【ジンユノ】SNOW LOVERS
雪だるまはまだ、丸いタマを二つ重ねただけのシンプルな状態だ。頭も乗せただけで安定が悪い為、首の固定を兼ねて接合部に雪を足し、ついでにタマがいつも巻いているスカーフを模して造形しようとユノハが持ち出した。
「ちょっと待ってて下さいね」
そう言い残して、ユノハが石像に背を向け雪の中を駆けていく。何かと思えば、すぐに戻ってきた彼女は、どこからか大きな鉄製の防火バケツを持ってきていた。
「これ、多分用務員さんの忘れ物かと。中庭の隅で見つけて、さっき使ってたんです」
両手で取っ手を持って、そうジンへとそれを差し出して見せると、ユノハはにこっと得意そうに笑った。これに雪を入れて集めよう、と、そういう事らしいとジンもすぐ察した。
さっきと言うのは、小さい雪像を作りかけてた時のことだろうか。
「それなら僕が。満タンになると重いでしょ」
ジンはユノハの手からバケツに手を伸ばす。気付いたユノハが手を離し、ジンにそれを譲った。
「えと、じゃぁ、お願いしちゃっていいですか? 出来れば綺麗な雪が欲しいんですけど。植え込みの葉っぱの上とかからも、これ使えば掻き集めやすいと思うので」
「うん、判った。雪集めてくるから、ユノハはタマの続き頼むよ」
「はい。でもあの、もうひとつ……持ってきたいものが。すぐ、すぐに戻るから、まだ帰らないで、ここで待ってて。すぐ戻りますから!」
そう言い残すとユノハは再度、暗がりに沈む雪の中庭に姿を消してしまった。
心配しなくても、ユノハを置いて戻ったりしないのに。タマだって作りかけなんだし。
そう思いながら、待つ間に指示通りジンは雪を集めた。バケツの雪は、押し固めてしまうと造形に使いにくくなるので、できるだけ押しこまずに、いっぱいになれば雪だるまの足元に中身を空けて雪溜まりをつくり、また同じことを繰り返す。集めた雪がちょっとした小山を作る頃、遅いなと思いつつふと顔をあげた彼は、明かりが届くか届かないかの薄闇の先に人影を見出した。ユノハだ。
やけにゆっくりとした足取りで、その足元がどことなく覚束ない。ジンはバケツを抛って駆けだした。よくよく見ると、彼女は何か両手で抱えていた。どうやら最初に見かけた小さな雪だるまらしい。
「ジンくん。ごめんなさい、迎えに来てくれたの?」
「いや、それよりもそれ、先に作りかけてたヤツだよね。言ってくれたら僕が取りに行ったのに」
自然と身体が動いて、ジンはユノハの前に回り込むと、抱えた雪だるまを上から抱え上げる。重いけれども、さっきの頭ほどではない。
「ご、ごめんなさい。どうせならこちらも完成させて二つ並べようかなって……ただの勝手な我儘なのに」
おろおろと、ユノハがジンを見上げるのに、ジンはむしろ穏やかな気分で微笑み返した。
「いいよ。作りかけは気持ち悪いでしょ、ユノハも。それに僕も、二つ作る分長くユノハと一緒な訳だし……」
言ってから、二人でいたいのだと言ってるようなものだとジンは気付いた。ユノハが気恥かしそうにもじもじと俯くのに更に動揺して、ジンは慌てて言い繕った。
「ええとつまり、た、雪タマだって一人じゃ気の毒っていうか。二体いれば、友達みたいでいいかもなって、今思ったし」
足元を確かめるような少しゆったりした足取りと裏腹な、焦ったような早口で告げると、隣で同じように歩く速度を落として並ぶユノハが勢い良くこくりと頷いて、パッと顔をあげた。離れた位置から微かに届く常夜灯の仄白い明かりの中でも、彼女の瞳が期待を込めるように大きく瞬いたのが判る。
「そうなの! 並べたら友達ができて雪タマだって喜ぶんじゃないかなって、ジンくんも思う? だって……」
勢い込んでそう言って、それからふと、向かう先に白く浮かび上がる作りかけの大きな雪だるまを見やった。半呼吸ほど置いて、何かを思うように声のトーンが静かに落ちる。
「一人じゃ淋しいから……」
そしてまた、ジンを見てにっこりと微笑んだ。
「ジンくんが来てくれて、吃驚したけど、すごく嬉しかったんです。やっぱり一人より二人の方がもっと楽しい、です」
一瞬見惚れて、ジンは無言でこくこくと頷いた。
「ぼ、僕も……君と一緒は楽しい、から」
すると、またにっこり笑ってユノハがはしゃぐように駆けだした。壁際の大きな雪だるままであと僅か。
その手前でくるりと振り向いてユノハが、「一緒ですね」と、さっきより少し大きな声で告げ、ジンに手を振ってみせた。
作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA