【ジンユノ】SNOW LOVERS
「ゼシカさんは、チョコレート渡しに行ってたんですか?」
「え?!」
記憶の風景に意識を取られていたゼシカは、夢から醒めたばかりのように、急に声をかけられ戸惑い慌てた。咄嗟になにを言われてるのか、掴みかねる。
「ほら昨日。ゼシカさんが作ってた、赤い包装紙のあれ、カグラくんに、ですよね」
「あ、う、うん……見てたんだ。判っちゃった?」
「はい。きっとそうだろうなぁって。今朝、朝食の後に用事があるって席を立ったのも、ひょっとしたら渡しに行ったのかなぁって思ってたんです。……その様子だと、ちゃんと渡せたみたい?」
「まぁ、いちおーねぇ。うん。んま、アイツ意味なんか判ってないだろうけど、受け取ってもらって食べてもらえたから、いいかなって」
「あ、判りますそう言うの。良かった、お似合いだなぁって思ってたので、何だかわたしまで嬉しいです」
「えっ!? あ、あいつは別にそう言うのじゃ……ヤメテよ〜、あんな野良わんこなクソ男とお似合いとか! 鳥肌立っちゃう」
「ふふっ、だけどいつも仲良さそうですし。きっとカグラくんも、ゼシカさんが一番話しやすいんですよ」
「そ、そうかなぁ……」
「そうですよ」
ニコニコと、人思いの少女は、いつもの優しい笑みを浮かべる。
でもいつも、他人の事ばかりで……
あの時作ってたチョコレートは、どうしたのだろう。そう思ったのを見透かされたかのようにユノハが言った。
「わたしもね、渡せました」
「えっ?」
「チョコレート。美味しいって、言ってもらえました」
呆気にとられたように目を丸くするゼシカに、よどみない笑顔でユノハは応じる。
誰に?
思わず訊こうとして開きかけた唇は、続く言葉に迷って悪戯に開閉して終わる。
答えは判っている筈だ。だって他にいやしない。
彼女が渡す相手。心を込めたと容易に知れる、あのラッピングの完成品を見た瞬間、自然とイメージされた少年の姿。彼以外にありえない。
加えて、ラッピングのリボンが飾られてた事から単純に考えれば、ユノハがあれを渡した相手が、この雪だるまを一緒に作った人、と、そう言う事になるのだろう。
だけど。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA