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【ジンユノ】SNOW LOVERS

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「お願い聞くって、約束だよね。いいよ、何でも言って?」
 弾かれたように、ユノハが顔をあげた。瞳がジンを映す。その瞬間に、心の奥底から湧きあがる熱がある。今初めて刻まれたように鼓動が高鳴る。
 ユノハの唇が小さく開き、溜息のように、あ、と小さな声が白い息とともに零れた。その、唇に視線が行く。
「何……でも?」
「何でも……ユノハの言うとおりに」
 髪の毛に舞い落ちた小雪を払うふりをして、前髪を掬う。秀でた額の下の大きな瞳は、何か真剣な色を帯びていた。それが予想外で、更にジンはどきりとする。
「じゃぁ……じゃぁね、だったら……」
 言いかけて、躊躇うように口籠る。どうして惑うのだろう、なんだって聞いてあげると、そう言っているのに。ジンは少し不思議に思った。思いながら、じっと耳を傾けて、縋りつくように自分を見上げる彼女の言葉を待つ。
「……っと……っしょに…………たしと、……っと……いて」
 一言も漏らすまいと聞き耳を立てるのに、わななくような唇から洩れるそれは吐息程の掠れた声で、うまく聴き取れなかった。
「え? なに? 何て言ったの? ごめん、ちゃんと聴きとれなかった。もう少し大きな声で言ってよ」
 するとユノハは俯いてしまう。
「あっ、ごめん、違う、責めてる訳じゃ……ええと、ちゃんと聴くからもう一回。もう一回言って?」
 慌ててジンがユノハの肩に手を置き、彼女の顔を覗きこむように言うと、ユノハは少し眉尻を下げ、困ったような顔で微笑んで、ごめんなさい、とちらりと舌を覗かせた。
「嘘です。――ホントはジンくんの勝ち」
「え? でも……」
 するとゆるりと首を振る。
「ううん。だってほら、ジンくんが投げた最後の雪礫でわたし、雪まみれになったじゃないですか。ジンくんの作戦勝ち、ですね」
「あれはたまたま……っ、で……」
「いいんです。だって、わたしだってあれじゃただのずるっ子ですもん。だから、やっぱりジンくんの勝ち」
 にっこりと、ユノハは微笑んだ。そこにはつい先ほどまでの何か張り詰めたような感覚は消えていて。
「ね? だから、何でもお願い、言ってみて」
 憂いを感じさせない真っ直ぐな表情で、首を傾げてじっと見つめてくる。
「なんでもジンくんの言う事、聞いちゃいます。――わたしにできる事ならなんだって」
「何でも……?」
「なん……でも」
 そう言われて、それじゃぁ何を、そう考えてジンは判らなくなった。ユノハに願いたい事。頼みたい事。して欲しい事。望む事。
 瞳を逸らせないまま、鼓動だけが跳ねあがる。考えがまとまらなくて、妙に目の前の少女を意識して、そうして改めて気付いてしまう。
 彼女は今、彼の膝の上にいる。抱きかかえるように。まるで、自分のものだと言わんばかりに。

 ふわり、と、また淡雪が目の前を過ぎる。それは見つめあう二人の視線の間を縫って、ユノハの鼻先を掠め口元に落ちた。思わずジンは、そこに指を伸ばす。ごく小さな雪の粒はジンが払うより先に半ば溶けて水滴に変わり、ジンの指はそれを拭うように、ユノハの唇をなぞった。
 ぴくん、と、その瞬間ユノハが震え、ごまかすように視線は下げられた。何をしたのか、無意識の行為にジンも驚いて手を引き戻す。ユノハはといえば、触れられた唇を覆うように両手を宛てがい、それから俯いたまま、ぎゅ、と身体を竦めるようにして、どこか空々しく、両手にはぁと息を吹きかけぎこちなくそれを擦った。
「あ、あの。寒いね」
 顔をあげて、照れかくしに笑う。
