【ジンユノ】SNOW LOVERS
頭上の枝の雪は、名残のようにとさとさっと雪の固まりを零し、やれやれとばかりに反動で軽く揺れている。幸い、先に落ちてきていた雪だまりの上でもあるので、どこも痛くはないし怪我もないようだった。ただ、突然のこと故少し呆然として、とっさに状況判断ができない。
「だ、大丈夫……?」
「ジンくんこそ……」
腰を抜かしたかのように足を投げ出し座り込んだジンの上に、横抱きされるような形でユノハも身を竦めて座ってしまっていた。思わず顔を見合わせる。二人して、吹き溜まりに突進したのかと言いたくなるほど雪まみれだ。置かれた状況の把握より先に、その滑稽さに二人して吹き出してしまった。
「ジンくん、雪まみれです」
ユノハが手を伸ばし、ジンの頭の上半分を覆うように積もった雪を払ってやる。
「ユノハの方こそ、酷いよ?」
ジンの方でも、左手で抱えたユノハを無意識に支えながら右手で彼女の髪をすっかりコーティングしている白をどけてやろうと手を伸ばしかけた、その手に、何か触れた。
それはいつの間にか雪玉を握っていたユノハの右手で、正確にいえばその雪玉がジンに押し付けられていた。
伸ばしかけていた腕を止め、思わずそれを凝視する。顔をあげると、上目遣いにどこか表情を強張らせたユノハと目が合った。
「十回。これでわたしの勝ち、です」
唖然としてジンは、再度ユノハに見入ったが、またすぐくつくつと肩を震わせ、笑った。
「狡いなぁ、ユノハ。アクシデントに乗じて狙ってくるなんて」
「こ、こんな時だからこそ、です……」
押し付けた雪玉を持った手が離れて落ちた。軽く握っただけだったらしい、即席の雪玉はそのまま崩れてただの雪へ還る。
ユノハがジンを見る。その瞳はすぐに恥ずかしそうに逸らされた。それを、ジンは残念だと思う。
もっと、見ていたいのだ、そう気付く。
「あーあ、負けちゃったよ」
「わたしの勝ち、です」
ユノハは小さくそう繰り返すだけで、身動きもしない。俯きがちな口元に組んだ小さな両手に白い息が零れているのが微かに判る。
ジンは、さっき伸ばしかけた手をもう一度伸ばし、雪を被ったままのユノハの髪からそれをそっと払ってやった。
「でも実を言うと、君に負けるのはそんなに悔しくならないんだ」
ピクリとユノハの肩が揺れた。一瞬躊躇するも、構わずに、ジンは続けて丁寧に雪を払う。そうすると、彼女の髪に触れる。それはふわふわと、触り心地良く感じて、ジンは髪から白い雪片が見当たらなくなってもまだ、いけないと思いつつも撫でるように髪に触れるのをやめられなかった。
そうか、触れたかったんだ。今更のようにジンは思う。そうだ、不思議に悔しさを感じなくなったのだ、あの時から。
想定外の力で自分に初めて敗北感を与えた相手。データ不足だっただけ、と嘯いてみても、心中穏やかじゃなかったのに、当の相手がこの少女だと判った時に生まれたのは悔しさでも敵愾心でもなく、尽きぬ興味と混乱だった。惑い、抗い、悩みはした気がする。でも結局、ジンは素直に負けを受け入れた。そうしてみると、それは屈辱でも何でもなく、思いの他心地よかったのだ。
彼女に魅かれてる、それだけの事。単純で、同時になんて深くて強い。
ジンはとうの昔に彼女に完敗してるのだ。今更悔しいなんて、思う訳もない。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA