せた。
「なにって、おまえの勇姿だ」
堂々と御子柴は答えた。
フォトフレームに入っている写真、それは文化祭での鮫柄学園水泳部伝統の冥土喫茶での凛の写真だ。
つまり、メイド姿の凛の写真だ。
あのときのメイド凛は絶大な人気を集めたが、凛本人にとっては黒歴史でしかない。
俺の感動を返せ……!
凛は胸の中で叫んだ。
それを口に出さなかったのは、さっき感動していたことを御子柴に言いたくなかったからである。
感動したぶん、怒りは倍増だ。
凛はフォトフレームから写真を取りだした。
フォトフレームはテーブルに置き、写真を破って紙吹雪のようにして捨てようとした。
凛が写真を破りかけたとき。
「松岡、写真の裏を見てくれないか?」
そう御子柴が言った。
だから、凛は破ろうとしていたのをやめ、写真を裏返した。
写真の裏には文字が書かれていた。
「書いたのは俺だが、みんなの思いだ」
おまえの未来は、きっと明るい!
そう御子柴の字で書いてあった。
凛は御子柴を含めた水泳部員たちの顔を見渡した。
みんな、笑っている。その笑顔は温かい。
「……」
これでは、破り捨てられない。
「じゃあ、ケーキの続きをやるか」
「部長! ローソク忘れてます!」
「ああ、そういえばそうだったな。誕生日といえば、ケーキに歳の数のローソクで、その火をふーって消さなければならんな!」
「……いや、別にそんなことしなくていいっす。まじで、いいんで」
「松岡! おまえがローソクの火を消しているあいだ、ちゃんとみんなでハッピーバースデーの歌、歌ってやるからな!」
「いや、ほんっとに、そーゆーのいらないんで」
断る凛の両横にたくましい身体の水泳部員二名が立ち、凛の腕をがしっとつかんで、テーブルのほうへとつれていき、ケーキのまえに座らせる。
ケーキに凛の歳の数だけローソクが立てられ、火がつけられた。
凛は覚悟を決める。
そして、水泳部員たちによる勇ましいハッピーバースデーの歌が始まった。











作品名:凛誕! 作家名:hujio