「えと、雪弄りしてたから、手、実はもうずっとかじかんでるの。ジンくんは平気?」
「僕は手袋してるから……ああ、そうか、ごめん、き、気付かなかった。大丈夫?」
 思わずジンは、ユノハの手を取った。組んだその手を両手で閉じ込めるように。ユノハの肩が、小さく震えた。
「……あ……」
 一瞬見つめあって、彼女は瞳を伏し目がちにまた俯いてしまう。手を引こうとする気配があって、離すまいと逆にぎゅっと握りこんだ。何故そうしてしまったのかジンにも判らない。けれど、ユノハもそれ以上無理に手を引こうとはしなかったし、そもそも先程から、ジンの膝の上に座る形でいる、その体勢から離れようとはしていない。とても、近い。身体が触れるほど近くにいて、更に自分の取った行動のせいで余計、胸が膨張するんじゃないかと思う程に心臓が張り詰めて脈打つ。血流が多すぎるのか、頭の芯に靄がかかり、理性が急速に遠ざかる。照れの内側に押し込めて隠そうとする望みが、今ははっきり顔を出し、彼を支配する。
「寒い、の?」
 俯いてしまった、その伏せ目がちな瞼を縁取る睫毛の震えも、丸みを帯びた柔らかそうな頬の輪郭も、全部全部、好ましかったけれど。
 でも、一番見たいのは。
 ユノハの組んだ手を握る左の手はそのままに、ジンは右手をユノハに伸ばし、項垂れて顔にかかる髪を払うように、その下から彼女の頬に手を伸ばす。戸惑いよりも強い願望が、その手を彼女の頬に吸い寄せた。そのまま撫でるように頬を伝い、顎から頬にかけて掬うようにユノハの顔をそっと上げさせ、瞳を覗きこむ。
 一番見たいのは、この大きな瞳。見つめあうと、瞳の水晶を通して内から彼女に繋がる気がする、深くて吸い込まれそうだった。
 驚いたように瞳を大きくするけれど、今度はユノハの方でも視線を逸らす事はしなかった。意志ではない、もっと深い感覚的な何かに引き寄せられ、まじないにかかったように。
 手に触れる頬は、手袋越しにもジンに高い体熱を伝えてくる。
「でもユノハのほっぺたは温かいね。――熱いくらい」
「……さっきから頬が熱くて。手は凍えてたのに、変ですね」
 答える瞳も、熱っぽく潤んで見えた。
「じゃぁもう寒くはないの?」
「……うん。何でかな、寒いのが飛んでっちゃうみたいに、身体が火照って。――ジンくんは寒くない?」
「僕は熱い。君に触れてるところが、すごく――溶けそうなくらい」
「え、そんなに? ヤダ、ごめんなさいっ」
 一瞬夢から醒めたような表情に戻って身を引きかけたユノハに追いすがるように、ジンはその手を離さなかった。
「なんで? あったかくて気持ちいいのに」
 それで吃驚したように、ユノハがひとつ、瞬いた。引きかけた身体を戻し、代わりに添えられた手に頬を軽く預けるようにして瞳を伏せる。口元にほんのり笑みが刻まれていた。
「ジンくんの手、冷たい」
「え? あ、そうか、雪触ってたから手袋が濡れて……ごめん、気付かなくてっ」
 慌てて手をのけようとしたら、今度はユノハが自分から頬をその手に擦りつけるように首を振った。ジンの手の上から自分の手を重ね、首を傾げるようにそこに頬を押し付ける。
「――冷たくて、気持ちいい、です。わたしの頬が熱すぎるのかな。でも、ジンくんが温かくて心地良いのなら、このままで」
 再び開けられた瞳は、どこか微睡むようにやわらかくジンを捉えた。
「うん――あったかい。……ユノハは、あったかいね」
「……そう、ですか?……良かった……」
 じんわりと熱が移る。その熱を、もっと身近に感じたくて、ジンはもう片方の手もユノハの頬に沿わせた。それに気づいて、ユノハが傾いでいた顔を少し戻した。また視線が絡まる。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA