【ジンユノ】SNOW LOVERS
プレゼントを明るいところで見たいから、と、明かりの下へ戻ろうと二人は雪の中を歩きだした。今度は手を繋いで、白い世界をゆっくり歩く。ぽつぽつと灯る常夜灯の明かりを反射する雪の世界が歩く先に、どことなく青みを帯びた仄白さで闇に浮きあがって見えた。その世界を再び覆うように雪が降っている。
「雪、いつの間にか沢山降ってきてますね」
「うん。――凄いね」
ちらちらというには少し嵩を増して、夜闇の中に次々に浮かび上がる白い綿毛。くるくると舞うように幾つも灯りの中に飛び込んで、静かに視界を埋め尽くす。かといって、吹雪くと言う程でもない。
夢のような光景に目を奪われていると、やっぱりユノハがどこか夢見るような声で、綺麗ですねと、そう言った。
「うん」
同じ思いだと伝えるように、握る手の力をやや強くすると、同じようにぎゅっとユノハが握り返してくる。
繋いだ手を妙に意識してしまいながら、無数の雪片の間を縫うように、二人は言葉少なに噛みしめるような速度で歩いた。足元で雪が鳴る。周囲の立ち木からか、極微かにシャラシャラと、遠い雨音にも似た雪が積もる音が硬質で透明感のある音を奏でていた。それ以外には、驚くほど音がなくて、まるでふたりきり、いつもの学園と異なる異空間に紛れ込んでしまって、他には誰も居ないような錯覚さえ覚える。でも今は、その二人だけの世界が心地よかった。降りしきる雪の幻想の薄い膜に切り取られ、他には誰もいない。どんな邪魔も入らない。
校舎入り口の段状のポーチまで戻り、そこに人待ち顔で座っていた本物のタマを迎えに行く。そのまま寮へと戻るのもなんだか勿体無くて、まだもう少し一緒にいたくて、二人はどちらからともなくその足で、再び雪タマだるまの元へと足を運んだ。本物のタマにも見せてやろうと、そういうのである。
雪だるまは作った時と少しも変わらず、大小並んでそこにいた。違うのは、ユノハが踏台代わりにしていたひっくり返したバケツの底に、うっすらと雪が積もっていた事くらいだ。
「こうしてみると、どっちもどっちでタマとは微妙に顔が違いますね」
雪像の前で本物のタマを掲げたユノハが見比べて首を傾げる。
「そう? ユノハのは良く出来てると思うけど」
すぐ近くの明かりが白く届く位置で、ジンはさっきもらったプレゼントを明かりに翳しながらユノハの様子を横目で見ながら応えた。それから手元の包みに視線を戻し、ひっくり返してしげしげと眺める。
それは青色の包装紙の上に赤紫色のものを、更にその上に灰色のそれを合計三枚、ずらせて重ね、斜めに走る重ね目で下の色が見えるような塩梅で丁寧に包まれた上から、光沢のある金と銀のリボンを二重に掛けてあった。そのリボンも、単なる蝶結びではなく、コサージュのようにふわふわと何重にも輪を作り花が咲いたような結び方がされていて、その中心に、更に小さな木の実を模した造花まで付いている。
あんまり綺麗だから解くのが躊躇われて、このまま宝物として大切に仕舞いこんでおこうか、とか真剣に検討しかけたところで、ユノハが、先程からジロジロ包みを見続けている様子を不審がって声をかけてきた。
「あの、それ、何処か変ですか?」
「え? いや逆。すごく綺麗だなぁって……このまま飾っておきたいな。一生大事にする」
「えぇっ? 大げさですジンくん。……でもそれね、実はジンくんのイメージでラッピングしたんですよ? だから気にいってもらえたのなら嬉しい」
「僕を?!」
そう言われてまた手元の包みを見る。自分をイメージして、自分のために、そう思うと頬が熱くなった。
「……なんだか僕には勿体無いよこれ。けどすごく……嬉しい」
しかし、だとするとますます折角の包装を解いてしまうのが残念でならない。躊躇っていると、見透かされたように、開けてみてもらえないんですかとユノハが訊いてきたので、綺麗なラッピングは解体せざるを得なくなってしまった。まぁ、確かに中身も気にはなる。
意を決して、開ける前に再びしげしげと特別なラッピングを目に焼き付けると、ジンはユノハの傍に戻り、そこにあったバケツの上の雪を払って椅子代わりに腰掛けて、膝の上で包みを解いた。中から品のいい黒い箱が現れて、蓋をあけるとふわりと甘い香りがした。見ると、中に横一列で等間隔に敷居が付けられていて、そこに一つづつ、黒っぽいつややかな石のようなものが、薄い紙で出来たひらひらとした縁取りのカップ状のものに包まれて並んでいた。中には白いものもある。
「これって……」
一つを手にとって見る。見た目通り固い。何に使うものなのか、ジンは初めて見る代物だった。
「えっと、チョコレート……あのっ、手作り……なんです、一応。バレンタインにみんなでチョコレート作ろうって話になって、その時に……。あっ、ちゃんと教えてもらいながらですし、味見もしたから、だ、大丈夫です、食べられます!! それに、あの、綺麗に出来たの選ってきたから、見た目もそこまで悪くない……と思うんです、けど」
悪くない、どころか、宝石みたいだとジンは思った。一つ一つ、違うトッピングがしてあって、カラフルで、何かの飾りのように見える。食べられる、とユノハが言うからには食べ物なのだろうが、食べるのが勿体無いくらいだ。しかも、ユノハが作ったのだという。胃袋に収めて消してしまうより、もう永遠にとっておきたい。きっと毎日でもこっそり取り出して眺めていられる。
「ユノハすごいや……」
黒いひと粒を雪明かりにかざしてしげしげと見る。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA