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【ジンユノ】SNOW LOVERS

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 さっきからまた降り始めてる雪が数を増し、夜の中に白い光になって舞い散っているのに、今の二人にはそれさえ見えていなかった。互いの瞳に自分が映る。雪あかり程度では判らないはずのそれを心が感じ取る。そこにユノハがいる、ジンがいる、互いにそのことだけで頭がいっぱいになって、それ以上のことは何も考えられなかった。
 ただ彼女を見て、感じていたい。ぬくもり一つ、逃さぬように。
 でもそれには、手袋が邪魔だ。ジンは思った。手袋越しのぬくもりじゃ足りない。もっと直に、肌でそれを感じたい。脱いでしまおうか。そう思った時、雪がひとひら二人の間に滑り落ちた。
「あ」
 小さな囁きがユノハの唇から漏れる。視線が外れて雪を追う。
「駄目だ、ユノハ」
 ――そらさないでよ。僕を見ていて。
 子供っぽい我儘が不意にジンを支配して、両手に挟んだユノハの顔を上向かせた。その白く滑らかな頬の上に、より真っ白く儚げな綿毛にも似た雪の粒が舞い落ちた。繊細な結晶は彼女の熱で触れたと思うとすぐに崩れて水滴に変わろうとしている。それを拭ってやろうとして、ふとジンは気づいた。
 雪さえ入り込まないくらい、距離を近くしてしまえば。
 顔を寄せる。溶けきらない結晶をかすかに残した水滴は、指先の代わりにジンの唇が拭い取った。そのまま、ユノハの頬に唇が押し当てられた。
 あたたかい。ダイレクトに伝わるそれは、手で触れたよりさらに熱く感じた。それに、触れた瞬間、唇に感じた柔らかさに彼自身が驚いて、微かに離れる。
 ――今の、なんだ。
 感じたことのないような鋭い感覚に驚く傍から、ふっ、と、戸惑いの声がユノハの唇から熱い吐息になって零れ出て、それは顔を寄せていたジンのすぐ耳元を擽った。
 ユノハの吐息。そう思ったら、またせり上がるような熱に支配される。体内で鳴り響く脈動が思考を灼き、彼を縛った。さっきより近い位置で、影になったユノハを見つめる。ユノハもジンを見ていた。薄明かりの中、影が落ちていて表情なんかよくわからないはずなのに、その事だけは強く感じる。見えない力、引力のようなもの。惹きつけられるまま、吐息の源を感じ取るようにもっと。近く。
 絡み合った視野は近すぎて焦点さえ合わず、耐え切れぬようにユノハが瞳を伏せるのを感じながらジンも薄くまぶたを落とす。
 そうだ、さっきみたいに。ゼロ距離で、布切れ一枚の遮るものもなく。
 わざわざ手袋を外すまでもない、触れられる場所は他にもあった。薄い皮膚の下、尖るような鋭さで、重なる瞬間に痺れるような波が駆け抜ける。

 柔らかい、あたたかい、未知の感覚。

 軽く、押し付けるようなそれが、所謂くちづけというものだという認識はあとから来た。
 ジンはスクリーンの中でしか、実際に見たことがない。それでもこれが特別な行為だということは知っていた。たとえ親しい仲でも、やすやすとはできない。特別な上に特別な、これは親密な行為だ。
 親密で、もっと言えば恋人たちが愛を確かめ合う、そういう行為。
 やった後から認識が追い付いて、頭の一部が急速に冷えた。なんてことを。
「ご、ごめ……ん……」
 ユノハの許可も得ず、とてもいけないことをしたのではないのか。そう思い至り、その行為の先にあるかもしれないユノハからの手酷い拒絶の可能性を思って、理性の部分でジンは焦った。だが、頭の半分は麻痺したようで、もっと、と望んでいる。後ろ髪惹かれる思いをどうにか引き剥がし、顔を離してユノハを見れば、ゆるりとあげられた瞳は潤み、眉根は下がって困ったような怒ったような顔をしている。ああ、しまった、やっぱり嫌がられたのか、そう思うと体熱が急速に冷える。力を失うように、手がユノハから離れた。
「……イヤ。謝らないで……」
 けれど次の瞬間、ユノハの取った行動はジンの予想を覆した。
「……だって。わたし――わたし、が……」
 思いつめたような表情で、伸び上がったユノハは自分から離れようとするジンの片手を掴み、もう片手で自身の体重を支えるついでにジンの肩口あたりの服地を引き寄せんばかりに握って、そうして自らジンに顔を寄せたのだ。
 ぎゅっと目を閉じて、探すように、最初は鼻の頭がちょっと擦れて、そこから探り当てるように横にすべらせた唇が、さっきと同じ、やわらかな感触をジンの同じ場所へ残す。
 やっぱり押し付けるように、でもそれも一瞬で、再び遠慮がちに身体を離したユノハは、驚きに目を丸くしたままのジンの前で怯えるように瞳をあげた。
「……キス、嫌ですか? したくなかった、の?」
 自信なさげなか細い声に、ワンテンポ遅れてジンは慌てて首を小刻みに横に振った。
「違う! したい」
 また、目と目が合う。冷えかけた心にあっという間に熱が甦る。さっき以上に熱い歓びを持って。
「したい。……もっと」
 ユノハは微かに頷いて、やはり少し困ったような表情のまま、恥ずかしそうに瞳を伏せる。一度触れたのに、初めてそうするみたいに緊張と高ぶりに跳ね上がる鼓動を苦しいくらいに感じながら、でもやめるという選択肢は思いつきさえしなかった。
 至近距離で、見つめるユノハの睫毛が小さく震える。
 それだけ確認して、やっぱりジンも目を閉じた。暗転する世界で、感覚だけがやたらに鋭敏になる。さっきユノハがしたと同じ、鼻先がコツンと触れた、その感覚を頼りに少し顔を傾げるようにしてユノハの唇を探り当てた。触れた瞬間、ユノハの体がぴくりと揺れたのが判る。擽ったいようなチリっとした感覚が微かに背を走り、それから柔らかい優しい弾力とぬくもりが唇から伝わってくる。
 やわらかい。それを感じただけで、鼓動が更に高まる気がした。
 ゆっくり確認するように、でもほんの少しの間、押し付けただけのキスをして唇を離す。そうすると、さっきまで重なっていた唇から熱っぽい吐息が零れ、それがまたジンの唇を至近距離で甘く擽った。甘い。甘くていい香りがする。
 目を開けると、ユノハも同じく瞼が上げられるところで、また目が合った。体が火照る。息がうまくできない。それでもやっぱり引き寄せられて、ジンは再度、ユノハに口付けた。ユノハの方も、拒む素振りは全くみせない。それに乗じて、もうジンも遠慮の欠片もなく、何度も何度もキスをした。キスの仕方なんか知らないから、ただもう唇に唇を押し付けるだけで、触れてる間の熱と、触れる瞬間と離れる一瞬の得も言われぬ初めての小さな悦楽を感じるので手一杯で、おそらくユノハもそれは同じだった。
 触れては離れ、離れては触れて。度々、タイミングを測ったように瞳をあげては目が合って、互いの視線に引きこまれてまた拙く唇を求める。それだけで無我夢中で、何も考えられなかった。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA